チェイシング サンセッツ
Maison Margiela(メゾン マルジェラ)のChasing Sunsets(チェイシング サンセッツ)は、1965年のブラジル・イパネマの夕暮れをマンゴー、カルダモン、チューベローズ、サンダルウッドで表現したレプリカのオードトワレです。果汁感のあるマンゴーが白花の熱を通り、クリーミーな木の余韻へ沈む構成で、甘すぎないトロピカルと記憶の物語性が重なります。
#414 · 2026-07-07
香水の基本情報と第一印象
Maison Margiela(メゾン マルジェラ)のChasing Sunsets(チェイシング サンセッツ)は、REPLICA(レプリカ)ラインから登場したオードトワレです。舞台として示される記憶は、Ipanema, Brazil, 1965(イパネマ、ブラジル、1965年)。海辺の夕暮れ、ボサノヴァの気配、日常から少し心を逃がすような開放感がテーマになっています。
第一印象は、熟したマンゴーの明るさです。ただし、キャンディのように一直線に甘い香りではありません。グアテマラ産カルダモンが温かいスパイスとして入り、果汁感の輪郭を少し引き締めます。そこからチューベローズの白い花が広がり、最後はニューカレドニア産サンダルウッド、バニラ、クリスタルモスでやわらかく落ち着きます。
この香水を一言でいうなら、マンゴーと白花が沈む夕陽の余韻です。太陽が高い昼のビーチではなく、少し涼しくなり始めた夕方のリゾート。果実の明るさと、花の熱、木の温度が同時にある一本です。
調香師・ブランドの背景と制作秘話
調香師はElise Bénat(エリーズ・ベナ)、Dora Baghriche(ドラ・バグリッシュ)、Coralie Spicher(コラリー・スピシェ)、Gabriela Chelariu(ガブリエラ・ケラリウ)の4名です。マンゴーのわかりやすい果実感だけで終わらせず、カルダモン、チューベローズ、サンダルウッドで立体感を作っているところに、チーム調香らしい層の厚みがあります。
メゾン マルジェラは、1988年にMartin Margiela(マルタン・マルジェラ)とJenny Meirens(ジェニー・メイレンス)がパリで設立したメゾンです。ファッションでは、既存の服の構造を解体し、匿名性や記憶の痕跡をデザインに取り込む姿勢でも知られています。
レプリカ フレグランスは、場所、年代、瞬間の記憶を香りで再現するラインです。チェイシング サンセッツでは、イパネマの夕暮れという座標に、自由への渇望や心の逃避行が重ねられます。SNSや情報量の多い日常から少し離れ、夕陽を追いかけるような感覚。それが、甘いトロピカルではなく「記憶の香水」としての奥行きにつながっています。
香りの詳細分析
トップはマンゴー アコードとグアテマラ産カルダモンです。マンゴーは、熟した果肉やジュースを思わせる明るいスタートを作ります。カルダモンは爽快というより、温かくスパイシー。フルーツの甘さを大人っぽく整える役割です。
ミドルはチューベローズ アコードです。チューベローズは濃厚な白花として知られますが、この香水では夜の重い花というより、夕陽を浴びたソーラーフローラルの印象です。ここでマンゴーの甘さが白い花に包まれ、ミルキーなビーチ感やサンスクリーンのような連想が生まれます。公式ノートにココナッツはありませんが、そう感じる人が多いのはこの重なりによるものです。
ラストはニューカレドニア産サンダルウッド、バニラ アコード、クリスタルモス。サンダルウッドがクリーミーな木の軸を作り、バニラが丸みを足し、クリスタルモスが軽いグリーン感と陰影を残します。全体の流れは、マンゴーで始まり、白花で温度を上げ、木の余韻で肌に沈む三幕構成です。
他の香水との比較・ポジショニング
第411回で扱ったBeach Walk(ビーチ ウォーク)は、昼の砂浜、ココナッツミルク、イランイラン、ムスク、塩っぽい肌の記憶が中心です。チェイシング サンセッツは同じ海辺でも、マンゴー、白花、サンダルウッドによる夕方の香り。ビーチ ウォークが白い日差しなら、こちらはオレンジ色の残光です。
第394回で扱ったTom Ford Soleil Blanc(トム フォード ソレイユ ブラン)は、白花、アンバー、ココナッツを含む高級リゾートの白昼の太陽です。チェイシング サンセッツは、ソレイユ ブランほど濃密で官能的な方向ではなく、マンゴーの明るさと木のやわらかさで、よりカジュアルに夕方へ寄せています。
Vilhelm Parfumerie Mango Skin(ヴィルヘルム パルフューマリー マンゴー スキン)と比べると、マンゴー スキンは果実をより濃く、甘く、やや夜向きに見せる香水として語られます。チェイシング サンセッツは、マンゴーを主役にしながらも、チューベローズとサンダルウッドで日中から夕方に使いやすいバランスへ整えています。
購入ガイド・価格・おすすめ度
現時点の展開はオードトワレです。日本では10ml、30ml、100mlのサイズがあり、価格はそれぞれ5,500円、12,210円、24,970円(税込)です。米国公式では10mlが36ドル、30mlが89ドル、100mlが170ドルで案内されています。濃度違いで迷う香水ではなく、選ぶポイントはサイズと肌での出方です。
最初に試すなら、10mlまたは30mlが扱いやすいと思います。トップのマンゴーだけで判断せず、30分後から2時間後にチューベローズとサンダルウッドがどう残るかを見るのが大切です。人によっては、果汁感、グリーン感、石けん感、ミルキーさの出方が変わります。
おすすめしやすいのは、甘すぎないトロピカル、マンゴー、白花、クリーミーなサンダルウッド、レプリカのストーリー性が好きな人です。一方で、一日中強く香る香水を求める人、チューベローズの甘さが苦手な人、リアルな海風やアクアティック感を期待する人には、少し違って感じられるかもしれません。
実際の使用感・シーン・評判
使いやすい季節は春夏、特に夏の夕方です。旅行、休日の外出、リゾート、屋外の食事、ホテルラウンジなど、少し気分を切り替えたい場面に合います。服装なら、リネンシャツ、白いTシャツ、軽いワンピース、カジュアルなリゾートスタイルと相性がよい香りです。
公式の持続時間は3から4時間。実際の印象では、2時間ほどで肌寄りになるという声から、5から6時間ほど残るという声まで幅があります。強く遠くまで香らせるタイプというより、近い距離でマンゴーとサンダルウッドの温度が伝わる香りです。まずは1から2プッシュで、夕方の空気に合わせるのがきれいです。
評判では、マンゴージュースのような明るさ、クリーミーな白花、ココナッツを思わせるビーチ感がよく語られます。逆に、チューベローズが石けんっぽく出る、グリーンやセロリのように感じる、思ったより早く肌寄りになるという反応もあります。この揺れも含めて、チェイシング サンセッツは肌で試す価値のある香水です。
ビーチ ウォークと重ねる公式提案、Sunset by the Coast(サンセット バイ ザ コースト)も面白いポイントです。昼の砂浜に夕暮れのマンゴーを重ねるような発想で、レプリカの中で一日の時間を香りでつなぐ楽しみがあります。夏の夜が始まる前に、少しだけ日常から離れる。そんな心の逃避行を、マンゴー、白い花、木の余韻で描く一本です。





