ジェイド888
アマゾンの森を題材にしながら、土や苔よりスズランの白い明るさと清潔な肌を残すジェイド888。公式9ノートがアルコールフリー基剤の上で早くから重なり、近距離で穏やかに続く白緑色の香りです。
#444 · 2026-08-06
香水の基本情報と第一印象
Hermetica Paris(エルメティカ・パリ)のJade888(ジェイド888)は、2018年に登場したアルコールフリーのオーデパルファンです。公式が置いた舞台は、葉が密生し、つるが絡み合うアマゾンの下草。けれど、香りは湿った土や苔を写実的に再現しません。スズランの白い明るさ、洋ナシの水分、ガルバナムの青苦さを、乾いたジンジャーと清潔なムスクへつなぎ、森の緑を都会の肌へ翻訳します。
つけた瞬間の色は、濡れた若葉と白い花を混ぜたような淡い緑。温度はひんやりしていて、軽いのに水の膜のような滑らかさがあります。クラシックなグリーン香水の鋭さを期待すると丸く感じられ、甘いホワイトフローラルを想像すると、茎やハーブの乾きに驚きます。その中間にある「白緑色」が本作の個性です。
濃度はオーデパルファンで、香水本体は50mLと100mL。1.5mLサンプルやディスカバリーセット内の小容量もありますが、EDTやExtraitといった別濃度ではありません。アルコールの鋭い立ち上がりがなく、香りの全体像が早めに見えやすい一方、肌に沿ってゆっくり比率が変わります。
調香師・ブランドの背景と制作秘話
調香師はAliénor Massenet(アリエノール・マスネ)。芸術家と科学者のいる家庭環境で育ち、美術史を学んだ後、Cinquième Sens(サンキエム・サンス)でMonique Schlienger(モニーク・シュリンガー)に調香を学びました。IFF(アイエフエフ)に18年間在籍した後、2016年にSymrise(シムライズ)へ移り、シニア・パフューマーとして活動した人物です。
彼女は2007年からMemo Paris(メモ・パリ)の香りを手がけてきました。メモ・パリの創業者Clara Molloy(クララ・モロイ)とJohn Molloy(ジョン・モロイ)が2018年に立ち上げたのが、エルメティカ・パリです。長い協働の先で、天然素材と合成分子、香水とスキンケアを一つにする新しいブランドを作りました。
一般的なエタノール基剤ではなく、水、保湿成分、香料を中心とするベースを使うのも、その思想の一部です。サトウキビを搾った後のバガスに由来する分子を使い、香りを運ぶだけでなく、肌に柔らかな感触を残すことを目指しています。ただし、アルコールフリーはアレルゲンフリーや低刺激と同じ意味ではありません。肌との相性は、成分表示を見ながら確かめたいところです。
Jadeという名は翡翠の滑らかさ、緑、長寿の石とされる徳へ。888は中国で幸運の数とされ、ブランドは可能性の無限も重ねます。さらにスズランも幸運の象徴で、フランスでは5月1日に幸運を願って贈る花です。石、数字、花という三つのラッキーチャームが、短い商品名の中で重なっています。
香りの詳細分析
公式のトップは、スズラン、洋ナシ、ガルバナムエッセンス。スズランは天然精油を一般的な蒸留で得にくく、香水では複数の分子で白い花を再構築します。本作のスズランは、透明な花、石けん、冷たい空気を思わせる明るさです。洋ナシは濃い果汁の甘さより水分と丸みを足し、ガルバナムが折った茎や青い樹液のような苦さを加えます。最初の数分から、白い花と若葉が同じ画面に立ちます。
ミドルは、ジンジャーエキストラクト、アイリスコンクリート、クラリセージエッセンス。ジンジャーはレモンキャンディーのような明るさより、切った根茎、乾いた繊維、冷たい辛さです。アイリスは濃い口紅や化粧箱より、冷たい布、薄い粉、滑らかな石に近く、香りと翡翠のイメージをつなぎます。クラリセージの乾いた茶葉のようなハーブ感が甘さを締め、白い花を中性的に整えます。
ラストは、シダーウッドエッセンス、アンブレットシードアブソリュート、ムスク。シダーが乾いた木の線を引き、アンブレットが種子と柔らかな植物性ムスクの丸みを添えます。最後は保湿ローションを塗った肌、洗いたての白いシャツ、静かなスパ空間のような近い残香へ。スズランの残像は消え切らず、冷たい緑が体温へ寄っていきます。
表示は明確な3段ピラミッドですが、実際の着用では、各層が交代するというより早くから重なります。直後にはジンジャーの気配もあり、中盤以降にもスズランが残る。アルコールフリー基剤による、大きく場面転換しないグラデーションとして捉えると、公式構造と肌での印象を同時に理解できます。
他の香水との比較・ポジショニング
Dior(ディオール)のDiorissimo(ディオリッシモ)と共通するのは、天然抽出が難しいスズランを香料で再構築し、白い花と緑を主題にすること。ディオリッシモはクラシックな花束と春の庭へ向かい、ジェイド888は洋ナシ、ジンジャー、ムスクによって、抽象的で中性的な肌香へ向かいます。花束としてスズランを楽しむなら前者、白い花を肌の近くで楽しむなら本作です。
Hermès(エルメス)のUn Jardin sur le Nil(ナイルの庭)とは、水分を含む緑、果実、春夏の日中に使いやすい軽さが重なります。ナイルの庭はグリーンマンゴーやシトラスの果汁と庭園の風が中心。ジェイド888はスズラン、乾いたジンジャー、スキンムスクが中心です。果汁と風を選ぶか、白い花と肌を選ぶかが分かれ目になります。
Chanel(シャネル)のN°19(ナンバー ナインティーン)とは、ガルバナムとアイリスが作る緑の緊張感が共通します。ナンバー ナインティーンは硬く苦く、構築的な輪郭を持つグリーン。ジェイド888は洋ナシ、スズラン、保湿基剤によって角を丸くしています。苦い葉の緊張感を求めるなら前者、柔らかな白緑色を日常で使うなら本作が向きます。
購入ガイド・価格・おすすめ度
2026年8月の取得時点で、米国公式は100mLを215ドル、フランスを含むWorldwideストアは165ユーロで掲載しています。日本正規流通では、50mLが19,800円、100mLが29,700円という掲載が確認できます。価格、容量、在庫は市場と時期で変わるため、購入時には公式または正規取扱店で確かめてください。
最初から大きなボトルを選ぶ前に、1.5mLや店頭試香で数時間を見るのがおすすめです。理由は、清潔感の受け止め方が大きく分かれるから。柔らかなスキンムスクや高級スパを思う人がいる一方、シャンプー、洗剤、デオドラントのように感じる人もいます。香りの変化が穏やかなことを使いやすさと取るか、単調さと取るかも判断点です。
旧ボトルは濃いエメラルドグリーンの縦長ガラスとゴールドキャップ。2023年前後のブランド刷新後は、淡いミントグリーン、フロスト感、丸みのあるロゴへ変わりました。これはブランド全体のデザイン変更で、別濃度や復刻ではありません。旧新ボトルで香りが違うという印象談はありますが、処方変更の公式発表はありません。
実際の使用感・シーン・評判
最も評価が安定するのは春から初夏の日中です。盛夏も少量なら、スズランとジンジャーの冷たさが清涼感になります。ただし、肌によってムスクと保湿感が甘く重く出ることがあります。秋は明るい昼、冬は白い花を軽くまといたい日に使いやすく、濃厚な温かさを求める夜には物足りなく感じるかもしれません。
オフィス、在宅勤務、カフェ、昼の食事、静かな美術館、移動日など、香りで場を支配せず、近い距離で穏やかに香らせたい場所に向きます。白いシャツ、生成りのリネン、淡いグレーやセージのニット、ミニマルなジャケットにも自然になじみます。
拡散は近距離から中程度、持続は肌で4〜7時間という声が中心ですが、2時間で弱くなる人も、8〜12時間や衣類で翌日まで残る人もいます。肌質、保湿状態、塗布量による差が大きいため、まず1〜2プッシュ。弱く感じてもすぐ追加せず、洋ナシの水分、ジンジャーの乾き、ムスクの残り方を数時間確かめます。
ブランドは、スプレーした香りを肌へ軽くなじませる使い方を案内しています。一般的な「香水はこすらない」という作法とは違う提案です。アマゾンという名から濃い森を期待するより、白い花と若葉が清潔な肌へ近づく香りとして試す。その静かな意外性が、自分の日常に必要かを肌で決めたい作品です。


