ラブ アフターレイン K.M.

ドルセーのラブ アフターレイン K.M.は、ペアとアルデヒドの水気を、白いアイリス、スズラン、柔らかな肌へつなぐフローラル・シプレです。湿ったモスとウッドが、雨の匂いではなく嵐の後の安堵を近い距離へ残します。

#428 · 2026-07-21

D'Orsay / Love After Rain K.M.

香水の基本情報と第一印象

Love After Rain K.M.(ラブ アフター レイン ケーエム)は、D'ORSAY(ドルセー)が2026年7月1日に日本で発売したオードパルファンです。日本公式ではアジア先行発売と案内されました。香調はフローラル・シプレ。商品ページにはフローラル、グリーン、ウッディとも記され、コンセントレーションは27%です。

第一印象をひとことで表すなら、ペアと白いアイリスに光る雨上がり。写実的な雨、濡れた土、アスファルトを再現する香りではありません。激しい雨が去ったあと、洗われた空気へ光と静けさが戻る。そのとき気持ちがほどける感覚を、果実、花、肌、苔の順で作ります。

最初はペアの水気とアルデヒドの白い光沢。そこからアイリスバターの粉感、スズランの透明な緑、アンブレットの肌感へ近づきます。最後に残るのはモスアコードの湿り気、トンカの穏やかな甘さ、ウッドの乾いた輪郭です。白く軽いだけではなく、足元へ薄い影が落ちるところに本作の個性があります。

透明なガラスに、黒い円筒形のマグネット式キャップ、白い手書き風ラベルを合わせたボトルも抑制的です。Frédéric Forest(フレデリック・フォレスト)が本作のために制作した線画と文字には、雨のような墨のにじみと、触れそうな二つの手が現れます。香りと絵のどちらも、説明しすぎない余白を残しています。

調香師・ブランドの背景と制作秘話

調香師のFanny Bal(ファニー・バル)は、ISIPCA(イジプカ)で学び、Dominique Ropion(ドミニク・ロピオン)の徒弟として経験を積みました。2025年にはGivaudan(ジボダン)のパリ拠点へシニア パフューマーとして加入しています。

彼女が本作で愛着を語るのは、ペア、スズラン、アイリスの明るさだけではありません。モスとウッドによる奥行き、そしてパウダリーという言葉を超えて身体を包むテクスチャーです。雨上がりを軽い水の香りにせず、白い粉、柔らかな肌、濡れた苔を同じ構造に置きました。ここが本作の要です。

ドルセーの物語は1830年に始まります。Alfred d'Orsay(アルフレッド・ドルセー)が、Marguerite de Blessington(マーガレット・ド・ブレッシントン)と自分の双方が纏える、ラベルのない小瓶に青いリボンを飾った香りを作りました。公式年表上の正式創業は1865年です。

2015年にはAmélie Huynh(アメリー・フイン)がメゾンとアーカイブを取得し、現代的な再生に着手しました。現在の香水は愛のさまざまな状態を扱い、二人で共有できるジェンダーレスな作品として設計されています。名前に添えられるイニシャルは、正体が明かされない人物の署名です。K.M.が誰なのかも公表されていません。使う人が自分の記憶を重ねられる仕掛けです。

香りの詳細分析

トップはペア、アイリス、アルデヒドです。ペアは熟した果物の甘さより、水分と淡い明るさを担います。アルデヒドが白い光沢と少し冷たい空気の線を加え、アイリスの粉感へ橋を架けます。雨粒を含む空気から、白い布へ視線が移るような入口です。

初期の着香者には、にんじん、きゅうり、バイオレットリーフを思わせる青さや土っぽさを感じた人もいます。これは公式ノートではなく、肌にのせたときの一つの感想です。ペトリコールを期待すると湿潤感が短く、早い段階でアイリスが中心になると感じるかもしれません。

ミドルはリリーオブザバレー、アイリスバター、アンブレット。アイリスバターが滑らかな粉感を作り、スズランが透明なグリーンを足します。アンブレットは花を大きく広げるのではなく、肌の近くへ引き戻します。化粧品や柔らかな布地を思わせる白さがありますが、スズランの水気があるため、完全に乾いた粉にはなりません。

ベースはモスアコード、トンカビーン、バイブラントウッドです。モスが湿り気を、トンカが控えめな甘さを、ウッドが乾いた輪郭を加えます。重く暗い森へ沈むというより、雨の去った地面が静かに体温を戻すような終わり方。公式は持続時間を示しておらず、初期レビューでは拡散が肌に近く、冒頭の後は比較的穏やかに続くと評されています。

他の香水との比較・ポジショニング

Diptyque Fleur de Peau(ディプティック フルール ドゥ ポー)は、パウダリーなアイリスとアンブレット系の肌感が共通します。フルール ドゥ ポーがムスクとアイリスによる素肌の温かさを中心にするのに対し、本作はペア、スズラン、モスアコードで水気と緑を残します。肌ムスクなら前者、白い粉へ雨上がりの湿度まで求めるなら本作です。フルール ドゥ ポーは香水ラジオ第8回でも紹介しました。

CHANEL 1957(シャネル ナインティーン フィフティセブン)は、白い清潔感、柔らかなパウダー、石けんを思わせる滑らかさが近い作品です。1957がムスクとアルデヒドで明るい白さへ向かうのに対し、本作にはモス、トンカ、ウッドの陰影があります。均質な白を選ぶか、白の下に濡れた緑を残すかが分かれ目です。1957は第256回で扱っています。

同じブランドのSur tes lèvres. E.Q.(シュール テ レーヴル E.Q.)も、アイリスを親密な距離へ置きます。初期の比較ではE.Q.の方が濃密で化粧品的、本作はペアとスズランで明るく、モスの湿度を持つと評されました。E.Q.は第108回で紹介しています。比較はいずれも初期の着香記録を含むため、似ている香水の断定ではなく、肌で違いを見るための補助線です。

購入ガイド・価格・おすすめ度

日本公式で確認できるのは、10mLのトラベルエディション、50mL、90mLです。いずれもオードパルファンで、ノート構成は同じ。税込価格は10mLが13,200円、50mLが27,500円、90mLが36,300円です。2026年7月20日時点で、公式なEDT、パルファム、エクストレ、フランカー、旧処方の案内は確認できません。

アジア先行発売の新作で、日本公式は注文を一人3本までに制限しています。発売直後は在庫や販売地域が動く可能性があるため、購入時に最新表示を確認してください。長く使う前提なら50mLと90mL、外出先で試す期間を取りたいなら10mLと、使用頻度から選ぶのが現実的です。

10mLは別濃度ではなく、持ち運びや少量から使うための容量です。ただし小容量でも価格は低くありません。最初のペアだけで判断せず、アイリスが粉感を増す段階、モスとウッドが肌へ残る段階まで試してください。

向くのは、清潔なアイリスに、水気、肌感、苔の陰影が欲しい人。甘い果実を主役にしたい人や、暗く重い古典的シプレを探す人とは少し方向が違います。写実的な雨や土の匂い、大きな変化、強い投影を期待する場合も、肌で一日確認したいところです。27%という数字だけで持続や拡散を決めないことが、購入判断では大切です。

実際の使用感・シーン・評判

似合いやすいのは春、梅雨、初夏の昼。雨の日の外出、静かなオフィス、カフェ、ギャラリー、近い距離の会話に合わせやすい香りです。真夏なら空調のある昼や夕方、秋冬ならアイリスバターとトンカの粉感を近距離で楽しめます。

服装は白や淡い色のシャツ、端正なリネン、薄手のジャケット、軽い雨のアウター。表面が滑らかで余白のある装いに自然につながります。黒い服に合わせればモスとウッドの影を拾えますが、香りの主役は暗い森より白いアイリスです。

初期の好意的な声では、穏やかなパウダリーアイリス、柔らかな布地、清潔な肌を思わせる質感が挙げられます。すれ違いざまに香りを褒められたという記録もあります。一方で、女性寄りに感じる、穏やかで変化が少ない、モスやウッドが弱いという声もありました。発売直後でレビュー数はまだ少なく、市場全体の評価とは言えません。

まず一噴きから、ムエットだけでなく肌で試します。ペアの水気が早く消えても、その後の白い粉と濡れた緑が好きかどうか。相手が近づいたときに分かる距離を心地よいと思えるかどうか。そこを確かめると、雨上がりという題名が、天気ではなく静かな感情として残ります。

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