インテンソ バジリコ
カルトゥージア「インテンソ バジリコ」は、ベルガモット、マンダリン、ピンクペッパーの明るさから、バジル、ティーリーフ、ジャスミン、パチョリへ進むグリーンな香りです。ハーブの青さに木質のマットな陰影が重なり、南イタリアの陽射しを乾いた質感で残します。
#376 · 2026-05-30
香水の基本情報と第一印象
Carthusia(カルトゥージア)のIntenso di Basilico(インテンソ バジリコ)は、2025年に発表されたIntenso Collection(インテンソ コレクション)の一作です。Basilico(バジリコ)、Ginestra(ジネストラ)、Mirto(ミルト)の3作で構成されるこのラインは、カプリ島や地中海の素材を、カルトゥージアらしい手仕事の文脈から、より現代的な香水へつなぐ新しい試みとして位置づけられています。
第一印象は、バジルをちぎった瞬間の青さだけではありません。ベルガモットとマンダリンの光、ピンクペッパーの軽い刺激が先に立ち、そこへバジル、ティーリーフ、ジャスミンが重なります。食材のハーブというより、白いリネンシャツに残る緑の空気、日差しと影のあるホテルロビーのような、整ったグリーンです。
名前にあるインテンソは、単純に強烈な拡散というより、香りの密度や余韻として受け取ると自然です。公式のフルボトルは50mlのパルファン。市場ではEDPやエキストレと書かれることもありますが、選ぶときはカルトゥージアのパルファン表記を基準に見ると迷いにくくなります。
調香師・ブランドの背景と制作秘話
カルトゥージアの物語は、1380年のカプリ島、サン・ジャコモ修道院の伝説に結びついています。ナポリ女王ジョヴァンナを迎えるため、修道士が島の花々を水に浸したところ、その水が芳香を帯びたという話です。近代ブランドとしては、1948年に古い処方書が見つかり、教皇の許可を得て科学者に公開されたことが、カルトゥージア誕生のきっかけとされています。
公式情報では、インテンソ コレクションにLuca Maffei(ルカ・マッフェイ)とAntoine Lie(アントワーヌ・リー)が関わっています。ルカ・マッフェイはカルトゥージアのA'mmare(アッマーレ)やTerra Mia(テッラ ミア)にも関わるイタリア人調香師で、アントワーヌ・リーは商業的ヒット作から前衛的な香水まで幅広く手がけるフランス人調香師です。バジリコ単体については第三者DBで2名が掲載されていますが、公式公開情報だけでは作品別の担当分担までは確認できません。
インテンソ コレクションは、ブランド自身が「パラダイムの革命」と呼ぶ新ライン。伝統的なカプリの物語を背負いながら、50mlの新フォーマット、鮮やかな色、ゴールドのアクセントを持つボトルで、より国際的で現代的なカルトゥージアを見せています。
香りの詳細分析
トップはベルガモット、マンダリン、ピンクペッパー。最初からバジルの葉を真正面に押し出すというより、明るい柑橘と少し乾いたスパイスで、香りの輪郭を立ち上げます。ここはかなり陽性で、バジル香水というより、まずシトラスグリーンとして入ってくる印象です。
ミドルで主役になるのがバジルです。ただし、ペストやトマトを思わせる料理のバジルではなく、ティーリーフとジャスミンで抽象化された葉の香り。ジャスミンティーにバジルの葉を一枚浮かべたような透明感があり、青いのに粗くない。湿った葉というより、乾いた空気の中で整えられたグリーンです。
ラストはカシュメラン、パチョリ、ベチバー。カシュメランが柔らかいウッディムスクの質感を作り、パチョリが少し土っぽい深みを、ベチバーが清潔な苦みを足します。ここで香りは、軽い夏のコロンではなく、肌に残るマットな木質へ変わります。持続は複数資料で6〜8時間程度とされ、グリーン系としては弱すぎず、ただし空間を大きく支配するタイプでもありません。
時間が経つと、最初の柑橘の光は落ち着き、茶葉とバジルの透明な青さ、カシュメランの現代的な木質が近くに残ります。トップだけで判断すると、柑橘が強い、または少し洗剤的に感じる人もいます。試すなら、30分後に出てくる茶葉と木質まで見ると、この香水の狙いがわかりやすいはずです。
他の香水との比較・ポジショニング
Jo Malone LondonのLime Basil & Mandarin(ライム バジル & マンダリン)と比べると、共通するのは明るいシトラスハーバルです。ただ、ジョー マローンは軽やかなコロン的爽快感が中心。インテンソ バジリコは、ティーリーフ、ジャスミン、カシュメラン、パチョリ、ベチバーによって、より香水らしい密度とウッディな余韻があります。
Hermès(エルメス)のEau de Basilic Pourpre(オー ド バジリック プープル)は、紫バジルとシトラスの透明なコロン構造として近い比較対象です。エルメスがすっと抜けるグリーンだとすると、カルトゥージアは茶葉とジャスミンの陰影、ベースの重みで、もう少し肌に残る方向へ進みます。
Guerlain(ゲラン)のAqua Allegoria Mandarine Basilic(アクア アレゴリア マンダリン バジリック)は、果実感と明るさが前に出るバジルシトラス。インテンソ バジリコは、マンダリンの明るさを持ちながら、ピンクペッパー、茶葉、カシュメランで、バジルをより現代的なグリーンウッディへ寄せています。
第156回で扱ったAesop(イソップ)のVirēre(ヴィレーレ)と比べると、どちらも現代的な植物感や茶葉の陰影を持ちます。ヴィレーレはイソップらしい乾いた建築的な透明感。インテンソ バジリコは、カプリの地中海性とバジルの主役感が前に出る香りです。
購入ガイド・価格・おすすめ度
インテンソ バジリコは、日本公式で50ml税込35,200円、イタリア公式で€145が確認されています。カルトゥージアの通常ラインより上位の価格帯として見たほうがよく、気軽にブラインド買いするより、まずはインテンソ コレクションのサンプルキットや店頭試香から入るのが現実的です。
おすすめしやすいのは、普通のシトラスでは軽すぎるけれど、甘い香りや重いウッディは避けたい人。バジルの青さ、茶葉の透明感、カシュメランのマットな余韻を、清潔だけれど少し個性のある香りとして使いたい人です。
反対に、バジルそのものの食材感を期待すると、少し肩透かしになるかもしれません。ここにあるのは、厨房のバジルではなく、香水として整えられたバジルです。柑橘が強く出る肌では、冒頭が洗剤的に感じられる可能性もあるので、トップだけで判断しないほうが安全です。
実際の使用感・シーン・評判
似合う季節は、春、初夏、梅雨時、夏、初秋。真冬の重い香りではありませんが、ベチバーとカシュメランがあるので、夏だけの軽い香りでもありません。時間帯は昼から夕方。白いシャツ、麻のジャケット、きれいめなカジュアルに合わせると、清潔感の中に青い個性が出ます。
オフィスにも使えそうですが、つけすぎるより近距離で香る量が向いています。香り立ちは整っていて、グリーン系としては持続もありますが、強く拡散して場を支配するタイプではありません。自分の周囲に、青い葉と木質の薄い膜を作るような使い方が合います。
評判では、3作の中で最もエレガント、典型的にイタリアらしい、ジャスミンティーにバジルの葉を浮かべたようだ、という好意的な声があります。一方で、柑橘が強くてバジルが弱い、洗剤っぽい、もっと記憶に残る香りを期待した、という声もあります。この分かれ方は、バジルをリアルな食材ではなく、茶葉と木質で抽象化していることとつながっています。
インテンソ バジリコは、バジル香水でありながら、バジルだけを見せる香りではありません。カプリの古い修道院伝説を持つブランドが、2025年の新しいボトルで出した、青い葉とリネンの木質感。軽やかさの奥に、少しだけ大人の影を残す一本です。



