レリキア

フィリッポ ソルチネッリ「レリクヴィア」は、聖遺物と十字架教会の背景を持つ、UNUMらしい荘厳な香りです。宗教的な静けさと樹脂、煙のニュアンスが重なり、LAVSやアヴィニョンにも通じる硬質な余韻があります。

#349 · 2026-05-03

Filippo Sorcinelli / Reliqvia

香水の基本情報と第一印象

Reliqvia(レリキア)は、Filippo Sorcinelli(フィリッポ・ソルチネッリ)が2021年に発表したExtrait de Parfumです。ここでまず整理しておきたいのは、現在の公式構造です。ブランドはFilippo Sorcinelli、UNUM(ウナム)はその中のフレグランス・コレクション、Reliqviaが作品名です。ただしUNUMは初期から独立した香水ハウスのように見せられてきたため、販売店や香水データベースでは今も「UNUM / Reliqvia」と扱われることがあります。

第一印象は、冷たい聖堂の空気というより、聖遺物を収めた古い箱を開けたときの空気です。インセンス、パチョリ、ガイアックウッド、サンダルウッドといった木と煙の骨格に、ブラックカラント、スウィートオレンジ、ナツメグ、タバコ、スモークが暗い光を差し込みます。

香りのテーマは「聖遺物」。ラテン語のrelinquo、reliquiaeに由来し、残されたもの、遺物、キリスト教における聖遺物の意味を持ちます。単にお香っぽい香水ではなく、時間、保存、腐蝕、祈り、受難の釘までを含めて嗅覚化した作品です。

調香師・ブランドの背景と制作秘話

Filippo Sorcinelliは、香水だけの人ではありません。オルガニスト、写真家、デザイナー、そして祭服アトリエLAVSの創設者として知られる芸術家です。2001年にLAVSを設立し、教皇ベネディクト16世やフランシスコの祭服に関わった人物として複数資料で紹介されています。

香水づくりの出発点も独特です。完成した祭服や納品箱に香りを纏わせる習慣があり、そこから「嗅覚の仕立て」としてUNUMコレクションが生まれたと説明されます。現在の公式サイトではFilippo Sorcinelliが傘ブランドで、UNUMはMementoやAtmosphere d'Emotionなどと並ぶコレクションの一つです。

Reliqviaの舞台は、イタリア・マルケ州セニガッリアのChiesa della Croce、十字架教会です。1608年に建てられたバロック建築で、キリスト受難に関わる聖遺物を保管する場所とされます。ソルチネッリ自身はこの教会のオルガニスト兼芸術監督として関わっており、香りの物語は外から見た空想ではなく、彼自身の場所の記憶に根ざしています。

香りの詳細分析

Reliqviaで面白いのは、公式が一般的なトップ、ミドル、

ベースではなく、音楽的なSUBJECT、BACK SUBJECT、TAILでノートを示している点です。ソルチネッリが音楽家であることを考えると、香りを時間で揮発するピラミッドではなく、複数の主題が同時に鳴る構造として見せている、と考えると理解しやすくなります。

**SUBJECT**は、パチョリ、インセンス、カシミヤウッド、ガイアックウッド、サンダルウッド。ここが香りの核です。土っぽいパチョリ、宗教的なインセンス、古い木の温度が重なり、何世紀も香煙が染み込んだ木の長椅子や聖具庫のような質感を作ります。

**BACK SUBJECT**は、オレンジブロッサム、スコッツパイン、クローブ、マスティック、アミリス。ここでは白花、針葉樹、スパイス、樹脂が、木と煙の骨格に光と火の気配を足します。オレンジブロッサムは華やかな花というより、煙の間に差す微細な光。スコッツパインとマスティックは、古い木壁や礼拝堂の空気を思わせます。

**TAIL**は、エレミ、スウィートオレンジ、ブラックカラント、ナツメグ、スモーク、タバコリーフ。体感上はこの暗い果実と煙が立ち上がりで見えやすいという資料も多く、ブラックカラントとオレンジは明るい果汁というより、酸と金属感を帯びた暗い光として働きます。最後はインセンス、タバコ、木質、パチョリが肌に沈み、8〜10時間、レビューによっては10時間以上残る強い余韻へ向かいます。

他の香水との比較・ポジショニング

Reliqviaを考えるとき、まず近いのは同じFilippo SorcinelliのLAVSです。LAVSがよりまっすぐな教会インセンス、祭服や礼拝堂の香りとして語られるのに対し、Reliqviaはより湿り、木質、タバコ、暗い果実の陰影を持ちます。LAVSが礼拝の空間なら、Reliqviaは聖遺物の箱に近い香りです。

Comme des GarconsのAvignonとは、カトリック聖堂系のインセンス、古い石、煙という共通点があります。ただしAvignonが冷たい石造聖堂の煙として整理されやすいのに対し、Reliqviaは木、遺物、タバコ、ブラックカラントによる温度と身体性があります。

James HeeleyのEau Sacreeとは、乳香、樹脂、スパイスによる典礼感が共通します。Eau Sacreeがより古典的で整ったインセンスなら、Reliqviaは松、黒スグリ、煙、タバコで、木造の聖具室のような土気と湿度を持つ方向です。インセンス香水をただ「教会っぽい」でまとめず、どの空間のどんな質感かで選ぶと違いが見えます。

購入ガイド・価格・おすすめ度

現在確認できる肌用の公式仕様は、100mlのExtrait de Parfumです。EDTやEDPなどの別濃度は確認されていません。価格は公式で220ユーロ、日本のNOSE SHOPでは100ml 52,800円の掲載があり、ニッチ香水の中でも高価格帯です。サンプルやデカントを扱う販売店もあるため、まず少量で試すのが現実的です。

おすすめ度が高いのは、インセンス香水が好きな人、宗教建築や古い木の匂いに惹かれる人、香水をファッションだけでなく物語やアートとして楽しみたい人です。反対に、軽い清潔感、明るいシトラス、日常で万人に受ける香りを求める人には、かなり重く感じられる可能性があります。

ホームディフューザーとリフィルも公式に存在します。これは、Reliqviaを身体だけでなく空間に置くための展開です。作品の世界観を考えると、この香りは肌にまとう香水であると同時に、部屋そのものを聖具室のように変える香りとしても設計されていると見ることができます。

実際の使用感・シーン・評判

似合う季節は、晩秋から冬です。冷たい空気の中で、インセンス、松、タバコ、古い木が立体的に出やすくなります。春先の夜や冷房の効いた屋内でも使えますが、真夏の高温多湿、満員電車、狭いオフィスでは重く感じられやすい香りです。

シーンとしては、美術館、ギャラリー、クラシックやオルガンのコンサート、夜の読書、静かなバー、宗教建築を訪れる日などがよく合います。服装は黒いジャケット、ウール、モード、ゴシック寄り、静かなフォーマル。香りに物語性を持たせたい日ほど映えるタイプです。

評価ははっきり分かれます。ポジティブには「正確な教会の香り」「古いカトリック教会そのもの」「聖堂の木のベンチと香の煙」といった声があります。一方で、「カビっぽい」「日常使いは難しい」「香水というより空間の匂い」と感じる人もいます。Reliqviaは、誰にでも軽く勧められる香りではありません。ただ、煙と黒い果実が描く、聖遺物の箱のような世界に惹かれる人にとっては、代わりの見つかりにくい一本になります。

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