リヴィエール シアム
メゾン ド ラジー「リヴィエール シアム」は、オレンジブロッサムやスエードを通じて、朝の光から夕暮れの静けさへ移る時間を描く香りです。花の明るさに柔らかな革の陰影が重なり、映像のように滑らかに表情が変わります。
#339 · 2026-04-23
香水の基本情報と第一印象
Rivière Siam(リヴィエール シアム)は、2019年にシンガポールで創設されたMaison de L'Asie(メゾン ド ラズィ)が手掛ける香りです。ブランド名がフランス語で「アジアの家」を意味する通り、アジアの感性とフランスの伝統的な調香技術を融合させています。
タイのチャオプラヤー川の夕暮れをテーマに描かれたこの香水は、フローラル・ウッディ・ムスクの香調を持ちます。一言で表すなら、「透明で内省的、しかし明るい」。二律背反を抱えた、夕暮れの川辺のような静寂と温もりを感じさせる香りです。
賦香率35〜40%というクラシカルなExtrait de Parfum(エキストレ ド パルファム)濃度で作られており、水で薄めないという哲学的決断のもと、最高級の天然香料と持続可能な合成香料が贅沢にブレンドされています。
調香師・ブランドの背景と制作秘話
本作は、多文化な背景を持つ元投資家であり、母の死を契機に香水づくりへと舵を切ったブランド創業者Elizabeth Liau(エリザベス・リアウ)と、南仏グラースのマスターパフューマーとの共同制作によって誕生しました。
インスピレーション源となったのは、黄金色の光や伝統的な寺院の静寂と自然の調和が美しいタイ・チャオプラヤー川の情景です。ブランドの根底には「全てのアジアの香水は一つの映画である」という哲学があり、創業者リアウは本作について「イントロダクションから中核のストーリーを経て結末に向かう、映画のような変化を楽しんでいただけるよう、2時間経ってもさらに開いていく設計にしました」と語っています。
また、プロモーションでは古代ギリシャの哲学者ヘラクレイトスの「同じ川に二度足を踏み入れることはできない」という言葉が引用されました。香りがトップからベースへと一瞬ごとに変化しながらも、同じ一つの美しい情景を保ち続ける「流動する美」を見事に象徴しています。
香りの詳細分析
香りの変化は、ピラミッド型の構造を持ちながらも、時間の経過とともに「テクスチャー(質感)の変化」として感じられるのが最大の特徴です。
**トップノート** Orange Blossom(オレンジブロッサム)、Bergamot(ベルガモット)、Lavender(ラベンダー)が香ります。スプレー直後から、朝の川岸の生き生きとしたエネルギーを思わせる、フレッシュな清々しさとピリッとした明るさが広がります。ベルガモットの輝きとオレンジブロッサムの温かい光が交差する美しい入り口です。
**ミドルノート** Suede(ホワイトスエード)、Osmanthus(オスマンサス)、Sandalwood(サンダルウッド)が現れます。トップの輝きが落ち着き、クリーミーで滑らかなカシミアのような手触りと、木々の幹の温もりが交差します。2時間以上かけてゆっくりと深みが開いていく展開は圧巻です。 さらに、この奥底には微かなBirch(白樺)が忍ばされていると言われています。タイの寺院で実際に燃やされることはありませんが、近隣の寺院から響くひそやかな祈りの声や、そよ風に乗るお香の気配を表現するため、あえてこの香料が選ばれました。目に見えない祈りの煙を香りで描く、調香の魔法のような工夫です。
**ラストノート** Musk(ムスク)、Amberwood(アンバーウッド)、Vanilla(バニラ)が重なり、ドライで温かい、穏やかで官能的なまろやかな甘さに包まれます。水で薄めないためアルコールの揮発が穏やかで、最初から香料の重みを感じられ、夕日の温もりのような驚異的なロングラスティングを誇ります。
他の香水との比較・ポジショニング
サンダルウッドを主軸としたGuerlain(ゲラン)のSamsara(サムサラ)と比較すると、サムサラが重厚なベルベットのドレスのような東洋的な甘さを持つのに対し、本作はホワイトスエードによる現代的なテクスチャーとシトラスの透明感があり、非常に軽やかでモダンです。
また、BDK Parfums(ビーディーケー パルファム)のGris Charnel Extrait(グリ シャルネル エクストレ)と比べると、グリ シャルネルがパリの都会的な秋冬の雰囲気を持つのに対し、リヴィエール シアムはオレンジブロッサムやオスマンサスによる明るい入り口があり、熱帯的なゆったりとした時間の流れを表現しています。クラシックな骨格と現代的な透明感を両立させたい方におすすめです。
購入ガイド・価格・おすすめ度
本作は賦香率35〜40%の高濃度なExtrait de Parfum(エキストレ ド パルファム)のみの展開です。Eau de Toilette(オードトワレ)等を作らないのは、最初から香料の重みや深みを肌で感じてもらうためのブランドの決断です。
非常に高濃度なため、初めて試す際はごく少量を肌に直接のせて、ゆっくりと開いていく変化を楽しむのがおすすめです。衣服への直接噴霧は色移りの可能性があるため注意が必要です。無駄を削ぎ落としたミニマルなガラスボトルに、重厚な金属プレートがあしらわれたデザインは、洗練されたインテリアの中で静かな存在感を放ちます。
実際の使用感・シーン・評判
季節としては、シトラスの明るさと温もりのバランスが調和する春から初夏、そして穏やかな秋に最も美しく香ります。プロジェクションは爆発的に広がるのではなく、着用者の周囲に上品なオーラのように漂います。一方でシラージュは極めて優秀で、8時間から10時間以上、環境によっては翌日まで静かに残り続けます。
「軽くてクリーミーなフローラルに、高級な石鹸のようなノートが混ざり、まさにオールドマネー・シックな香り」と評されるように、洗練された印象を与えます。内省的な休日や読書、ギャラリー・美術館巡りなど、静かで上質な装いを楽しむシーンで頼りになる香りです。
さらに、ブランドは同コレクションの「Bali H'ai(バリ ハイ)」との重ね付けを推奨しています。バリ ハイの熱帯的な官能性に本作の静寂なスエードが加わることで、静かな川が広大な海へと注ぎ込むような壮大な香りの風景が生まれる、特別なレイヤリングも楽しめます。



