オスマンサス ユンナン

エルメス「オスマンサス ユンナン」は、金木犀と雲南紅茶を結び、杏のような花感と茶葉の渋みを淡く重ねたエルメッセンスです。香りは大きく広がらず、湯気と花が同じ杯の中でほどけるように静かに残ります。

#135 · 2025-10-01

Hermès / Osmanthe Yunnan

香水の基本情報と第一印象

Hermès(エルメス)のHermessence(エルメッセンス)から登場したOsmanthe Yunnan(オスマンサス ユンナン)は、Jean-Claude Ellena(ジャン=クロード・エレナ)が手がけたオードトワレです。エルメッセンスは、エルメスの本質を香りで表現するコレクション。公式では、主な素材として茶、オスマンサス、オレンジが示されています。

第一印象は、濃い金木犀ではありません。オレンジの明るさと茶の渋みが先にあり、その中に金木犀の花が薄く滲みます。日本の街角で強く漂う金木犀というより、冷たい白茶の表面に、アプリコットのような花の甘さが一瞬浮かぶ香りです。

金木犀と茶が滲む、紫禁城の記憶。そう捉えると、この香水の魅力が見えてきます。強く残す香水ではなく、短い詩のように現れて消える香水です。派手な甘さや大きな拡散ではなく、茶、花、果実、革の影を、薄い水彩のように肌へ置いていきます。

調香師・ブランドの背景と制作秘話

ジャン=クロード・エレナは、透明感と余白のある作風で知られる調香師です。2004年にエルメスの専属調香師となり、エルメッセンスを立ち上げました。彼の香りは、たくさんの素材を厚く積み上げるより、少ない線で情景を立ち上げるところに特徴があります。

オスマンサス ユンナンの出発点は、北京の故宮です。公式説明では、エレナが故宮を訪れたとき、オスマンサスの魅惑的な香りに捕らわれ、故宮のほうへ導かれたと語られています。その金木犀の花に、雲南の茶を組み合わせることで、この香水のアイデアが生まれました。

エルメスは、1837年創業のメゾンです。馬具、革、シルク、クラフツマンシップを背景に持つブランドであり、香水でも素材同士の出会いを大切にします。エルメッセンスは、2つの素材の型破りで類まれな出会いから生まれる香りのコレクション。オスマンサス ユンナンでは、茶と金木犀がその出会いを担っています。

香りの詳細分析

トップはオレンジと茶。つけた瞬間に、オレンジの軽い酸味と、茶葉の渋みがすっと立ちます。甘い金木犀が最初から広がるのではなく、まずは冷たい白茶や烏龍茶のような透明感があります。この入口があるので、香り全体はとても静かで、薄い水彩の一筆のように始まります。

ミドルでオスマンサスが見えてきます。オスマンサスは、花でありながらアプリコットや桃の皮のような果実感を持つ素材です。公式も、キンモクセイのアプリコットのようなノートと説明しています。ただし、ここでも花は濃く鳴りません。茶のまろやかさに金木犀が滲み、甘さは淡く、肌の近くでゆっくり広がります。

ラストについては、二次資料でアプリコット、レザー、ムスクのような余韻がよく語られます。強い革ではなく、エルメスのよく手入れされた革小物のような柔らかい影です。茶葉の乾き、果実の丸み、肌に近いレザー感が残り、香りは大きく広がるより、静かに薄くなっていきます。

他の香水との比較・ポジショニング

第134回で扱ったLouis Vuitton(ルイ・ヴィトン)のÉtoile Filante(エトワール・フィラント)と比べると、どちらもオスマンサスの果実感と透明感を持ちます。ただ、エトワール・フィラントはマグノリアとジャスミンで、流れ星のように明るく華やかです。オスマンサス ユンナンは、茶とオレンジで静かに沈む水彩の香りです。

The Different Company(ザ ディファレント カンパニー)のOsmanthus(オスマンサス)と比べると、ザ ディファレント カンパニーはよりオスマンサスを直接的に扱います。オスマンサス ユンナンは、雲南茶との組み合わせが核です。金木犀の花を見せるというより、茶の中に花を溶かしています。

Bvlgari(ブルガリ)のEau Parfumée au Thé Vert(オ パフメ オーテヴェール)と比べると、共通するのはエレナらしい茶の透明感です。ブルガリは茶そのものの清潔な軽さが中心。オスマンサス ユンナンは、茶の中に金木犀のアプリコット感と、柔らかな革の影が入ります。

購入ガイド・価格・おすすめ度

現行の日本公式ページでは、オスマンサス ユンナンは100mlで42,020円(税込)です。ページ上では、ブティックでのみ購入可能と表示されています。100mlと200mlのフラコンは、200mlレフィルで詰め替え可能とされ、長く使うオブジェとして設計されています。

おすすめしやすいのは、茶系香水、透明なオスマンサス、控えめで知的な香りが好きな人です。濃い金木犀を探している人より、白茶に花が滲むような香り、香りの余白を楽しめる人に向きます。オフィスや日常でも使いやすい一方、価格帯は高めなので、購入前の試香はかなり大切です。

注意したいのは、持続と拡散です。2〜5時間程度とする資料が多く、強く長く残る香水ではありません。価格に対して短いと感じる人もいます。つけた直後だけでなく、1〜2時間後の茶、オスマンサス、レザーの残り方まで見て判断したい一本です。

実際の使用感・シーン・評判

似合う季節は、春夏の午前から午後、そして秋の涼しい日です。春夏は茶とオレンジの透明感が気持ちよく、秋は金木犀の文脈で自然に使えます。真冬の厚い香りというより、涼しい室内、静かな外出、読書や茶の時間に向く香りです。

シーンとしては、オフィス、日常の外出、散歩、読書、ティータイム、近距離のデート、就寝前のリラックスに合います。白いシャツ、薄手のニット、柔らかいジャケットのような、余白のある服装と相性がいいです。香りを主役にするより、空気を少し澄ませるように使うときれいです。

評判では、冷たい白茶に金木犀、お茶の香りが魅力、金木犀感も雲南のお茶感もイメージ通り、上品、オフィスでも浮かない、といった声が目立ちます。一方で、持続性が物足りない、価格に対して短い、渋いお茶が強い、金木犀をもっと感じたいという声もあります。

オスマンサス ユンナンは、万人にわかりやすく甘い香水ではありません。茶の渋み、オレンジの明るさ、金木犀の淡い果実感、レザーの影が、短い俳句のように並びます。強く残らないのに、記憶には残る。そこに、この香水の静かな強さがあります。

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