墨茶

墨茶は、乾いた茶葉の印象と墨の静けさを重ねたオードパルファンです。ジャスミンと茶葉から、アイリス、ボルネオール、墨を経て、木とムスクを含む落ち着いた余韻へつなぎます。

#535 · 2026-11-05

P.Seven / Mor Thé

香水の基本情報と第一印象

P.Seven茶香水の墨茶は、茶葉と墨を主題にしたオードパルファンです。日本では2025年に登場し、墨花、墨竹と並ぶ「墨香」シリーズの一作として販売されました。墨香は、台湾の茶文化を香りにしてきたブランドが、墨の印象を三つの作品へ広げたシリーズです。墨茶はその名のとおり、茶を入り口に、書く時間へとつながる香りを描いています。

最初に掲げられるのはジャスミンと茶葉。中心にはアイリス、ボルネオール、墨を置き、最後にシダーウッド、ムスク、パチョリが続きます。茶葉はお茶をいれる前の乾いた葉を思わせる存在で、公式の言葉では「時の渋み」をまといます。甘いお茶の飲み物を思い浮かべるより、葉そのものの乾きと、墨の静かな印象を手がかりにすると、この作品の特徴が伝わります。

茶と墨が溶け合う、清らかで落ち着いた香り。墨茶に与えられたこの描写には、二つの素材の置き方が表れています。茶葉は最初、墨は中心です。墨は単なる名前の飾りではなく、香りの構成にも、作品が描く情景にも置かれています。華やかな花の香りだけで始まるのでも、木の香りだけで終わるのでもありません。茶葉から墨を経て、木とムスクへつなぐ組み立てが、静かな存在感を作っています。

この静けさを楽しむ場面として思い浮かぶのは、書き物をしたり、一人でゆっくり過ごしたりする時間です。墨香シリーズには、書くことを自分と向き合う時間として捉える発想があります。墨茶の第一印象を知るうえでも、茶葉と墨がなぜ一緒に置かれたのかが、大切な手がかりになります。

調香師・ブランドの背景と制作秘話

P.Seven茶香水は、2012年に台湾で創業したブランドです。創業者の潘はティーマスターであり、香りのデザイナーでもあります。ブランドの出発点にあったのは、お茶を飲む前に香りを楽しむ細長い器、聞香杯に残る茶の香りを、香水として残したいという思いでした。そこから生まれた代表作が台湾茗香水です。茶を飲み終えたあとにも残る香りに目を向けた発想は、墨茶にもつながっています。

台湾茗香水には、台湾の森の小さな茶屋で金萱茶を飲み、墨を擦って書を認める情景が重ねられています。その作品の最後に漂う墨の印象から、潘は墨花、墨茶、墨竹という三作へ発想を広げました。元の作品では情景の終わりにあった墨が、墨香シリーズでは主題になります。墨茶はその中でも茶葉を最初に掲げ、ブランドの起点である茶と、新たな主題の墨を近くに置いた一本です。

潘は墨の香りに、台湾の人々の親切心や温もりを重ねています。書く時間は、自分と向き合う時間でもある。墨香シリーズに込められたその考えを知ると、墨茶の落ち着いた香りは、単に静かな室内を思わせるだけではなくなります。茶を楽しむ時間から筆を取る時間へ、作品の背景にも流れがあります。

潘はシリーズの着想を担った人物として語られています。香りの制作背景とともに触れておきたいのが瓶です。墨香シリーズには、台湾のガラスメーカー、春池玻璃が手掛ける半手工のガラス瓶が選ばれました。一つずつ複数の工程を経て作られ、手仕事による個性を残す瓶です。茶と墨を通じて台湾の文化を描く作品に、台湾のものづくりも添えられています。

香りの詳細分析

墨茶の香りは、トップ、ミドル、ラストの順に示されています。トップはジャスミンと茶葉です。ジャスミンの花の香りに、乾いた茶葉の渋みを思わせる印象が重なります。ここでいう渋みは味を説明する言葉というより、甘さを前面に出さない乾いた質感を捉える言葉です。茶葉を最初に置くことで、作品の主題が冒頭からはっきり見えます。

ミドルにはアイリス、ボルネオール、墨が並びます。アイリスは粉を思わせる落ち着いた質感を持ち、ボルネオールはひんやりとした清涼感を思わせる素材です。そこへ墨が加わることで、花や茶だけでは終わらない、筆で書く情景が中心に現れます。墨の香りは、静かな夜の一筆のように立ち上がると描かれています。香料名を並べて見るだけではつかみにくい、この作品らしい静けさが集まる部分です。

ラストに置かれるのはシダーウッド、ムスク、パチョリ。木を思わせるシダーウッド、やわらかなムスク、土を思わせるパチョリが、茶と墨のあとに続く構成です。最初の乾いた茶葉と、中心の墨を、最後の三つの素材まで含めて眺めると、清らかで落ち着いた香りという全体像が分かります。木の乾きとムスクのやわらかさが並ぶことも、余韻の印象を考える手がかりです。

トップ、ミドル、ラストは、香りの配置を示すものです。何分後に墨が現れるか、どのくらい肌に残るかという時間までは示されていません。試すときは、茶葉の印象だけで判断せず、墨を中心に置いた部分と、最後に掲げられる木やムスクまで確かめたいところです。茶をはっきり感じ取れなかったという感想もあるため、茶と墨のどちらを強く感じるかは、肌で試す楽しみの一つになります。

他の香水との比較・ポジショニング

最初に比べたいのは、同じブランドの代表作、P.Seven茶香水の台湾茗香水です。茶と墨がともに物語に登場し、墨茶を含む三作は、台湾茗香水の最後に残る墨の印象から生まれました。台湾茗香水は、杉と台湾ヒノキの木の香りから始まり、ミルクのように甘い金萱茶へ移って、最後に墨の香りを残します。墨茶はジャスミンと乾いた茶葉を最初に、墨を中心に置きます。木の香りから甘いお茶へ移る香りが好みなら台湾茗香水、ジャスミンと乾いた茶葉に墨を重ねた香りが好みなら墨茶です。

茶とアイリスという共通点では、ビーディーケーパルファムのグリ・シャーネルとも比べられます。グリ・シャーネルはブラックティーにフィグとカルダモンを合わせ、サンダルウッドとトンカマメへつなぐ作品です。墨茶は茶葉にジャスミンを合わせ、アイリスと墨を中心に置きます。お茶と果物やスパイスを合わせた香りにひかれるならグリ・シャーネル。乾いた茶葉と墨の静かな印象にひかれるなら、墨茶を試す理由があります。

インクという題材からは、コム デ ギャルソン パルファムのコム デ ギャルソン 2が比較相手になります。こちらはインクにインセンス、マテ、マグノリアなどを合わせた作品です。墨茶は茶葉、ジャスミン、アイリスと墨を結び付けます。共通するのは書くことを思わせる題材で、香りの組み立ては異なります。インクを多彩な素材と合わせた香りを求めるならコム デ ギャルソン 2、お茶と書く時間のつながりを楽しむなら墨茶。三作と並べると、茶葉と墨をともに前面に置く墨茶の位置が見えてきます。

購入ガイド・価格・おすすめ度

日本向けの墨茶は、66mLのオードパルファンとして案内され、価格は税込22,000円です。価格や販売状況は変わるため、購入前には公式の商品情報を確認してください。容量のある一本を選ぶ前に香りを確かめたい人には、同じ墨香シリーズの三作を試せる墨香ディスカバリーセットがあります。墨花、墨茶、墨竹が各3mL入り、日本での案内価格は税込9,900円です。

三作の入り口は異なります。墨茶のトップはジャスミンと茶葉。墨花はチャイニーズローズとピオニー、墨竹はビターオレンジ、バンブーリーフ、ヒヤシンスを掲げます。共通する墨の主題を持ちながら、最初に感じる素材の方向が違うため、三作を少量ずつ比べる意味があります。墨茶だけを目当てにする場合も、茶葉と墨のどちらが自分の肌で際立つかを確かめると、一本を選ぶ判断につながります。

茶の甘さを期待する人より、乾いた茶葉の渋みと墨の落ち着いた印象にひかれる人に向く作品です。お茶の香水をすでに持っていても、書く時間という題材や、アイリス、ボルネオール、墨を中心に置く構成に関心があれば、試す価値があります。まずは肌で、トップからラストまでの印象を確かめてみてください。

実際の使用感・シーン・評判

墨茶を最初に手に取るなら、気温が落ち着く秋の夕方から夜を思い浮かべます。乾いた茶葉と墨の静かな印象は、書き物や読書をしながら、一人でゆっくり過ごす時間によく合います。冬の室内にも取り入れやすいでしょう。これは決まった着用場面というより、潘が墨に重ねた「書く時間」を、日々の過ごし方へつなげる提案です。

秋の書き物や外出なら、シャツに薄手のニットを重ねるような、気負わない服装が似合います。冬は厚手のニットとともに、落ち着いた室内で楽しむのもよさそうです。静かな食事や美術館へ出かける前に使うなら、まず少量を肌で試し、周囲との距離を考えて量を決めるとよいでしょう。暑い日の混み合った室内でも、香りの広がりを確かめながら使えます。

利用者の感想には、茶葉をはっきり感じ取れなかったというものもあります。墨茶は茶葉だけでなく、アイリス、ボルネオール、墨を中心に置き、最後にはシダーウッド、ムスク、パチョリを掲げる香水です。試すときは、お茶の香りを探すだけでなく、墨の静けさや木の余韻にも目を向けてみてください。茶と墨のどちらが印象に残るか。その違いも含めて、自分と向き合う時間に似合う一本かどうかを確かめられます。

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