ヴァニーユ 44
パリのシティ エクスクルーシブ。バニラの柔らかな甘さにインセンスとウッディな質感が重なる、秋冬の静かな時間に似合う香りです。
#485 · 2026-09-16
香水の基本情報と第一印象
ル ラボのヴァニーユ 44は、2007年に登場したパリのシティ エクスクルーシブ。都市ごとに用意された香水の一つで、濃度はオードパルファムです。調香はアルベルト・モリヤス。現行の単体に香りの濃度違いはありません。名前のバニラに、温かみのあるアンバー系の香りが重なります。甘い香りが好きでも、お菓子を思わせる甘さだけでは物足りない人に気になる組み合わせです。
印象的なのは、木質の香りとバニラの柔らかさを一緒に楽しめること。カシミアのセーターを思わせる感触で表現される香りには、温かみがあります。大きく広げるより、自分のそばで穏やかに感じたい。そんな日の候補として考えると、作品の個性をつかみやすくなります。
パリのために作られた一本を、旅先で出会う香りとして覚える楽しさもあります。一方で、日本でも通常サイズを手にできる時期があり、現地へ行く人だけの香水ではありません。都市との結びつきと、日常で使う一本としての相性。その両方から眺めたい作品です。
調香師・ブランドの背景と制作秘話
調香を担当したアルベルト・モリヤスは、1950年にスペインのセビリアで生まれ、スイスの香料会社フィルメニッヒでキャリアを築きました。カルバン・クラインのシーケー ワン(1994年)、ジョルジオ アルマーニのアクア ディ ジオ(1996年)、ケンゾーのフラワー バイ ケンゾー(2000年)、マーク ジェイコブスのデイジー(2007年)など、共作を含めて広く親しまれる香水に関わってきた人物です。
自身のブランド、ミゼンジールも妻クローディーヌと始めています。多くの人が知る香水を作る一方で、パリのための都市限定作品も手がける。その仕事の幅を知ると、ヴァニーユ 44のボトルから作り手への関心も広がります。
ル ラボは、ファブリス・ペノーとエドゥアール・ロッシが2006年にニューヨークで始めたブランドです。ペノーは、複数の香料会社に案を競わせるよりも、最適と考える調香師に仕事を任せる方法を語っています。香水の向こうにいる一人の作り手を大切にする姿勢です。
原料名と数字を組み合わせる名前にも、独特の考え方があります。名前は処方の中で重量が主となる原料、数字は原料数を表します。ヴァニーユ 44の44も、その仕組みによるもの。名前にバニラとあっても、肌の上ではウッディな質感やインセンスも現れます。名前だけで決めず、自分の肌で試したい香りです。
発売当初には、パリのセレクトショップ、コレットで扱われたという話があります。香水との出会い方を重視するペノーの姿勢と、都市ごとに一本を用意する仕組み。手にした場所を思い出しながら使う香水としても、ヴァニーユ 44は記憶に残りそうです。
香りの詳細分析
香りをつくる六つの要素は、バニラ、インセンス、グアイアックウッド、アルデヒド、マンダリンオレンジ、ベルガモット。甘い素材、木質の素材、柑橘の要素が一つの香りに重なります。
バニラは温かく甘い中心ですが、単独で強く押し出される印象より、ほかの香りとの柔らかなまとまりが特徴です。甘さを楽しみながら、木質の部分にも気づく。
インセンスはお香の香り。煙を思わせる側面が、バニラの甘さと重なります。グアイアックウッドは木質のノートで、乾いた木の質感を想像する手がかり。
ベルガモットとマンダリンオレンジは柑橘の要素です。アルデヒドは、一つの果物や花の名前ではなく、香料の一群です。
アンバー系という表現も、ここでは温かな甘さを伝える手がかりになります。琥珀そのものの匂いという意味ではなく、温かく甘い香調を指しています。
他の香水との比較・ポジショニング
ディプティックのオーデュエル オードパルファンは、バニラにお香や木質の要素を合わせる点が共通します。こちらではピンクペッパーとシプリオルも特徴。スパイスや、木と煙を思わせる香りが気になる人には、試し比べる理由があります。ヴァニーユ 44の柔らかなまとまりと、オーデュエル オードパルファンのスパイスの表情。甘さの強弱だけではない違いを楽しみたい比較です。
ゲランのスピリチューズ ドゥーブル ヴァニーユも、木質のバニラを考える際の候補になります。豊かなバニラに、ジャスミン、イランイラン、甘い樹脂のベンゾイン、シダーを合わせ、ラムや香辛料の箱を思わせる香り。ヴァニーユ 44の穏やかなウッディさに対し、花や洋酒を感じる甘さを楽しみたい人が気になる方向です。前者はスパイスと煙、後者は花と樹脂、ラムの豊かさが選ぶ軸。ヴァニーユ 44は、より静かな距離感を比べる基準になります。
同じバニラでも、合わせる香りによって選ぶ理由は変わります。スパイス、花と洋酒、あるいは静かなウッディさ。普段好きなバニラのどの部分を楽しんでいるかを考えると、次に試す一本も選びやすくなります。
購入ガイド・価格・おすすめ度
通常サイズは15ml、50ml、100ml。日本での税込価格は順に22,990円、52,250円、76,560円です。試香用の1.5mlは1,760円。サイズは香りの別バージョンではなく、同じオードパルファムをどのくらい使いたいかで選べます。価格や取り扱いは、購入時に公式サイトで確認してください。
パリでは通年、日本で通常サイズを手にできるのは9月、試香サイズは8月と9月です。使い終わった50mlと100mlのボトルは、日本のラボ併設店舗で通年リフィルを受けられます。新しく買う時期だけでなく、そのあと使い続ける方法も考えられる仕組みです。
透明な円筒形のボトルには、淡い紙色のラベルと黒い文字。香水名や容量、作成日や名前の欄があり、パーソナライズの選択肢も用意されています。名前を入れた一本を使い続ける楽しさは、都市限定という背景とはまた別の、身近な魅力になりそうです。
価格の高い一本だけに、限定性や名前の印象だけで決めず、肌での残り方も見ておきたいところ。柔らかく落ち着いたバニラを求める人には魅力がありますが、強く長く広がる香りを期待する人は、試香してから考えるとよさそうです。
実際の使用感・シーン・評判
合わせたいのは、秋と冬の落ち着いた日。暖かい服を着て出かけるときや、夜に近い距離で過ごす時間に、その温かな質感を楽しむ提案です。春なら肌寒い日に。暑い屋外で爽快さを求める日より、涼しい日に思い出したい香りです。
ニットなど柔らかな素材を着る日の雰囲気にも合いそうです。服に直接香水をかけるという意味ではなく、その日の装いと香りを一緒に選ぶ考え方。カシミアのセーターを思わせる感触を、香りと服装の両方から楽しめます。
使った人からは、甘すぎず柔らかい、インセンスやウッディさが落ち着くという声があります。一方で、長く穏やかに残る人も、早く弱くなると感じる人も。価格に対して残り方を物足りなく感じたという声もあり、持続の長さは肌で確かめたい部分です。
大きく香らせることより、自分のそばで香りを楽しみたいかどうか。ヴァニーユ 44を選ぶときには、その距離感も大切になります。まずは単独で使い、少し時間を置いた肌にどの香りが残るかを楽しんでみてください。


