トリノ21

冷たいミントとレモンへ青いハーブを束ね、テニスの試合前の静けさと集中を描くフレッシュ・アロマティック。大会の開催地とブランドの故郷、二つのトリノが重なる作品です。

#457 · 2026-08-19

Xerjoff / TORINO21

香水の基本情報と第一印象

トリノ21は、セルヨッフが2021年に発売したオードパルファムです。Nitto ATP Finalsがトリノへ移った最初の年に生まれ、最高レベルの試合が始まる直前を描きます。勝利の瞬間でも、ボールを追うラリーでもありません。選手が集中し、観客が息を詰め、まだ何も決まっていないのに空気だけが張りつめる時間です。

その集中した空気を立ち上げるのが、冷たいミントと明るいレモン。そこへバジルとタイムの青い葉、茎、軽い苦味が重なります。甘いレモン水のように軽く流れるのではなく、摘んだハーブを手のひらで揉んだときの輪郭が残る。スポーツを題材にしながら、単純なシャワージェルの清潔感で終わらない理由です。

現行の公式ページでは、50 mlと100 mlをフレッシュ・アロマティック、15 mlをフレッシュ・ウッディと表現しています。実際の中心は、冷たいシトラスと複数の青いハーブ。花とムスクが角を丸めても、明るい緑の線は最後まで消えません。

調香師・ブランドの背景と制作秘話

トリノ21の個人調香師名は公表されていません。セルジオ・モモは共同創業者として、大会を街の再出発へつなげたいという企画の意図を語りました。テニス大会の開催地であり、ブランドの故郷でもあるトリノが、この香りの背景です。

セルヨッフは、セルジオ・モモとドミニク・サルヴォが故郷トリノで2007年に正式創業しました。初期から香水と装飾的なボトルを一体の作品として扱い、半貴石や隕石片を取り入れたコレクションも発表しています。香りだけでなく、手に取ったときの造形まで作品の一部にするブランドです。

Nitto ATP Finalsは2021年から2025年までトリノで開催され、セルヨッフは同じ五年間、シルバー・パートナーを務めました。毎年一つずつ作られた香りは、大会の時間を分担します。トリノ21は試合前、22はアクション、23は競技の品格、24は親しい相手との室内試合、25は勝利の祝福。五本の物語は、まだボールが動いていない一瞬から始まりました。

香りの詳細分析

トップはミント、レモン、バジル、タイムです。レモンの酸味とミントの冷感は速く、バジルとタイムが青い苦味を足します。香りの色は青緑とレモン色。温度は冷たく、立ち上がりは軽快ですが、複数のハーブがあるため薄くは感じにくい構成です。

ミドルはブラックカラント、ローズマリー、ラベンダー、ジャスミン。ローズマリーはトップの青い芳香をつなぎ、ラベンダーとジャスミンが鋭さをやわらげます。ブラックカラントは濃いジャムの甘さではなく、葉の奥へ薄い果実感を差す役割。白い花を大きく咲かせず、冷たいハーブの束へ小さな丸みを加えます。

ラストはレモンバーベナとムスクです。ムスクが清潔な余韻を支え、レモンバーベナの青さが最初のシトラスとのつながりを残します。重い木や甘い樹脂へ急に変わるのではなく、明るい緑の線が細くなっていく着地です。

公式では、持続時間や拡散距離を示していません。利用者の傾向は、フレッシュ系として比較的残りやすいという方向にありますが、肌では4〜7時間ほどという幅のある声が見られます。強さを先に決めつけず、ミントの冷たさとムスクの残り方が自分の肌でどう変わるかを確かめたい香りです。

他の香水との比較・ポジショニング

ゲランのアクア アレゴリア ハーバ フレスカは、ミントの冷感と明るい緑が共通します。スペアミント、緑茶、露に濡れた刈り草を思わせる軽いオードトワレで、風を通すような透明感が中心です。トリノ21は、レモン、複数のハーブ、ブラックカラント、花、ムスクを束ね、より太くスポーティーな線を作ります。

ディプティックのオー ド ミンテも、ミントの芳香性を中心に置きます。ただし、ゼラニウム、パチョリ、ローズオキシドが作るのは、暗さと土の深さを持つフジェール。トリノ21はレモン、バジル、タイム、レモンバーベナによって、日差しのある明るさを保ちます。

エルメスのオー ドゥ バジリック プープルは、パープルバジル、グリーンベルガモット、ゼラニウムに集中する透明なオーデコロンです。バジルの青さは共通しても、トリノ21はミント、レモン、タイム、ローズマリー、ラベンダー、ムスクまで重ねます。バジル一枚の透明感を選ぶか、複数のハーブを束ねた密度を選ぶかが分かれ目です。

三本を並べると、トリノ21の位置は明快です。ミントを露と緑茶の軽さで楽しむのでも、暗いフジェールへ深めるのでも、透明なバジルへ絞るのでもない。冷たいシトラスと青いハーブを、一本の太いアロマティックとしてまといたい人へ向きます。

購入ガイド・価格・おすすめ度

発売時のトリノ21は限定企画で、15 mlと50 mlが公式オンラインで案内されました。現在は100 mlも加わった定番の3容量で、日本向け公式価格は15 mlが12,300円、50 mlが36,800円、100 mlが55,700円です。価格、容量、在庫は変わるため、購入時には公式サイトで最新情報を確かめてください。

濃度違いの正式な別バージョンは確認できません。容量追加の時期と、発売後に処方が変わったかどうかも明らかではありません。初めて選ぶなら、容量より先に肌で後半まで試すことが大切です。ミントとレモンの速い入口だけでなく、ブラックカラントと花が角を丸め、ムスクへ落ち着くところまで待つと、一本の印象が見えます。

ボトルは、透明から青へ移るガラスに、金色の前面プレートと彫刻的なキャップを合わせます。トリノ21のボトル全体のデザイナーは公表されていません。一方、ブランド共通のキャップは、トリノのエジプト博物館にある古代エジプトの赤冠デシュレトから着想し、ドミニク・サルヴォがデザインしました。青い色の意味は公表されていませんが、ブランドの故郷、大会の開催地、キャップの着想源が同じ街で重なります。

向いているのは、暑い日に使えるシトラスへ、葉の苦味とハーブの厚みも求める人。甘さより冷感、柔らかな花より青い芳香を選びたい人です。ミントを歯磨き粉やシャワージェルに近く感じる人もいるため、紙だけでなく肌へ少量をつけて確かめると選びやすくなります。

実際の使用感・シーン・評判

セルヨッフは、トリノ21の季節や時間帯を指定していません。香りの構成と利用者の傾向からは、春から夏の日中が中心です。レモンとミントの冷感、青いハーブ、ムスクの清潔感は、暖かい空気の中で輪郭を保ちやすいでしょう。秋冬にも使えますが、冷たい空気では明るいシトラスが細く感じられる可能性があります。

暑い日の外出、昼のカフェ、リゾート、スポーツ観戦、軽装の仕事場へ。白いシャツ、ポロシャツ、薄手のニット、軽いナイロンアウター、白やネイビーの装いとつながります。甘く濃い香りを求める夜の正装や、重いウールが主役の日より、光と風のある昼が似合います。

肯定的な声は、ミントが自然で明るい、レモンとの釣り合いがよい、暑い日に清潔で使いやすい、フレッシュ系としては持続しやすいという方向に集まります。その一方で、価格の高さ、変化が直線的に感じられること、ミントが歯磨き粉やシャワージェルに近く感じられること、期待ほど広がらないことを挙げる人もいます。

この香りの魅力は、テニスの速さをそのまま再現することではありません。何も始まっていないのに、選手と観客が静かに集中する。その空気を、冷たいシトラスと青いハーブで日常の距離へ移しています。最初は少量を肌へ。春から夏の明るい時間に、ミントの冷気が花とムスクへどう静まるかを確かめると、トリノ21の「試合前」が見えてきます。

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