カプリ
19-69のカプリは、苦いオレンジ、ジュニパーベリー、スパイスから花とムスクへ移るオードパルファムです。陽光だけでなく、断崖と海風を含むカプリ島の乾いた景色を映します。
#450 · 2026-08-12
香水の基本情報と第一印象
19-69のカプリは、2017年に発売されたオードパルファムです。題材はイタリアのカプリ島。ただし、甘いオレンジジュースや穏やかな海辺だけを描く香りではありません。ビターオレンジの皮とマンダリンの葉に、ジュニパーベリーと2種のペッパーが辛さを添えます。明るさの中に、青い苦みと乾きを残すシトラスです。
公式が示す言葉は「エッジがあり、フレッシュで、軽いのに安心感がある」。この対比が第一印象をよく表しています。明るいシトラスですが、果汁の甘さは控えめです。皮と葉の苦み、午後の風、陽に温められた岩の乾きが先に来ます。色は黄橙だけではなく、作品の着想となった映画に由来する赤、青、白。温かい岩と冷たい海風が、同じ画面に収まるような香りです。
サイズは9mL、30mL、100mL。国内正規取扱店で確認できる現在の税込価格は、30mLが13,750円、100mLが31,350円です。9mLの国内現行価格は確認できなかったため、購入時に在庫と価格を確かめてください。
調香師・ブランドの背景と制作秘話
調香師はアメリー・ブルジョワです。ビー ディー ケー パルファムのルージュ スモーキング、ユヌ ニュイ ノマドのスマ オリエンタルなども手がけています。
ブランドを手がけるのは、スウェーデン人アーティスト/プロダクト開発者のヨハン・ベルゲリンです。ブランド名の「19-69」は、1960年代から70年代の文化と、ベルゲリンが生まれた年に由来します。自由、寛容、カウンターカルチャーを背景に、時代や土地の記憶を香りにするブランドです。
着想源は、ジャン=リュック・ゴダールが1963年にカプリ島で撮影した映画『軽蔑』です。ヴィラ・マラパルテ、その周囲のオリーブ畑、青空、海、午後の風。咲くオレンジの木や、陽に温まった岩も香りの舞台になりました。赤は寛容と愛、青は冷たさ、白は中立。柑橘の熱、海風の冷たさ、花とムスクの白さが、その三色に重なります。
香りの詳細分析
**トップ**
つけた直後に立つのは、ビターオレンジ、マンダリンオレンジ、マンダリンリーフ、スイートオレンジ、ジュニパーベリー、カモミール、ピンクペッパー、花椒、カルダモンです。主役は甘い果汁ではなく、削った果皮と葉。ジュニパーベリーと2種のペッパーが甘さを抑え、乾いた辛さを残します。明るいけれど、くつろぎ一辺倒ではないシトラスです。
**ミドル**
しばらくすると、キンモクセイ、ガルバナム、イランイラン、ジャスミンが現れます。ガルバナムは、切った葉や茎を思わせる青い苦み。ジャスミンやイランイランは濃厚に広がらず、柑橘の苦みをゆっくりとやわらげます。緑を残したまま花へ移るところが、カプリらしさです。
**ベース**
肌に残るのは、ホワイトムスク、アンブロキサン、アンジェリカ、イリスです。清潔なムスクに、イリスの粉っぽさとアンジェリカの乾いた植物感が重なります。甘いバニラや重い木で支える香りではありません。粉を薄くはたいたような白さに落ち着き、つけ始めの鋭さも静まります。
持続と拡散の感じ方は人によって異なります。オレンジピールから石けんやボディクリームのような香りへ移り、オードパルファムよりコロンに近い軽さだという声がある一方、暑い季節にも十分残るという声もあります。最初の柑橘が弱まってもすぐには足さず、花とムスクが肌に残るまで待ってみてください。
他の香水との比較・ポジショニング
アクア ディ パルマのアランチャ ディ カプリは、第32回で扱った香りです。どちらもカプリ島とオレンジを題材にし、マンダリン、カルダモン、ムスクを使います。アランチャ ディ カプリは、スイートオレンジとレモンからキャラメルとムスクへ向かう、甘く丸い休暇の光。カプリはビターオレンジ、ジュニパーベリー、花椒、ガルバナムで、皮の苦さと葉の青さを残します。甘い果汁なら前者、乾いた皮と葉なら後者です。
ディプティックのオイエドは、第389回で扱いました。ユズとグリーンマンダリンを、タイムとラズベリーが鋭く際立たせます。カプリも柑橘の皮と葉をハーブやスパイスで強めますが、その後にキンモクセイ、イランイラン、ホワイトムスクが続きます。柑橘の鋭さを長く楽しむならオイエド。苦いオレンジから花とムスクへの変化を楽しむならカプリです。
同じブランドのイエス プリーズは、キュウリ、ローズマリー、タイム、レモン、木の香りを持つアミリスが目立ちます。青いハーブと木の乾きを楽しむならイエス プリーズ。苦いオレンジと白い花を選ぶならカプリです。
購入ガイド・価格・おすすめ度
カプリの9mL、30mL、100mLは、同じオードパルファムの容量違いです。持続の感じ方が分かれる作品なので、初めてなら9mLか30mLで肌との相性を見るのが実用的です。価格、在庫、販売地域は変わるため、購入時には公式サイトや正規取扱店の最新表示を確かめてください。
ボトルは透明な角形で、黄橙色の液体、白いラベル、黒い円筒形キャップを組み合わせています。ガラスはイタリアで塗装・スクリーン印刷され、各製品を手作業で仕上げるため、小さな個体差も特徴です。黄橙色は咲くオレンジの木とカプリの光を拾い、白と黒の簡潔な面が映画の強い色彩とつながります。
向いているのは、甘い果汁よりも苦い皮を楽しみたい人です。ジュニパーベリー、ペッパー、ガルバナムの乾いた苦みが、明るいシトラスを引き締めます。終始ジューシーなオレンジや甘く丸いムスクを期待するなら、まず少量を肌で試したい一本です。
実際の使用感・シーン・評判
合わせやすいのは、春末や初秋の日中です。海辺、風の通るテラス、映画館、ギャラリー、休日の散歩。白いシャツや軽いリネンに合わせると、苦い柑橘の明るさと冷たい海風を思わせる香りがよく似合います。黄、青、白を小さく取り入れた服装も、作品の色彩に通じます。
真夏は、風の通る屋外か空調のある場所で少量から。会話の距離ですぐには足さず、オレンジの皮が花とムスクへ変わるまで待ちます。寒い時期には、軽い部分が早く消えないかを確かめたいところです。
好意的な声は、明るいオレンジ園、グレープフルーツを思わせる酸味、ペッパーとガルバナムの輪郭、アンブロキサンの余韻へ集まります。日本語の試香では、シトラスの効いたフローラルで、ジャスミンやイランイランが強すぎず、優しい夏向けという受け止め方もあります。好みが分かれるのは、オレンジピールから石けんやボディクリームへ移るところと、持続の軽さです。
ベルゲリンが挙げた情景には、白いリネンスーツ、赤いスポーツカー、ブリジット・バルドーの青いヘアバンド、アリストテレス・オナシスのヨットまで登場します。氷の触れ合う音と、レモンを添えたサンペレグリノもその一つです。映画の記憶と、旅先で覚えた音や温度。その両方が、苦い皮と海風の香りに残っています。


