パルファム ドゥ ラ ニュイ

ロジャのパルファム ドゥ ラ ニュイは、ベルガモットの薄明かりから、露を帯びたローズ、サフラン、温かなサンダルウッド、レザーと樹脂の影へ進むパルファムです。花びらの露が肌の汗へ変わるというロジャ・ダヴの比喩を軸に、旧三部作との関係と夜の使い方が重なります。

#423 · 2026-07-16

ROJA / Parfum De La Nuit

香水の基本情報と第一印象

Parfum De La Nuit(パルファム ドゥ ラ ニュイ)は、ROJA(ロジャ)が展開する100mLのパルファムです。名前はフランス語で「夜の香水」。公式ではアンバー、エキゾチック、レザリー、挑発的と表現され、Leather accord(レザーアコード)を中心に据えています。英国公式価格は調査時点で995ポンド。プレステージ コレクションに属する、ブランド最高価格帯の一作です。

公式のタグラインは「闇が訪れると、欲望が呼ぶ」。日が沈むと抑制がほどけ、本当の自分が影から現れるという物語を持ちます。ひとことで言えば、ローズとサフランが熱を帯びる夜。明るいシトラスから、露を含んだ花、温かな肌、黒いレザーへと、二人の距離が縮まるように変化します。

最初から重く暗いわけではありません。ベルガモットの光とアルテミシアの青い苦みが入口をつくり、その後にローズ・ド・メの冷たい湿度が現れます。サフランが熱を入れ、サンダルウッドが肌の温度をつくり、レザーとラブダナムが影から近づきます。甘いアンバーだけでも、乾いたレザーだけでもない。花と身体の間にある温度差が第一印象です。

ボトルは透明で重厚なスクエア型。アンバーゴールドの液体、ゴールドのプレート、深い紫の文字、同じ紫のクリスタルを載せたキャップを合わせています。艶のある黒い箱に収めると、暗闇の中で金と紫だけが光るように見えます。

調香師・ブランドの背景と制作秘話

本作のクリエイターとして公式に名を掲げるのは、Roja Dove(ロジャ・ダヴ)です。幼いころ、母親が香水をまとった瞬間に印象まで変わって見えたことが、香りへの関心の原点として語られています。その後、フランスの老舗香水メゾンで経験を積み、2004年に自身の香りの活動を始めました。

現在のロジャ・ロンドンは、自らを「Modern Haute Perfumery(モダン・オート・パフューマリー)」と位置づけます。希少な素材、濃密な処方、クリスタルを飾ったボトルを組み合わせ、香りを感情に残る贈り物として扱うブランドです。

ロジャ・ダヴは、この香りを「誘惑の芸術」に着想を得た「嗅覚の秘密兵器」と語ります。彼が見ていたのは、西インド産サンダルウッドが思わせる温かな肌、ローズ・ド・メの冷たい露、サフランの熱、レザーとラブダナムの動物的な影でした。

とりわけ印象的なのが、ローズの花びらに宿る露が、温まった肌の汗の一滴へ変わるという比喩です。清潔な花と身体を対立させるのではなく、まだ触れていない距離と、体温が伝わる距離として描いています。月明かりの中で二人の見知らぬ人が恋人になる直前、その緊張をトップ、ハート、ベースの変化へ置いた香りです。

香りの詳細分析

トップはベルガモットとアルテミシア。ベルガモットが柑橘の光を入れ、アルテミシアが青く苦いハーブの線を引きます。日が沈み切る直前、空にまだ明るさが残るような始まりです。

ミドルはローズ・ド・メとシスタス。ローズは華やかな花束というより、露を含んだ冷たい甘さとして現れます。シスタスは樹脂とレザーへ橋を架け、花びらの奥へ薄い影を置きます。そこへサフランが触れると、慎ましかったローズが甘く挑発的な表情へ変わります。

ベースには、カルダモン、クミン、サフラン、グルジャン、シプリオール、パチョリ、シダーウッド、グアイアックウッド、ジュニパー、アミリス、サンダルウッド、ベンゾイン、フランキンセンス、スティラックス、ラブダナム、レザー、アンバーグリスが並びます。

サフランとクミンが乾いた熱と肌の気配をつくり、サンダルウッドが丸い温度を与えます。レザー、ラブダナム、シプリオール、パチョリ、ウッド、乳香が重なり、甘さを黒く、煙たく、動物的な方向へ深めます。持続は8時間から半日ほど感じる声が多い一方、早めに肌へ近づくという声もあります。量よりも、数時間後の距離感まで見る香りです。

他の香水との比較・ポジショニング

Tom Ford Oud Wood(トム フォード ウード・ウッド)は、スパイス、ウッド、樹脂を軸に夜の装いへ合わせやすい点が共通します。ウード・ウッドがカルダモン、ウード、サンダルウッドの乾いた滑らかさを見せるのに対し、本作はローズ、サフラン、クミン、レザー、ラブダナムによって、より甘く、熱く、動物的です。端正な木なら前者、花と肌の化学反応なら本作です。ウード・ウッドは香水ラジオ第237回でも取り上げています。

Frédéric Malle Portrait of a Lady(フレデリック・マル ポートレイト・オブ・ア・レディ)は、ローズ、パチョリ、樹脂がつくる暗い華やかさが共通します。ポートレイト・オブ・ア・レディが濃密なローズを広い軌跡として見せるのに対し、本作はサフラン、サンダルウッド、レザーへ重心を移し、花を肌の近くへ引き寄せます。

Maison Francis Kurkdjian Grand Soir(メゾン フランシス クルジャン グラン ソワール)は、夜、樹脂、温かい甘さを主題にする点が共通します。グラン ソワールはベンゾイン、ラブダナム、バニラを思わせる丸いアンバーの光が中心。本作は乾いたスパイスとレザーを持ち、甘さの内側へ黒い影を置きます。

三本と比べると、本作の個性は、冷たいローズが肌の熱へ変わる時間にあります。ウッド、ローズ、アンバーのどれか一つを強調するのではなく、その境界が溶ける瞬間に価値を置いた香りです。

購入ガイド・価格・おすすめ度

2015年、パルファム ドゥ ラ ニュイはNo.1、No.2、No.3という三作のパルファムとして登場しました。同じ香りの濃度違いではなく、夜と誘惑を三つの構成で描き分けた作品です。

No.1はシトラス、スパイス、ウッド、アンバー、バニラを軸にした明るい甘さ。No.2はローズ、ラム、カカオ、スパイス、樹脂、レザーを重ねた濃い甘さ。No.3はローズ・ド・メ、サフラン、クミン、サンダルウッド、レザー、樹脂を中心にしていました。

現在公式販売されているのは、番号を外した100mLのパルファムです。公式ノート構成は旧No.3と非常によく一致し、愛好家や販売店ではNo.3を引き継いだ作品と広く受け止められています。ただし、ブランドは完全に同一の処方だとは述べておらず、使用者にも同じ香りだという声と、わずかに違うという声があります。

同名のオードトワレやオードパルファムはありません。購入時は濃度違いではなく、旧三部作のどの番号か、番号のない現行品かを確認します。英国公式価格は調査時点で100mL・995ポンド。高額なうえ、クミン、サフラン、レザーは肌による違いが出やすいため、サンプルや店頭で一日試してから選びたい一本です。

実際の使用感・シーン・評判

最も似合うのは秋冬の夕方から深夜です。冷たい空気ではローズ、樹脂、レザーの層が分かれやすく、温かな室内へ入るとサフランとサンダルウッドが立ち上がります。ディナー、ホテルバー、劇場、記念日、夜の散歩など、時間をかけて変化を味わえる場面に向きます。

配信時期の夏に使うなら、昼の屋外ではなく、気温が下がった夜や冷房の効いた場所で一噴きから。黒、深い紫、ネイビー、ボルドーのジャケットやドレス、レザー小物、金属のアクセサリーと物語を合わせやすい香りです。性別を限定する構成ではなく、ローズの甘さを強く感じる人も、レザーとスパイスを強く感じる人もいます。

好意的な評判では「官能的」「複雑」「他にない」「芸術品」という言葉が見られます。ローズ、スパイス、ウッド、レザーが次々に表情を変える点を評価する声もあります。一方で、最大の論点は価格です。香りが素晴らしくても995ポンドをどう受け止めるか、投影が早く落ち着く個体をどう評価するかで意見が分かれます。

最初は胸元か手首へ一噴きし、少なくとも8時間の変化を追うのがおすすめです。紙ではローズとスパイス、肌では体温と動物的なニュアンスが見えやすくなります。花びらの露が肌の汗へ変わるのはいつか。その瞬間を探しながら試すと、この夜の香りが少し豊かに見えてきます。

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