スポーツカー クラブ オードパルファム

ペンハリガン「スポーツカー クラブ オードパルファム」は、英国の週末ドライブを思わせる、ユーカリと針葉樹の冷たい推進力を持つ香りです。パチョリの余韻が路面の影のように残り、ロードスター系の爽快感とは違う大人の速度感があります。

#405 · 2026-06-28

Penhaligon's / Sports Car Club Eau de Parfum

香水の基本情報と第一印象

Penhaligon's(ペンハリガン)のSports Car Club Eau de Parfum(スポーツカー クラブ オードパルファム)は、英国の週末ドライブとクラシックなレース文化を香りにしたグリーン・アロマティックです。2022年に数量限定で登場し、日本では2026年5月13日に新パッケージで数量限定・一部店舗に再登場しました。確認できる本体は100mLのEDP。2026年の日本公式価格は35,750円です。

第一印象で面白いのは、車をテーマにしているのに、ガソリンや焼けたタイヤをそのまま香らせないことです。立ち上がるのはピンクペッパーの明るい刺激と、ユーカリの冷たい清涼感。そこにサイプレスやパインウッドの針葉樹感が重なり、最後はパチョリ、アンブロクサン、ムスクの近い余韻へ進みます。スポーティというより、ジャケットを着てカントリーレーンを走る香り。速さのあとに残る余裕です。

調香師・ブランドの背景と制作秘話

調香師はAnnick Ménardo(アニック・メナルド)です。Bvlgari Black(ブルガリ ブラック)、Dior Hypnotic Poison(ディオール ヒプノティック プワゾン)、Le Labo Patchouli 24(ル ラボ パチョリ 24)などでも知られる調香師で、暗さ、質感、温度差を印象的に扱う作品が多い人物として語られます。

スポーツカー クラブで印象的なのは、モータースポーツを金属や燃料の直訳にしなかった点です。ピンクペッパーは加速のきらめき、ユーカリは開いた車窓から入る冷たい息、パチョリは路面や土の安定感。スピードを、風と樹木で語る設計です。

ブランドとしてのペンハリガンは、1870年にWilliam Penhaligon(ウィリアム・ペンハリガン)がロンドンで始めた英国フレグランスハウス。ヘリテージ、ユーモア、英国的な物語を香りに編むのが得意なメゾンです。本作にも、British Tales(ブリティッシュ テイルズ)の限定品としての記憶と、The Gents Collection(ザ ジェンツ コレクション)に近い現代的な紳士像が重なっています。

香りの詳細分析

トップはピンクペッパーコーンとユーカリ。シトラスの明るさではなく、粒の弾けるようなスパイスと、鼻筋を冷やすようなユーカリの風が出ます。少し樟脳的で、清潔。甘い爽やかさではなく、車窓を開けた瞬間の冷気に近い始まりです。

ミドルでは、サイプレスとパインウッドが香りの輪郭を作ります。サイプレスにはカンフル剤のようなすっとした青さがあり、パインウッドには針葉樹の乾いた木質感と、かすかなハチミツのような甘さがあります。ここで香りは、鋭いスタートから、整った樹木の並木道へ移る。エンジン音そのものではなく、スピードを受け止めるカントリーサイドの景色です。

ラストはパチョリ、アンブロクサン、ムスク。パチョリは土っぽいウッディな強度を作り、アンブロクサンとムスクが現代的な清潔感と肌なじみを足します。モスやレザーの影も感じさせますが、主役はあくまでグリーンとパチョリ。ヴィンテージカーの内装やドライビンググローブを思わせる薄い陰影にとどまります。強く広がる香りではなく、近い距離で冷たいグリーンが残るタイプです。

他の香水との比較・ポジショニング

自動車テーマで比べやすいのはCartier Roadster(カルティエ ロードスター)です。ロードスターはミントやラベンダー寄りの推進力が強く、冷たいハーブ感で前へ進む印象があります。スポーツカー クラブは、ユーカリ、サイプレス、パインウッドの針葉樹グリーンがより前に出る。似ているようで、走っている場所が違います。

ペンハリガン内では、第396回で扱ったJuniper Sling(ジュニパー スリング)とも並べやすい香りです。ジュニパー スリングはジンやカクテルの透明感が主役で、軽快な英国的アロマティック。スポーツカー クラブは、パイン、ユーカリ、パチョリの冷温差で、より路面と風の感覚があります。比較記事はこちらです。

Sartorial(サルトリアル)と比べると、英国紳士像の違いが見えてきます。サルトリアルは仕立て、蒸気、サヴィル・ロウの室内感。スポーツカー クラブは窓を開けたカントリーレーンです。Dior Fahrenheit(ディオール ファーレンハイト)のような燃料的なレザー香とも違い、車の匂いではなく、レース文化の気分をグリーンで抽象化しています。

購入ガイド・価格・おすすめ度

購入判断では、限定性と価格、そして香りの距離感を見ておきたい一本です。2026年の日本公式価格は100mLで35,750円。数量限定として再登場しているため、いつでも気軽に買えるタイプではありません。EDTやExtraitなど、別濃度の公式展開は確認できず、基本はこのEDP 100mLとして考えるのがよさそうです。

おすすめしたいのは、ユーカリ、パイン、サイプレスの冷たいグリーンが好きな人。濃厚なレザーや燃料感を求めるより、清潔なウッディムスクと針葉樹の空気を近い距離で楽しみたい人に向きます。逆に、拡散力の強い香水や、分かりやすく甘い香りを期待すると少し静かに感じるかもしれません。できれば肌で半日試して、トップの薬草感とラストのアンブロクサンが自分に合うか確認したい香りです。

実際の使用感・シーン・評判

似合う季節は、春、初夏、初秋の日中です。湿度が低い日ほど、ユーカリと針葉樹の輪郭がきれいに出ます。夏にも使えますが、高温多湿の日に多くつけると、ユーカリの薬草感やアンブロクサンの甘さが目立つことがあります。少量で整えるのが似合う香り。1〜2プッシュで十分です。

シーンとしては、週末のドライブ、ギャラリー巡り、スマートカジュアル、軽いジャケット、昼の外出に合います。オフィスでも使えますが、ユーカリとサイプレスの輪郭が独特なので、距離を詰めすぎない使い方が自然です。白シャツ、テーラード、レザージャケット、ドライビングスタイル。そうした服装に合わせると、香りの世界観が見えやすくなります。

評判としては、冷たいグリーン、針葉樹、清潔なウッディムスクを評価する声がある一方で、薬草的なユーカリ、人工的に感じるアンブロクサン、価格に対する拡散の控えめさは好みが分かれます。ここは長所と短所が同じ場所にある香りです。強く飛ばないから上品。でも、強さを期待すると物足りない。

スポーツカー クラブは、速さそのものより、速さのあとに残る余裕を香りにした作品です。エンジン音ではなく、開いた窓から入るユーカリの風。そこに針葉樹、パチョリ、薄いレザーの影が重なり、英国ドライブの記憶として肌に残ります。

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