ドゥ
トゥルドン「ドゥ」は、青葉、ビターオレンジ、ジュニパー、パイン、シダーウッド、インセンスを通じて、二者を結ぶグリーンノートを描く香りです。森の暗さよりも、葉と木と煙が薄く重なる静かな境界が印象に残ります。
#399 · 2026-06-22
香水の基本情報と第一印象
Deux(ドゥ)は、Trudon(トゥルドン)から2017年に登場したグリーン・ウッディ・アロマティックです。現行公式ページの商品名はドゥですが、Fragranticaや複数の資料ではII表記も残っています。ドゥもIIも「二」を示す記号。公式が掲げる「A green note that unites」という言葉どおり、二者を結ぶ緑として見ると、この香りの輪郭がつかみやすくなります。
第一印象は、湿った青葉とビターオレンジです。甘いシトラスではなく、葉を折ったような緑と、果皮の苦み。そこからジュニパーとパインが出てきて、香りはすぐに針葉樹の森へ入ります。明るさはある。けれど、太陽のシトラスではなく、雨上がりの森の入口に近い明るさです。
この香水を一言でいうなら、青葉と針葉樹が結ぶ静かな森のコロン。コロン的な透明感を持ちながら、香りの主役は柑橘ではなく、森、木、薄い煙です。強く場を支配する香りではありません。近づいたときに、緑の湿度と乾いた木の余韻が見える一本です。
調香師・ブランドの背景と制作秘話
調香師はLyn Harris(リン・ハリス)。公式ページでも、本作を作った調香師として明記されています。リン・ハリスはMiller Harris(ミラー・ハリス)の創業者としても知られ、のちにPerfumer H(パフューマー エイチ)を立ち上げた人物です。派手な甘さより、素材の輪郭や空気の質感を扱う印象が強い調香師です。
ドゥでも、その手つきははっきり出ています。ビターオレンジで軽く開き、ジュニパーとパインで森へ入り、シダーウッドとインセンスで静かに落とす。強い物語を押しつけるのではなく、風景の湿度を整えるような作り方です。
トゥルドンは1643年を起点とする、フランス最古級のキャンドルメゾンとして語られるブランドです。蝋燭、教会、王室、部屋の灯り、煙。そうした記憶を持つメゾンが、2017年にパーソナルフレグランスへ本格参入しました。ドゥは、その初期コレクションの一作。キャンドルメゾンが肌の上に作った、透明な森とも言えます。
香りの詳細分析
トップは、Green Leaves(グリーンリーブス)とBitter Orange(ビターオレンジ)。最初に感じるのは、青葉を折ったような湿った緑と、オレンジの果皮の苦みです。レビューではフィグリーフやトマトリーフ、バジル、ミントを思わせるという声もあります。ただし、それらは公式ノートではなく、あくまで印象語として見るのが安全です。
ミドルは、Juniper(ジュニパー)とPine(パイン)。ここで香りは、シトラスの明るさから針葉樹の森へ入ります。ジュニパーの冷たい実、パインの青い樹脂感、外部資料で語られるペッパーの乾いた刺激。爽やかではあるけれど、洗剤のような清潔感ではなく、木と葉の輪郭があります。
ラストは、Cedarwood(シダーウッド)とIncense(インセンス)。Fragranticaではカシュメランやアンブロキサンも挙がります。最後は、森の湿度が少し乾き、シダーの木質と薄い煙、肌に近いウッディムスク感へ移ります。重い寺院香ではありません。透明な森の奥に、煙が一筋だけ通るような余韻です。
時間変化は派手ではありません。青葉とビターオレンジで開き、ジュニパーとパインで森の中心へ入り、シダーとインセンスで静かに乾いていく。湿った緑から乾いた木へ、香りの湿度がゆっくり変わるタイプです。
他の香水との比較・ポジショニング
第84回で扱ったDiptyque(ディプティック)のPhilosykos(フィロシコス)と比べると、違いが見えやすくなります。フィロシコスはイチジクの木全体を描く香りです。葉、樹液、果実、乳白色の丸み。ドゥにもフィグリーフを連想する声はありますが、公式ノートはフィグではありません。もっと針葉樹的で、ジュニパー、パイン、シダー、インセンスへ進みます。
第110回で扱ったAesop(イソップ)のHwyl(ヒュイル)とも森の文脈でつながります。ヒュイルは暗い森、ヒノキ、煙、寺院の静けさを感じやすい香りです。ドゥはそこまで暗く沈みません。ビターオレンジと青葉の入口があり、朝の光と湿度が残っています。
Annick Goutal(アニック グタール)のNinfeo Mio(ニンフェオ ミオ)とは、ビターシトラスとグリーンの明るさで近くなります。ただ、ニンフェオ ミオは地中海の庭やフィグリーフの酸味が強い。ドゥはより森の内側へ向かい、針葉樹と木と煙で静かに終わります。フィロシコスがイチジクの木、ヒュイルが暗い森、ニンフェオ ミオが地中海の庭だとすれば、ドゥは青葉と針葉樹の森です。
購入ガイド・価格・おすすめ度
公式USページでは、ドゥの100mlが$290で確認できます。複数資料では15mlのトラベルサイズや、日本国内で100ml 40,700円、15ml 9,900円前後の記載も見られます。ただし価格は地域や販売時点で変わるため、購入前には正規流通や在庫を確認したいところです。
選び方で大切なのは、濃度違いではなく香りの声量です。ドゥは、基本的には現行の香りを100mlや15mlなどのサイズで選ぶタイプとして考えるとわかりやすい一本です。強く長く場を支配する香りを求めるなら、少し淡く感じる可能性があります。
おすすめしやすいのは、甘い香水よりグリーン、ウッディ、アロマティックが好きな人です。青葉、針葉樹、木、薄い煙。そこに惹かれる人には、かなりきれいに刺さります。逆に、濃厚なアンバー、バニラ、甘い残り香、強い拡散を期待する人には物足りないかもしれません。
購入前には、紙だけでなく肌で数時間見たい香りです。レビューでは、最初はよく香るが早めに肌へ近づくという声も、6時間以上残るという声もあります。肌でのカシュメランやインセンスの出方が、自分に合うかを確認するのが大事です。
実際の使用感・シーン・評判
季節は、春、初夏、秋が中心です。雨上がり、涼しい朝、湿度のある日に特に合います。真夏なら軽めに、冬なら強い温かさを期待せず、静かな森として使うのがよさそうです。白シャツ、リネン、薄手のニット、グレー、オリーブ、ネイビー。装飾過多ではない服に合います。
シーンは、日中の外出、仕事、読書、ギャラリー、カフェ、静かな休日。香りが大きく広がり続けるタイプではないので、強く主張したい場面より、近距離で清潔な緑を見せたい場面に向きます。手首や首元に軽く、または服の内側に少し。近づいたときに青葉と木が見えるくらいが扱いやすいでしょう。
評判では、「雨に濡れた森」「上品なヨーロッパの森」「グリーンでシャープ」「控えめで洗練されている」といった声があります。一方で、「持続が短い」「肌に近づくのが早い」「価格に対して軽い」という声もあります。この分かれ方も、この香水の性格です。強く残る香水ではなく、静かに緑を残す香水。
ドゥは、わかりやすい褒められ香水というより、自分の近くに森の湿度を置く香りです。二者を結ぶ緑。森のコロン。キャンドルメゾンが作る透明な煙。青葉と針葉樹が静かに重なり、最後に木と煙だけが残ります。


