プレイング ウィズ ザ デビル
キリアン パリ「プレイング ウィズ ザ デビル」は、ブラッドオレンジ、ブラックカラント、ライチ、白桃にスパイスを差し込む果実の香りです。悪魔という名に反して入口は甘酸っぱく、ラストではサンダルウッドと樹脂感が小悪魔的な温度を残します。
#397 · 2026-06-20
香水の基本情報と第一印象
Playing with the Devil(プレイング ウィズ ザ デビル)は、Kilian Paris(キリアン パリ)から2013年に登場したオード パルファムです。調香師はCalice Becker(カリス・ベッカー)。現在の公式ページではThe Cellars(ザ セラー)に置かれ、キーノートはブラッドオレンジ、ピメントベリー、サンダルウッドです。
第一印象で面白いのは、名前と香りの距離です。悪魔という言葉から、煙、レザー、黒い樹脂のような重さを想像しやすい。けれど、肌に乗せた入口でまず感じるのは、ブラッドオレンジとブラックカラントの甘酸っぱい赤さです。そこへライチや白桃のジューシーさが加わり、かなり明るい果実の印象から始まります。
ただし、ただ可愛いフルーティーでは終わりません。奥にピメントベリーの辛さが控えていて、果実が少し火照る。最後にはサンダルウッドが肌の近くに残り、甘い木の影を作ります。ブラッドオレンジとサンダルウッドが灯す小悪魔の夜。これが、この香水の輪郭です。
調香師・ブランドの背景と制作秘話
キリアン パリは、Kilian Hennessy(キリアン・ヘネシー)が2007年に創設したフレグランスメゾンです。ヘネシー家の背景から、コニャック、セラー、夜の社交、ラグジュアリーな遊びといった文脈がブランドの中に流れています。現行のザ セラーという枠も、その世界観とよく合います。
プレイング ウィズ ザ デビルは、もともと禁断の果実や善悪のあわいを思わせる物語で語られてきた作品です。現在の黒いラッカー調ボトルで見ると、その果実が夜のセラーへ移されたように感じられます。赤い果汁、辛い火花、暗い木箱。香りの中に、キリアンらしい舞台装置があります。
調香師のカリス・ベッカーは、キリアンの重要作に深く関わってきた人物です。第98回で扱ったGood Girl Gone Badが、白い花の無垢さと危うさを見せる香りだとすれば、こちらは赤い果実の無邪気さに、ピメントとサンダルウッドを入れた香りです。甘さを磨き、官能を重くしすぎない。その手つきがよく出ています。
香りの詳細分析
トップは、ブラッドオレンジとブラックカラントが中心です。ブラッドオレンジは普通のオレンジより赤く、少し苦みがあり、酸味も鮮やか。ブラックカラントは甘酸っぱく、肌によってはかなり印象的に出ます。そこへライチと白桃の果汁感が重なり、最初の数分は赤いフルーツカクテルのような華やかさがあります。
ミドルでは、ピメントベリーとペッパーが効いてきます。ここが香りの転換点です。フルーツの可愛さに、辛口の熱が入る。ローズは主役として咲くというより、ライチや赤い果実に花びらの色を足す役割です。ジャスミンを感じる資料もあり、花は果実の輪郭を大人っぽく整えています。
ラストはサンダルウッド。公式でも、クリーミーなサンダルウッドのドライダウンが、くすぶるような質感を与えると語られます。体感では、バニラ、ベンゾイン、トンカビーンの甘い樹脂感や、パチョリ、シダーの木質感が見えることもあります。ブラッドオレンジの明るさから、ピメントの火花を経て、サンダルウッドの肌香へ沈む。時間変化はかなり映画的です。
他の香水との比較・ポジショニング
近い比較としてまず思い浮かぶのは、Tom Ford(トム フォード)のBitter Peach(ビター ピーチ)です。ビター ピーチは熟した桃、リキュール、樹脂の濃さが強い香り。プレイング ウィズ ザ デビルは、ブラッドオレンジ、ライチ、カシスの酸味があり、より赤く、軽く、ピメントで熱を入れるタイプです。
Parfums de Marly(パルファム ドゥ マルリー)のDelina(デリーナ)とは、ライチとローズの連想でつながります。ただ、デリーナはローズが主役で、より華やかでフェミニン。こちらはローズを脇に置き、果実、スパイス、ウッドで小悪魔的に寄せます。EX NIHILO(エクス ニヒロ)のFleur Narcotique(フルール ナルコティック)と比べると、あちらは白くクリーンで、こちらはもっと赤く夜に近い。
キリアンの中では、Good Girl Gone BadやForbidden Games、Flower of Immortalityの近くに置くとわかりやすいです。花の危うさ、甘い禁断の果実、ピーチの透明感。それらに対して、プレイング ウィズ ザ デビルは、ブラッドオレンジとピメント、サンダルウッドで作る赤い小悪魔です。
購入ガイド・価格・おすすめ度
日本公式では、プレイング ウィズ ザ デビル オード パルファムは50mlで36,850円です。公式ページでは50mlの香水と100mlリフィルが確認でき、キリアンらしく詰め替え可能なオブジェとしての考え方も前面に出ています。現行ボトルは黒のザ セラー仕様で、側面の装飾やゴールドプレートも含めて、かなり夜の印象が強い見た目です。
初めて試すなら、必ず肌で時間変化を見るのがおすすめです。トップだけ嗅ぐと、明るく甘いフルーティーに感じられます。けれど、この香水の判断点はそのあとです。ピメントがどれくらい辛く出るか、ブラックカラントがきれいに出るか、ラストのサンダルウッドが肌に合うか。ここで印象がかなり変わります。
向いているのは、甘酸っぱい果実が好きだけれど、子どもっぽいフルーティーでは物足りない人。ライチ、カシス、ピーチ、ローズの可愛さに、少し辛さと木の影がほしい人です。逆に、名前どおりの深い煙やレザー、強いダークアンバーを期待すると、明るく感じる可能性があります。
購入前の判断軸は、果実の明るさを主役として楽しめるかどうかです。暗さを求めるより、甘酸っぱい果実が夜へ変わる過程を味わう香水として見ると、魅力がつかみやすくなります。甘さ、酸味、辛さ、木の余韻が順に出るかを見てください。
実際の使用感・シーン・評判
使いやすい季節は、春、秋、涼しい初夏の夜、冬の室内です。暑い昼に多くつけると、カシスやライチの甘酸っぱさが少し重く出ることがあります。夕方以降のバー、会食、デート、少し艶のある服装にはかなり合います。黒、赤、白、シルク、ジャケット。服のどこかに遊びがあると、この香りの小悪魔感がきれいに出ます。
つけ方は少量から。フルーティーだから軽いと思って多めに使うと、ピメントや甘い樹脂感まで広がりすぎることがあります。手首、腰、服の内側に軽く。近づいたときに、ブラッドオレンジ、ライチ、ピメント、サンダルウッドが順に見えるくらいがちょうどよい距離です。
評判では、果実のジューシーさ、小悪魔的な可愛さ、カリス・ベッカーらしい磨かれた甘さを好む声があります。一方で、名前ほど暗くない、肌によってカシスが酸っぱく出る、持続や拡散の感じ方が分かれるという声もあります。この分かれ方も、作品の個性です。悪魔そのものの香りではなく、悪魔と遊ぶ果実の香り。甘く、赤く、少しだけ危ない。そんな一本です。
特に肌出方は大切です。ブラッドオレンジとライチがきれいに出る人には、明るく華やかな果実香として映ります。ブラックカラントが強く出る人には、酸味や少し野性的なニュアンスが前へ来ることもあります。サンダルウッドまで待つと、トップの可愛さが落ち着き、夜の香りとしての輪郭が見えます。試香するときは、最初の五分だけで決めず、三十分後の肌の残り方まで見ると、この香水の小悪魔らしさがわかりやすいです。


