モカ
セント オブ ヨーク「モカ」は、珈琲とタバコの苦み、ベルガモットのほろ苦さ、ベチバーとパチュリの土っぽさが重なる香りです。甘いカフェラテではなく、焙煎と煙と土が交差する大人びたモカです。
#390 · 2026-06-13
香水の基本情報と第一印象
MOCHA(モカ)は、SCENT OF YORK.(セントオブヨーク)から2021年12月7日に登場したEau de Parfumです。ブランドの第2作にあたり、テーマは「嗜好品の香り」。公式に確認できる軸は、ベルガモット、コーヒー、タバコ、ベチバー、パチュリです。ユニセックスに使える香りとして紹介され、37.5mlのシグネチャーデザインボトルと、30mlのスプレータイプが主な仕様として語られています。
第一印象で大事なのは、名前に引っ張られすぎないことです。モカと聞くと、チョコレート、ミルク、砂糖、カフェラテのような甘さを想像しやすいですが、この香りの中心はそこではありません。ベルガモットの皮のような苦みが短く立ち、すぐにブラックコーヒーの焙煎感、乾いたタバコ葉、そして湿った土のようなウッディ感へ沈んでいきます。
甘いグルマンではなく、嗜好品の余韻を楽しむ香水です。明るく広がるタイプではなく、体温の近くで静かに香る近距離型。自分だけが深く息をするような、少し内向きの香りとして捉えると輪郭が見えやすくなります。
調香師・ブランドの背景と制作秘話
セントオブヨークは、山藤陽子が主宰するYORK.の活動から生まれた日本発のボタニカルパフュームブランドです。2021年9月にデビューし、初作FETISHに続いて登場したのがモカでした。山藤陽子は、クラシックな調香学校出身のノーズというより、精油との出会い、ライフスタイル提案、南青山のサロンHEIGHTSでの活動を通じて香りを作ってきた人物として語られます。
ブランドの大きな特徴は、植物から抽出した精油を香りの源にし、天然素材の年ごとの違いを肯定していることです。同じ香りの設計でも、その年の植物やロットによって少し表情が変わる。それをワインのヴィンテージのように受け止める考え方が、セントオブヨークらしさになっています。
モカの制作テーマは「嗜好品」。珈琲とタバコは、ただの飲み物や煙草葉ではなく、人を惹きつけ、心身の状態を変え、時に儀式や祈りとも結びついてきたものです。モカは、その甘い側面ではなく、苦味、煙、乾き、土っぽさを拾い上げています。香りを強く主張するためではなく、深呼吸して自分の内側へ戻るための嗜みとして作られた一本です。
香りの詳細分析
トップでは、ベルガモットが短く立ち上がります。レモンキャンディのような明るさではなく、柑橘の皮を折ったときのようなほろ苦さです。この苦みが、これから出てくる珈琲とタバコを甘い方向へ流さず、最初からドライな空気を作ります。
ミドルでは、中心に出てくるのはコーヒーとタバコです。コーヒーはカフェラテではなく、焙煎豆やブラックコーヒーの苦味に近い印象。タバコもバニラタバコの甘さではなく、乾燥した葉、煙の名残、嗜好品としての落ち着いた重さです。ここで香りは一気に暗くなりますが、重すぎるというより、声を落として静かな部屋に入っていくような変化です。
ラストでは、ベチバーとパチュリが香りを支えます。ベチバーは根や乾いた草のスモーキーさ、パチュリは湿った土や墨汁のような暗いウッディ感を作ります。この2つがあるから、モカは単なるコーヒー香水で終わりません。最後に残るのは、飲み物の甘さではなく、土、木、煙、苦味が肌に沈むような余韻です。
持続や拡散は、かなり個人差があります。販売ページ由来では4〜7時間という目安が語られる一方、使用者の声では弱く感じる、早く薄れるという意見もあります。天然香料中心の香りなので、肌質、気温、つける場所で印象が変わりやすいタイプです。最初の一瞬だけで判断せず、中盤からラストの沈み方まで見るのが向いています。
他の香水との比較・ポジショニング
コーヒー香水として比べるなら、Montale(モンタル)のIntense Café(インテンス カフェ)がよく名前に上がります。ただし、インテンス カフェはローズ、バニラ、アンバーの甘さを含んだフロリエンタルとして受け取られやすい作品です。モカはそこから甘さを引き、タバコ、ベチバー、パチュリの乾きと土っぽさへ寄せています。
タバコや煙の文脈では、Maison Margiela(メゾン マルジェラ)のBy the Fireplace(バイ ザ ファイヤープレイス)とも比べられます。バイ ザ ファイヤープレイスが暖炉、甘い煙、バニラのぬくもりを思わせるなら、モカはバーや書斎に残る珈琲と乾いた葉の空気です。どちらが上という話ではなく、煙を甘く包むか、苦味のまま沈めるかが違います。
Pierre Guillaume(ピエール ギヨーム)のCoze 02(コーズ ゼロツー)のように、タバコ、コーヒー、パチュリの構造が近いとされる香りもあります。けれど、モカはカカオやバニラを前面に出すより、植物精油の渋みを残す方向です。世界的に有名なコーヒーグルマンの系譜というより、日本の小さなブランドが作る、静かなボタニカル嗜好品として見ると独自性が伝わります。
購入ガイド・価格・おすすめ度
モカの中心仕様は、37.5mlのシグネチャーデザインボトルです。複数資料では税込38,500円として記録され、香水本体、香水瓶、アトマイザー、ろうと、ボックスを含むセットとして語られています。香りを移し替えて使う手順まで含めて、所有体験を楽しむタイプのプロダクトです。
一方で、30mlスプレータイプも確認されています。こちらは税込26,400円として紹介され、日常で直接プッシュして使いやすい仕様です。儀式性やギフト感を重視するなら37.5ml、使いやすさを優先するなら30mlという見方ができます。ただし、小ロットで在庫状況が変わりやすいため、購入時は公式ストアや正規取扱店で確認するのが安全です。
おすすめしやすいのは、甘いグルマンよりビターな香りが好きな人、コーヒーやタバコの匂いを大人の嗜みとして楽しみたい人、強く広がる香水より近距離で静かに香る一本を探している人です。慎重に試したいのは、わかりやすい甘いモカを期待する人、長い持続と強い拡散を最優先する人、パチュリやベチバーの土っぽさが苦手な人です。
実際の使用感・シーン・評判
モカが似合うのは、秋冬の夜です。落ち葉、湿った土、冷たい空気、暗い木のテーブル、黒やブラウンのニット。そういう質感と相性が良い香りです。初夏に軽く使うなら、夜や雨の日、冷房の効いた静かな室内など、暑さが落ち着いた場面に寄せたほうが扱いやすいでしょう。
つける場所は、首元よりも腰、膝裏、服の内側など、下から静かに立ち上がる位置が向きます。顔に近い場所へ強くつけると、ベルガモットの苦みやパチュリの薬草的な側面が近すぎることがあります。食事や読書のような近距離の時間にも、量を抑えれば邪魔になりにくいタイプです。
評判ははっきり分かれます。好意的な声では、コーヒーとタバコの大人っぽさ、ビターな色気、満たされるような感覚が語られます。一方で、モカ感が薄い、薬草っぽい、湿布のよう、持続が弱いという声もあります。この分かれ方は、モカが失敗しているというより、甘いコーヒー香水ではなく、ベチバーとパチュリの土っぽさまで含めた嗜好品の香りだからです。
モカは、誰にでも明るく開く香りではありません。珈琲の苦み、タバコの乾き、土の余韻が、肌の近くで静かに沈む。その暗さと距離感を楽しめる人には、セントオブヨークらしい、記憶に残る一本です。


