オイエド
ディプティック「オイエド」は、東京の旧名・江戸とユズを結びつけた、シトラスアロマティックのオードトワレです。ユズ、グリーンタンジェリン、タイム、ラズベリーが弾け、明るい柑橘にハーブの青さと赤い果実の甘酸っぱさが残ります。
#389 · 2026-06-12
香水の基本情報と第一印象
Oyédo(オイエド)は、Diptyque(ディプティック)から2000年に登場したEau de Toiletteです。名前は東京の旧名である江戸に由来します。公式ページで掲げられているノートは、ユズ、グリーンタンジェリン、タイム、ラズベリー。香水データベースでは、マンダリン、レモン、ライム、ウッディノートなども合わせて語られますが、現在の公式情報を基準にすると、主役はこの4つです。
第一印象は、かなり明るい柑橘です。ユズの皮を折ったときのような酸味とほろ苦さがぱっと出て、そこにグリーンタンジェリンの軽い甘さが重なります。ただし、和食屋の柚子皮や、冬至の柚子湯をそのまま再現した香りとは少し違います。オイエドには、ラズベリーの赤い甘酸っぱさと、タイムのハーバルな青さがあります。ここが、爽快なだけのユズ香水では終わらない理由です。
人によっては、ラムネ、オレンジキャンディ、入浴剤、グミのように感じることもあります。逆に、それを「普通のシトラスにはない遊び」と捉える人もいます。つまりオイエドは、万人が同じように「自然な柚子」と感じる香りではなく、ユズをフランス香水として少し抽象化した作品です。そこが魅力であり、好みが分かれるポイントでもあります。
調香師・ブランドの背景と制作秘話
オイエドを語るうえで重要なのが、調香師として複数資料に名前が挙がるAkiko Kamei(亀井明子)です。公式の商品ページには調香師名は明記されていませんが、Fragrantica、Parfumo、Wikiparfum、Per Fumumなどでは、オイエドの調香師として亀井明子が紹介されています。日本で学び、フランスへ渡り、グラースのRoureで香水教育を受けた人物として語られ、Hermès(エルメス)のParfum d'Hermès(パルファム ドゥ エルメス)やCaron(キャロン)のLe 3ème Homme de Caron(ル トロワジエム オム ドゥ キャロン)なども代表作に挙がります。
この背景を知ると、オイエドの見え方が少し変わります。これは、フランスのブランドが外から「日本っぽさ」を借りただけの香りではありません。日本出身の調香師が、フランス香水の技法と言語の中で、ユズと江戸という題材を組み直した香りとして読むことができます。だからこそ、完全に写実的な柚子ではなく、ラズベリーやタイムを使って、記憶の中の柑橘へずらしているように感じられます。
ディプティック自体は、1961年にパリの34 boulevard Saint-Germainで始まったメゾンです。最初は香水だけの店ではなく、布、インテリア、旅の品、アート感覚のあるものを扱うブティックでした。1963年にキャンドル、1968年に最初の香水L'Eau(ロー)を発表し、旅や記憶を香りにするブランドとして育っていきます。オイエドも、その流れの中にある一本です。江戸、ユズ、太平洋岸の柑橘果樹園というイメージを、ディプティックらしいグラフィックな香りに翻訳しています。
香りの詳細分析
トップでは、ユズとグリーンタンジェリンが前に出ます。ユズは、果汁の甘さよりも皮の鋭さ、酸味、ほろ苦さが印象的です。レモンやライムのような透明感も感じられ、スプレー直後はかなり明るく、空気が一瞬で軽くなるような立ち上がりです。ここだけを切り取ると、春夏向きの爽快なシトラスに見えます。
ミドルでは、ラズベリーとタイムの存在が見えてきます。ラズベリーは、赤い果実をそのまま置くというより、ユズの酸味に甘酸っぱい色を足す役割です。そのため、人によってはキャンディやグミのようなニュアンスを感じます。これが好きな人には、オイエドはただの柑橘より楽しく、弾む香りになります。逆に、リアルな柚子だけを期待していると、ここで少し人工的、甘い、子供っぽいと感じるかもしれません。
タイムは、この香りの骨格を引き締める要素です。柑橘の明るさに、ハーブの青さ、少し薬草的な乾き、金属的とも言える冷たさを入れます。ここがオイエドを単なるフルーティシトラスから離し、シトラス・アロマティックとして成立させています。中盤は、ユズの光、ラズベリーの赤い甘酸っぱさ、タイムの緑が同時に見える時間です。
ラストでは重くありません。複数の資料ではウッディノートやシダーウッド、軽いムスクのような清潔感が語られます。肌に残るのは、強いアンバーやバニラではなく、ユズの余韻を抱えた乾いた木、薄い粉感、淡い清潔感です。持続は短めから中程度で、1〜4時間でかなり弱まるという声が多い一方、肌質によってはもう少し長く残る例もあります。長時間香り続けることより、最初の立ち上がりと、中盤のタイムの表情を楽しむ香水です。
他の香水との比較・ポジショニング
ユズを使った香水と比べると、オイエドの個性がはっきりします。Heeley(ヒーリー)とMaison Kitsuné(メゾン キツネ)のNote de Yuzu(ノート ド ユズ)は、同じユズでも海、塩気、ミネラル、ベチバーやムスクの方向へ向かいます。ノート ド ユズが海辺のユズなら、オイエドはタイムとラズベリーを含んだ、より都市的で少し遊びのあるユズです。
Acqua di Parma(アクア ディ パルマ)のYuzu(ユズ)は、より南欧的で、明るく整ったシトラス・フローラルとして捉えやすい相手です。アクア ディ パルマが陽光の中のユズなら、オイエドは江戸という名前をまとった、少し異国化されたユズ。甘酸っぱさとハーブ感が強く、写実よりも香水的な再構成に寄っています。
Atelier Cologne(アトリエ コロン)のPomélo Paradis(ポメロ パラディ)と比べると、果肉と皮の違いが見えます。ポメロ パラディは、グレープフルーツの果肉のジューシーさが前に出る明るい柑橘。オイエドは、ユズの皮、タイム、ラズベリーで、ほろ苦さとハーブの青さを抱えた柑橘です。単純に「爽やかなシトラス」として選ぶなら他にも候補はありますが、ユズ、江戸、日本人調香師、ラズベリー、タイムという組み合わせまで含めて楽しむなら、オイエドはかなり独自です。
購入ガイド・価格・おすすめ度
現行の主対象はEau de Toiletteで、公式ページでは50mlと100mlの選択肢が確認できます。米国公式では50mlが145ドルとして表示されており、日本価格は販売時期やチャネルにより変動します。複数の資料では、50mlが1万円台後半、100mlが2万円台半ば前後として語られますが、価格改定があるため、購入時は公式または正規取扱店で確認するのが安全です。
おすすめしやすいのは、普通のレモンやベルガモットでは少し物足りない人、ユズの香りが好きだけれど写実的すぎるものより香水としてのひねりが欲しい人、ディプティックの物語性に惹かれる人です。春から初夏の昼、白いシャツ、リネン、散歩、旅行、オフィスの気分転換にはよく合います。軽さがあるので、強い香水が使いにくい日にも選びやすい一本です。
慎重に試したいのは、リアルな柚子だけを求める人、キャンディのような甘酸っぱさが苦手な人、タイムや薬草的なグリーンが苦手な人、そして長い持続を最優先する人です。トップのユズが好きでも、30分後にラズベリーやタイムがどう出るかで印象が変わります。試香するなら、最初の数分で判断せず、中盤まで見るのがおすすめです。
実際の使用感・シーン・評判
オイエドが一番似合うのは、春、初夏、初秋の昼です。強い日差しの中というより、風が通る午前中、散歩、旅行先の朝、明るいオフィス、軽いランチのような場面が合います。香りの距離感は近距離から中距離。部屋を支配するタイプではなく、自分の周囲にユズの明るさを作る香りです。
冬に使う解釈もあります。ユズという素材は、日本では冬至の柚子湯とも結び付きます。寒い日にオイエドを少量使うと、夏の爽快感というより、柚子の皮が湯気に混じる記憶として楽しめるかもしれません。ただし、これは重い冬香水ではありません。コートの中に深く残るアンバーやバニラではなく、軽く気分を明るくする柑橘です。
評判はかなり分かれます。好意的な声では、「爽やかで唯一無二」「春夏にぴったり」「甘すぎない柑橘」「本物の柚子を思わせる」といった言葉が出ます。一方で、「入浴剤っぽい」「キャンディっぽい」「薬っぽい」「持続が弱い」と感じる人もいます。この分かれ方は、オイエドが失敗しているからではなく、ユズをそのまま写すのではなく、ラズベリーとタイムで香水として再編集しているからです。
オイエドは、単に「爽やかな柑橘がほしい」というだけなら少し不思議に感じるかもしれません。けれど、ユズの皮が弾け、赤い甘酸っぱさが差し込み、タイムの青さが残る。その小さな違和感を楽しめる人には、記憶に残るディプティックのシトラスです。


