ブラック
ブルガリ「ブラック」は、スプレー直後のゴムのようなインダストリアルな匂いから、上質なバニラとレザーの甘さへ変化する香りです。矛盾した素材感が魅力で、秋冬の夜に無機質さと官能性を同時に残します。
#316 · 2026-03-31
香水の基本情報と第一印象
BVLGARI(ブルガリ)の「Bvlgari Black(ブルガリ ブラック)」は、1998年に発売されたオリエンタル・ウッディの香りです。宝飾メゾンであるブルガリが、大都市の概念を極限まで追求した「異端児」とも言える名作です。ユニセックスで使える都会的でスモーキーなレザーとバニラが特徴的で、唯一無二の存在感を放ちます。
一般的なイメージでは、ボトルの形から男性的で重厚な香りだと思われることが多いですが、実際に試すとその印象は大きく変わります。スプレーした瞬間に強烈なゴムの香りに衝撃を受け、やがて驚くほど上質でパウダリーなバニラの甘さが肌に寄り添うという、矛盾した美しさが最大の魅力です。
調香師・ブランドの背景と制作秘話
1884年にローマで創業された宝飾ブランドのブルガリは、「オ パフュメ オーテヴェール」などで茶の表現を確立しましたが、本作はその延長線上にありながら全く異なる方向に振り切った野心作です。
調香を手掛けたのは、フランス出身の巨匠Annick Ménardo(アニック・メナード)です。「闇と大胆さ」を得意とし、人々が最初は嫌悪するかもしれない香りを、最終的には愛してしまうように調教する手腕が高く評価されています。
インスピレーションの源泉は、ニューヨークや東京といった大都市のダイナミズム、アスファルトの道、高層ビル群です。サイバーパンク美学やインダストリアル・フェティッシュのトレンドが背景にあり、彼女が実際に地下鉄でゴムや金属の香りを分析したという逸話も残されています。
香りの詳細分析
この香水は、「ピラミッドのない香水」として知られています。トップ・ミドル・ベースと順番に変化するのではなく、すべての要素が最初から塊のように立ち上がり、濃淡を変えながら持続する「モノリシック(一枚岩的)」な構造を持っています。
スプレー直後は、ブラックティー(ラプサンスーチョン)やベルガモットによる、鋭くスモーキーで金属的な香りが広がります。「夏の雨上がりの熱いアスファルトの上にある黒いゴムタイヤ」を思わせる衝撃的な幕開けです。
攻撃的な煙が落ち着くと、シダーウッドやサンダルウッドが織りなす「新品のレザーグローブと芳醇な煙草の葉のハーモニー」が現れます。荒々しい獣の匂いではなく、スエード的で温かく、乾いた洗練を感じさせます。
そして最後は、アンバーやムスク、バニラがパウダリーで親密なスキンセントを生み出します。ケーキのような甘さではなく、バニラの鞘そのもののような乾いた上質な甘さが肌に長く寄り添います。香水評論家も、この香りを不調和な三つの軸の完璧な衝突であると分析しています。
他の香水との比較・ポジショニング
強烈な煙とレザー、バニラの要素を持つ香りとして、Le Labo(ル ラボ)の「Patchouli 24(パチュリ 24)」と比較されることがあります。同じ調香師による作品で精神的後継者とも言われますが、ブルガリ ブラックが都会的なラバー感を持つのに対し、パチュリ 24はよりドライで白樺のタールなどが強調された大地の力強さを持っています。
また、Van Cleef & Arpels(ヴァン クリーフ アンド アーペル)の「Midnight in Paris(ミッドナイト イン パリ)」は、お香が主体でより柔らかな甘さを持つ点が異なります。さらに、Prada(プラダ)の「Luna Rossa Black(ルナロッサ ブラック)」はゴムの衝撃を抑え、より清潔感のあるスマートな甘さを持った日常使いしやすいアプローチを見せています。
購入ガイド・価格・おすすめ度
ブルガリ ブラックはオードトワレ(EDT)のみの展開ですが、現在は生産終了となっています。流通しているものには、初期の「ツイストキャップ版」と後期の「取り外し式キャップ版」が存在します。
初期のツイストキャップ版は、より濃厚で力強く、ラバー感やスモーキーさが強烈です。一方、後期の取り外し式キャップ版は、スモーキーさがやや穏やかになり、バニラの甘さが主体となっています。強烈なオリジナル体験を求めるか、少しマイルドで日常に取り入れやすいバランスを求めるかで、探すバージョンを選ぶのが良いでしょう。
実際の使用感・シーン・評判
季節としては、満場一致で「秋冬」が最適です。冷たい空気の中で、スモーキーなレザーとバニラがカシミアのような心地よい温もりを発揮します。圧倒的に夜が似合う香りで、デートや非日常の場面において、個性をアピールする「アーマー(鎧)」として活躍します。
この香水の本質は「レプリカントのためのシャリマール」とも評される、未来的な人工の肌の匂いと古典的な官能性の見事な同居にあります。また、「ヴィンテージカーを修理するメカニックが、作業の合間にパウダリーな化粧をした恋人とお茶を飲んでいる情景」と表現されるように、工業的な冷たさと甘い温もりの矛盾した調和が、多くの愛好家を惹きつけてやみません。


