ボア・ダチャイ
メゾン クリヴェリ「ボア・ダチャイ」は、ブラックカラントの酸味とブラックティーの煙たさが重なるウッディな香りです。寒い日や雨の日の空気に似合う、派手ではないのに記憶に残る渋みと木質感があります。
#252 · 2026-01-26
香水の基本情報と第一印象
「ボア・ダチャイ(Bois Datchaï)」は、2018年に創業したフランスのニッチフレグランスブランド、メゾン クリヴェリから同年に発売されたオードパルファムです。
ブランド創設者ティボー・クリヴェリが実際に体験した、「森の中で野生のベリーを摘み、焚き火のそばでスパイシーな紅茶を飲む」という記憶を再現した香り。公式の香調分類は「ウッディ・フルーティー」ですが、一般的なフルーティー香水とは一線を画す、スモーキーで静寂な印象が特徴です。
第一印象は、甘さを期待して裏切られる心地よい驚き。ジャムのような甘さではなく、森の湿り気や焚き火の煙を含んだ「野生の果実」そのものの香りが広がります。
調香師・ブランドの背景と制作秘話
調香師はドロテ・ピオ(Dorothée Piot)。アムアージュ「メモワール ウーマン」やオルファクティヴ・ストゥディオ「シャンブル ノワール」などの代表作を持つ実力派です。天然香料の豊かな表情を生かし、相反する要素をドラマチックに対比させる技術に定評があります。
メゾン クリヴェリは「スロー パフューム」を信条とするブランド。流行やスピードを追わず、実体験に基づいた「驚き」と「コントラスト」のある香りを、時間をかけて丁寧に作ることを大切にしています。創業者は15年以上アジア各地で暮らし、植物原料の産地を巡る旅の中で出会った「予期せぬ香り」の記憶が、全ての香水の元になっています。
ボア・ダチャイのコンセプトは、まさにその旅の中での具体的な体験。野生のベリー摘みと、その後に飲んだスパイシーな紅茶という、感覚的な記憶がベースになっています。
香りの詳細分析
**トップノート(最初の5〜15分)** には、ブラックカラント(カシス)のつぼみが使われています。弾けるような酸味と、青々としたフレッシュさ、そして森の冷気を感じさせます。砂糖漬けの甘さではなく、葉や枝の青臭さを含んだ「摘みたての果実」のリアルな野生味が特徴。人によっては少し「野性的な癖」を感じることもあり、それが逆に「本物の森っぽい」と評価されています。
**ミドルノート(15分〜2時間)** では、ブラックティー、シナモン、パピルスが主役に。焚き火で燻されたようなスモーキーでドライな紅茶の香りが広がります。カシスの冷たさと対比するように、シナモンの温かいスパイス感が、冷えた体を温めるような温もりを演出。ベリーの酸味が落ち着き、お茶の渋みと古書のような乾いた木の香りが主役になっていきます。
**ラストノート(2時間以降)** には、シダーウッド、パチョリ、レザー、インセンス。深い森の樹皮、少し湿った土、使い込まれた革製品のような香りへと変化します。ほのかにレザーのアニマリックな野性味が混ざり、お寺やサウナにも通じる、落ち着いた静寂な余韻を肌に残します。
香りの変化は、鮮やかな「ベリーの酸味(冷)」から、「煙たい紅茶(温)」、そして「乾いた木と土(ドライ)」へ。森の奥深くへ入っていくように、ゆっくりと深く変化していきます。
他の香水との比較・ポジショニング
**セルジュ・ルタンス「フェミニテ・デュ・ボワ」** とは、フルーツとウッドを組み合わせたウッディフルーティーという点で共通しています。ただし、フェミニテはもっと甘く円熟した「女性的」な印象。ボア・ダチャイはカシス特有の野生の酸味があり、よりスモーキーでドライ、ユニセックスな印象です。
**ル ラボ「テ・ノワール 29」** とは、ブラックティーをテーマにしたスモーキーなウッディ香という点で似ています。テ・ノワールはフィグの濃厚な甘さとタバコの重厚感があり「都会的」。ボア・ダチャイはカシスの酸味が効いていて、より透明感と自然の冷たさを感じる「ネイチャー寄り」の香りです。
購入ガイド・価格・おすすめ度
現在の展開はオードパルファム(EDP)一択。濃度は18%と高めで、十分な持続力と深みがあります。容量は一般的に50mlと100mlが展開されています。
お菓子のような甘さが苦手な人、スモーキーな紅茶やウッディ系の落ち着きを好む人、人と被らない「静かな個性」を求める人におすすめ。逆に、わかりやすい甘いベリーの香りや、石鹸のような清潔感、万人受けするフローラルを求める人は、別の香水を検討した方がよいかもしれません。
実際の使用感・シーン・評判
**季節** は秋冬が最適。冷たい空気の中でこそ、スモーキーな温かみや木の香りが美しく引き立ちます。春の涼しい日や梅雨時の肌寒い日も可能ですが、真夏の高温多湿な日は避けた方が無難です。
**おすすめのシーン** は、自宅でのリラックスタイム、読書、森林浴、静かなカフェ、美術館巡りなど。プロジェクション(広がり)は控えめで、自分の周りのパーソナルな空間で優しく香るタイプ。ハグした時に「あれ?なんかいい匂いがする」と気づかれるような、肌に馴染むスキンセントです。
特に「寝香水」として使うと、深い森の中で眠るような安らぎが得られると評判。雨の日の夜などは特に情緒的でおすすめです。持続時間は6〜8時間程度。派手に拡散せず、肌の一部になったかのように長く続きます。


