ル・パルティシップ・パセ

セルジュ・ルタンス「ル・パルティシップ・パセ」は、焦がした砂糖、樹脂、スパイス、レザー、イモーテルが過去の記憶を呼び覚ますように重なる香りです。冷たい薬草感から温かなキャラメル調へ移り、甘さの奥に苦みと陰影を残します。

#250 · 2026-01-24

Serge Lutens / Le Participe Passé

香水の基本情報と第一印象

「ル・パルティシップ・パセ(Le Participe Passé)」は、セルジュ・ルタンスのコレクション・ノワールに属する2018年発表のオリエンタル系香水です。香水名はフランス語で「過去分詞」を意味し、「完了した行為」や「受動」といった文法的概念と、写真が現像液から浮かび上がるプロセスを融合させたコンセプトを持っています。

第一印象は、焦がした砂糖や樹脂が香る、過去の記憶を呼び覚ますようなミステリアスな香り。ルタンス初期の傑作を彷彿とさせる「原点回帰」的な作品とも評されており、「美味しい」と感じるか「懐かしい」と感じるか、人によって評価が分かれるのも面白い点です。

調香師・ブランドの背景と制作秘話

調香を手がけたのは、巨匠クリストファー・シェルドレイク(Christopher Sheldrake)。セルジュ・ルタンスの「フェミニテ・デュ・ボワ」「アンブル・スュルタン」「シェーヌ」など数々の名作を生み出し、シャネルの調香にも関わる人物です。

この香水での彼らしさは、スパイス、樹脂、木の香りを巧みに操り、甘さの中に毒や影を含ませる重層的な構成にあります。過去の自身の傑作(アラビやシェーヌ)の要素を再構築した「セルフカバー」や「集大成」的な作品とも言われています。

ブランドの創設者セルジュ・ルタンスは「香りは記憶であり、文学である」という哲学を掲げ、流行を追わず、自身の内面世界を表現し続けています。この香水には、彼のフランス北部の故郷リールの森(松の香り)と、現在の住処であるモロッコ(スパイスと熱気)の記憶が融合しているとも解釈されています。

香りの詳細分析

**トップノート(最初の5〜15分)** アルテミシア(ヨモギ)とベルガモットによる、薬草のようなグリーンな苦味と一瞬の冷たい閃光。パインニードルのような冷涼感も加わり、写真の現像液のような、少しケミカルで鋭いニュアンスや古い屋根裏部屋のような埃っぽさを感じさせます。最初の数分で冷たさは消え、急速に温かみのある樹脂の香りへと変化します。

**ミドルノート(15分〜2時間)** クミン、ペッパー、ドライフルーツによる、スパイシーで熱を帯びた人間の体温のような香り。クミンの少しアニマリックなスパイスが、甘さに深みと「生々しさ」を与えます。深く焙煎したコーヒーのような苦味を感じるという声も。スパイスの奥から、黒砂糖やモラセスを煮詰めたようなねっとりとした濃厚さが現れます。

**ラストノート(2時間以降)** エジプト産バルサム、キャラメル、レザー、パチョリ、イモーテルによる、焦げた砂糖と古い木の樹脂が混ざり合う重厚な甘さ。イモーテル特有の、メープルシロップとスパイシーなカレーを行き来するような独特の香気が特徴です。焚き火の後の燃えさしのようなスモーキーで温かい余韻が非常に長く続き、翌日まで肌に残ることもあります。

全体として「冷から熱へ」の移行が特徴的で、単なるグルマンではなく、苦味、焦げ、スパイス、そして「五味」すべてが含まれていると言われるほどの複雑さを持っています。

他の香水との比較・ポジショニング

同じセルジュ・ルタンスの「アラビ」とは、クミンやドライフルーツ、樹脂を使用したオリエンタル感で共通しますが、アラビがフルーティーで料理的なニュアンスを持つのに対し、本品はより焦げたキャラメルと樹脂が強く、スモーキーで暗い印象です。

「シェーヌ」とはイモーテルや樹脂、ウッディな骨格で共通しますが、シェーヌがドライで男性的な木の香りなのに対し、本品はたっぷりと甘い樹脂と焦がし砂糖をかけたような「艶やかな版」と言えます。

ルタンス初期の重厚なオリエンタルが好きで、特に「焦げた甘さ」や「苦味のあるグルマン」を求めている人に最適です。

購入ガイド・価格・おすすめ度

展開は50mlと100mlのオードパルファムのみ。濃度が高く持続性も非常に高いため、「1プッシュで一日中香る」という声も多数あります。少量でも十分に香るため、付けすぎには注意が必要です。

日本公式サイトでは「販売終了予定」の表示が見られる場合があり、入手が難しくなりつつある可能性があります。ルタンスの香水は廃盤後に価格が高騰する傾向があるため、興味がある場合は早めの確保が推奨されます。

実際の使用感・シーン・評判

**最適な季節**は秋冬、特に木枯らしが吹くような寒さが厳しい真冬。高温多湿な真夏は香害になるリスクが高いため避けた方がよいでしょう。

**おすすめのシーン**は、一人で過ごす静かな夜の読書、暖炉のあるバー、美術館など内省的な空間。オフィスや満員電車、和食など繊細な料理の席では避けるのがマナーです。

拡散性が非常に強いため、足首や膝裏など鼻から遠い場所に「1プッシュ」または「半プッシュ」から始めるのが鉄則。出かける30分〜1時間前につけておくと、トップの鋭さが落ち着いて良い香りになります。

この香水の面白い点は、イモーテルに含まれる「ソトロン」という成分の働き。人によって「甘いメープルシロップ」にも「スパイシーなカレー」にも感じられ、特に日本人はカレーの匂いに馴染み深いため、欧米人よりも「カレー」と感じやすいという説もあります。あなたの肌の上では、甘い朝食になりますか?それともスパイシーなディナーになりますか?

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