バイザファイヤープレイス

メゾン マルジェラ「バイ ザ ファイヤープレイス」は、焚き火の煙、栗の甘さ、バニラの温度を重ねた、冬の暖炉の記憶を持つ香りです。甘いグルマンでありながら、焦げた木の乾きがはっきり残るため、柔らかさと煙たさが同じ比重で立ち上がります。

#171 · 2025-11-06

Maison Margiela / By the Fireplace

香水の基本情報と第一印象

By the Fireplace(バイ ザ ファイヤープレイス)は、Maison Margiela(メゾン マルジェラ)の「REPLICA(レプリカ)」コレクションから2015年に発売されたオードトワレです。レプリカは「特定の記憶や情景を香りで再現する」というコンセプチュアルなシリーズで、本作はその中でも特に高い人気を誇る一本。

ボトルのラベルには「Chamonix, 1971」と記されており、1971年のフランス・アルプス、シャモニーの山小屋で暖炉の前に座る——そんな冬の温かな記憶がテーマになっています。

第一印象は、意外なほどの「煙たさ」。バニラや栗が入っていると聞くと甘いお菓子のような香りを想像しがちですが、実際はパチパチと爆ぜる薪のスモーキーさが鮮烈に立ち上がります。公式の香調分類は**ウッディ・アンバー**。一言で表すなら、「暖炉で焼いた、香ばしい焼き栗」の香りです。

調香師・ブランドの背景と制作秘話

調香師は**マリー・サラマーニュ(Marie Salamagne)**。1977年パリ生まれで、医師の家系に育ちながらも香りの世界に魅了され、名門の香水学校ISIPCAで調香を学びました。現在はフィルメニッヒ社に所属するマスターパフューマーの一人で、イヴ・サンローラン「ブラックオピウム(共作)」やジョーマローン ロンドン「ミモザ&カルダモン」など、数々の人気作を手掛けています。

素材の二面性——たとえば「煙」と「甘さ」といった意外なコントラストを活かしながら、情景をリアルに、そして詩的に描き出すのが彼女の持ち味です。

Maison Margielaは、1988年にベルギー出身のデザイナー、マルタン・マルジェラがパリで設立したメゾン。「脱構築(デコンストラクション)」の革新的なデザインや、デザイナーの匿名性(顔を出さず、タグは4本の白いステッチのみ)で知られています。

この香水の核となる**「チェスナッツアコード」**は、天然香料として存在するものではなく、マリー・サラマーニュが複数の香料を組み合わせてゼロから創作した香り。単なる「栗」ではなく、「暖炉で焼いた栗」という具体的な情景を再現するために生み出された、特別なアコードです。

香りの詳細分析

**トップノート(最初の5〜15分)** **ピンクペッパー、オレンジブロッサム、クローブ**

スパイシーで刺激的な立ち上がり。パチパチと爆ぜる火の粉と、キリッとした冬の冷たい空気を同時に感じさせます。クローブのスパイシーさとペッパーの刺激が「煙たさ」を際立たせ、人によってはこの段階が最もスモーキーに感じられるかもしれません。数分経つと、刺激的な鋭さが少し和らぎ、奥にある温かさや香ばしさが顔を出し始めます。

**ミドルノート(15分〜2時間)** **チェスナッツアコード(焼き栗)、ガイアックウッド、ケードオイル**

この香水の**核心部分**です。香ばしくローストされた栗の、ほっこりとした甘さが広がります。ガイアックウッドとケードオイルが燃える薪のリアルなスモーキーさを加え、「焼き栗」のグルマンな甘さと「煙」のウッディ感が見事に調和する時間帯です。スモーキーさが少し落ち着き、栗とバニラ由来の甘さがよりまろやかに感じられるようになります。

**ラストノート(2時間以降)** **バニラ、ペルーバルサム、カシュメラン**

暖炉の火が熾火(おきび)になった後のような、穏やかでクリーミーな甘さ。肌に溶け込むような安心感があります。多くの方が「焼いたマシュマロ」や「バニララテ」のようだと表現する、心地よい温かさが長く続きます。

**香りの変化の流れ** トップのスパイシーでシャープな煙から、ミドルの香ばしい「焼き栗と薪」、そしてラストの穏やかでクリーミーな「バニラマシュマロ」へ——情景が移ろうように変化していきます。最も特徴的な瞬間は、ミドルノートの「焼き栗」と「煙」が同時に香り立ち、リアリティと美味しさが共存する時間帯です。オードトワレながら、6時間以上持続するという評価が非常に多い点も見逃せません。

他の香水との比較・ポジショニング

**Tom Ford「Tobacco Vanille(タバコ・バニラ)」** との比較では、どちらも秋冬向けの温かみとバニラの甘さを持ちますが、タバコ・バニラは「タバコの葉」が主役でより重厚。By the Fireplaceは「薪のスモーキーさ」と「焼き栗の香ばしさ」が中心で、より情景的です。

**L'Artisan Parfumeur「Noir Exquis(ノワール エクスキィ)」** は同じく栗とバニラを使ったグルマン系ですが、コーヒーやメープルシロップの甘さが強く「高級な洋菓子店」のような印象。By the Fireplaceの最大の特徴であるスモーキーさは含まれていません。

リアルな焚き火や煙の香りが好きで、甘すぎない大人のグルマン系を秋冬に探している方に最適な一本です。逆に「煙たい」香りが少しでも苦手な方は、別の選択肢を検討した方がよいかもしれません。

購入ガイド・価格・おすすめ度

展開サイズは**10ml(トラベルサイズ)、30ml、100ml**。持ち運びには10mlが便利ですが、秋冬のヘビーユースを考えると100mlのフルボトルも検討の価値があります。近年は**リフィル(詰め替え)**も発売されており、お気に入りのボトルを使い続けることができます。

ボトルはアンティークの薬瓶にインスパイアされたシンプルな円筒形で、コットン布製のラベルが貼られたミニマルなデザイン。インテリアとして飾る方も多い人気アイテムです。過去にはメタリックゴールドのホリデー限定ボトルが発売されたこともあります。

オードトワレとは思えない持続性の高さ(6〜8時間との声が多い)も、コストパフォーマンスの面で嬉しいポイントです。

実際の使用感・シーン・評判

**おすすめの季節・時間帯** 最適なのは**秋と冬**。肌寒い季節にこそ、この香りの温かみが最大限に活きます。時間帯は**夕方〜夜**がベスト。就寝前の寝香水としても高い人気があります。

**おすすめのシーン** 自宅でのリラックスタイム、読書や映画鑑賞、親しい人とのデートに。「ハグした時に香ると最高」という声もあり、密接な距離でこそ真価を発揮する香りです。プロジェクション(広がり)は中程度で、自分の周囲50cmほどのパーソナルスペースを心地よく満たします。

**注意したいTPO** オフィスや満員電車、香りを重視するレストラン(特に和食)では控えめに。「煙たい」と感じる方もいるため、TPOは選びましょう。服装はウールやカシミアのニット、フランネルシャツなど冬素材との相性が抜群です。

**SNSでの人気** TikTokを中心に、若い世代が「冬の完璧な香り」として動画を投稿したことから口コミで人気が爆発。歌手のサブリナ・カーペンターなど海外セレブの愛用も話題になりました。ラベルに刻まれた「1971年」という時代設定は、スマートフォンもSNSもない時代——自然や暖かさと直接つながっていた、スローな時間へのノスタルジアを表現しています。現代人が求める「デジタルデトックス」的な癒しを、香りで体験させてくれる一本です。

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