タバック エクスキ
キャロン「タバック エクスキ」は、チョコレート、インセンス、シナモン、アイリス、ミルラでタバコの夜を甘く燻すグルマンです。煙たさと菓子のような甘さが同居し、冷たい季節に似合う深い温度があります。
#149 · 2025-10-15
香水の基本情報と第一印象
Caron(キャロン)のTabac Exquis(タバック エクスキ)は、2021年に登場したEau de Parfum(オード パルファム)です。名前のタバックはタバコ、エクスキはフランス語で精巧な、絶妙な、非常に美味な、という意味を持ちます。つまりこの香水は、単なるタバコの煙ではなく、味わうように作られたタバコです。
第一印象は、チョコと煙がほどくタバコの夜。トップに置かれているのはChocolate(チョコレート)とIncense(インセンス)です。最初から葉巻の煙が前に出るというより、少し苦いチョコレートに、薄い樹脂の煙がかかるように始まります。甘いけれど子どもっぽくない。お菓子というより、暗い木のテーブルに置かれたチョコレートと香炉の空気です。
面白いのは、タバコを名乗りながら、公式構成ではチョコレート、インセンス、シナモン、アイリス、ミルラ、アンブロクサンが前面に出ることです。だからこれはタバコ葉の写実ではなく、タバコをめぐる夜の時間をグルマンと樹脂で作る香水として見ると、魅力が見えやすくなります。
調香師・ブランドの背景と制作秘話
キャロンは、1904年にErnest Daltroff(エルネスト ダルトロフ)がパリで創設した老舗香水メゾンです。芸術的なボトル、クラシックな名香、そして香水に物語性を持ち込む姿勢で知られます。代表作にはNarcisse Noir(ナルシス ノワール)、Bellodgia(ベロージャ)、そして1919年のTabac Blond(タバック ブロンド)があります。
タバック ブロンドは、キャロンのタバコの歴史を語るうえで重要です。当時の女性の喫煙というイメージを香水に取り入れた、挑発的で反骨的な作品として語られてきました。タバック エクスキは、そのタバコの系譜をそのまま復刻するのではなく、チョコレートや樹脂、粉感を通して現代的に作り直した一本です。
本作の調香師として扱うのはJean Jacques(ジャン ジャック)です。キャロンのインハウス・パフューマーとして、ブランドのアーカイブと現代の嗅覚をつなぐ役割を担っています。タバック エクスキでは、タバコを野生的な煙だけで見せるのではなく、チョコレート、シナモン、アイリス、ミルラ、アンブロクサンで、食べられそうで食べられない夜の香りへ変えています。
香りの詳細分析
トップでは、チョコレートとインセンスが立ち上がります。チョコレートは甘いだけでなく、カカオの苦みや粉っぽさを含みます。インセンスは、火を強く感じさせる煙ではなく、樹脂が静かに燻るような薄い煙です。ここでのタバコ感は、タバコ葉そのものより、甘い煙を含んだ空気として出ます。
ミドルでは、Cinnamon(シナモン)とIris(アイリス)が現れます。シナモンは温度を上げ、チョコレートにスパイスの輪郭を足します。アイリスは粉感、化粧感、クラシックな乾き。ここで香りは、ただの洋酒チョコではなく、古いサロンの空気に近づきます。甘いのに少しドライで、肌からふわっと粉が立つような質感があります。
ベースでは、Myrrh(ミルラ)とAmbroxan(アンブロクサン)が残ります。ミルラは樹脂の苦み、少し薬草的な暗さ、アンブロクサンは温かく拡散するアンバー感です。最後はバニラだけで丸くなるのではなく、樹脂の苦みと肌の温度が残ります。甘いタバコというより、チョコレート、煙、樹脂、粉が一体になった夜の余韻です。
他の香水との比較・ポジショニング
Tom Ford(トム フォード)のTobacco Vanille(タバコ バニラ)と比べると、どちらもタバコと甘さの組み合わせです。第60回で扱ったタバコ バニラは、タバコ葉、バニラ、カカオ、トンカビーン、ドライフルーツが作る濃密な私的クラブ。タバック エクスキは、もっとチョコレート、粉感、樹脂の丸みに寄ります。
Kilian(キリアン)のBlack Phantom(ブラック ファントム)と比べると、ブラック ファントムはラム、コーヒー、甘いダークグルマンの印象が強い作品です。タバック エクスキも夜のグルマンですが、キャロンらしいクラシック感とアイリスの粉感があるため、甘さの質が少し古風です。
ブランド内で見るなら、タバック ブロンドとの距離が重要です。タバック ブロンドがレザーとタバコの反骨なら、タバック エクスキはチョコレートと樹脂の美食的タバコ。タバコという同じ言葉を、時代ごとに違う態度で香水にしているところが面白いです。
購入ガイド・価格・おすすめ度
タバック エクスキは30ml、50ml、100mlなどの展開が確認されます。価格や在庫は販売国、時期、正規取扱店によって変動するため、購入時は公式ページや正規販売店で確認するのが確実です。高価格帯の香水なので、いきなり大きいサイズではなく、試香や小容量から入るのが現実的です。
購入前に見たいのは、タバコ感の出方です。名前から強い葉巻、乾いたタバコ葉、レザーの煙を期待すると、少し違って感じる可能性があります。むしろチョコレート、シナモン、アイリス、ミルラ、アンブロクサンが作る、甘い樹脂グルマンとして見るほうが理解しやすい香水です。
おすすめしやすいのは、チョコレート、インセンス、シナモン、アイリス、ミルラ、アンバー、タバコ系グルマンが好きな人。反対に、甘さが苦手な人、軽いシトラス、清潔なムスク、強いタバコ葉そのものを求める人には、期待とずれるかもしれません。
実際の使用感・シーン・評判
似合う季節は秋冬です。10月から2月、冷えた夜、厚手の服、暗い色、室内の暖かさに合います。春夏に使うなら、夜や冷房の効いた場所で少量にしたい香りです。
シーンは、読書、バー、ホテルラウンジ、デザート後、落ち着いたデート、静かな休日の夜。オフィスで使うならかなり少量がよさそうです。服装なら、黒、ブラウン、ウール、ベルベット、レザー、ニット。爽やかな白シャツより、少し重さのある素材に合います。
評判では、洋酒チョコ、肌なじみ、大人のグルマン、リラックス感、甘いけれど上品、という声があります。一方で、タバコが思ったより弱い、甘さが強い、冬以外は重い、価格が高い、という慎重な声もあります。
タバック エクスキは、タバコを煙だけで描く香水ではありません。チョコレート、インセンス、シナモン、アイリス、ミルラ、アンブロクサンで、タバコのある夜の空気を甘く燻す香水です。そのチョコと煙の余韻に惹かれる人には、秋冬に何度も戻りたくなる一本です。


