イーディシス
イソップ「イーディシス」は、ブラックペッパー、フランキンセンス、サンダルウッドが透明な煙と木質を作る香りです。神話的な静けさにクミンの個性が差し込み、穏やかな中にも人肌の温度があります。
#120 · 2025-09-16
香水の基本情報と第一印象
Aesop(イソップ)のEidesis(イーディシス)は、2022年にOthertopias(アザートピアス)から登場したオードパルファムです。調香はBarnabé Fillion(バーナベ フィリオン)。香調はウッディ、スパイシー、アンバー。ブランドが主要香調として示すブラックペッパー、フランキンセンス、サンダルウッドが、この香りの入口になります。
第一印象は、明るい胡椒と白い香煙です。プチグレンの青さが少しあり、そこへブラックペッパーが鋭く走ります。ただし、攻撃的なスパイスで終わりません。すぐにフランキンセンスの樹脂感と、奥にある白檀の静けさが出てきます。今回の興味喚起フレーズは、フランキンセンスと白檀が映す透明な余韻。強く外へ広がる香りというより、自分の内側へ沈む香りです。
調香師・ブランドの背景と制作秘話
イーディシスは、イソップのフレグランスラインの中でも、境界的な場所を香りで旅するアザートピアスの一作です。ミラセッティ、カースト、エレミアに続く章として、鏡面の向こう側、自己と自然の境界をテーマにしています。
背景にあるのは、Narcissus(ナルキッソス)とEcho(エコー)の神話です。水面に映る自分を見つめるナルキッソス、届かない声として残るエコー。この香りは、その自己凝視や反射を、胡椒の衝撃、乳香の香煙、白檀の肌なじみで表現しています。バーナベ フィリオンは、イソップの長年の香りの協働者で、風景や抽象概念を香りにする作風が特徴です。
香りの詳細分析
トップでは、Petitgrain(プチグレン)、ブラックペッパー、フランキンセンスが立ち上がります。プチグレンはビターオレンジの葉や枝を思わせる青く苦い香りで、胡椒の刺激を清潔に見せます。つけた瞬間は、暗い森ではなく、冷たい水面に光が走るような透明感があります。
ミドルでは、Cumin(クミン)、Cedar(シダー)、フランキンセンスが中心になります。乳香は白く乾いた香煙のようで、寺院や教会を思わせる静けさがあります。そこにクミンの少し金属的で体温に近い影が入るため、単なる清潔ウッディではなくなります。このクミンは、人によっては肌っぽい、汗っぽい、スパイスカレーのように感じることがあり、好みが分かれるポイントです。
ベースでは、Sandalwood(サンダルウッド)、シダー、Vetiver(ベチバー)が残ります。白檀はクリーミーでなめらか、シダーは乾いた木肌、ベチバーは土や根のような落ち着きを加えます。ラストは大きく拡散するというより、肌の近くで静かに続きます。水面を見つめていた視線が、最後は自分の体温へ戻ってくるような余韻です。
他の香水との比較・ポジショニング
Diptyque(ディプティック)のTam Dao(タム ダオ)は、サンダルウッドをまっすぐ、静かに見せる香水です。イーディシスにも白檀の静けさはありますが、そこへブラックペッパー、フランキンセンス、クミンが入るため、より神話的で、少し肌に近い陰影があります。
Comme des Garçons(コム デ ギャルソン)のBlackpepper(ブラックペッパー)は、胡椒そのものを主役にした乾いたスパイス ウッディです。イーディシスは胡椒を入口に使い、その後は乳香と白檀へ沈めます。攻めのスパイスではなく、反射と沈黙のスパイスです。
Le Labo(ル ラボ)のSantal 33(サンタル サーティスリー)は、サンダルウッド、レザー、ムスクで都市的な野性を作る香りです。イーディシスはもっと静かで、レザーの外向きなかっこよさより、香煙と水面の内省に寄っています。イソップ内で比べるなら、Marrakech Intense(マラケッシュ インテンス)より花や異国感が控えめで、より透明で瞑想的です。
購入ガイド・価格・おすすめ度
日本では50mLのオードパルファムとして販売されています。価格は改定される可能性があるため、購入時は公式オンラインストアや直営店で確認するのが確実です。ボトルはイソップらしいアンバーガラスと黒いキャップで、インテリアに置いても違和感のないミニマルな佇まいです。
おすすめしやすいのは、フランキンセンス、サンダルウッド、ペッパー、静かなウッディ、少し哲学的な香りが好きな人です。逆に、甘い香り、明確なフローラル、強い拡散、分かりやすい色気を求める人には、控えめで難しく感じるかもしれません。特にクミンの体温感は肌で確認した方がいいです。
試香する時は、トップの清潔なスパイスだけで判断しない方がいい香りです。時間が経つほど、乳香、クミン、白檀が出てきます。ムエットでは端正でも、肌では少し生々しくなる可能性があります。できれば朝につけて、夕方の肌なじみまで見ると、この香りの良さと苦手ポイントが判断しやすくなります。
実際の使用感・シーン・評判
似合うのは、秋冬、夜、読書、ギャラリー、静かな会食、ホテルラウンジ、黒やグレーの服です。春夏でも、雨の日や夜、冷房の効いた室内なら使えます。香りで空間を支配するより、自分の周囲に静かな輪郭を作るタイプです。
評判では、知的、神秘的、肌なじみがよい、ホテルのよう、お香のよう、木の静けさがあるという声があります。一方で、クミンが苦手、カレーっぽく感じる、拡散が控えめ、価格に対して持続が物足りないという意見もあります。万人向けではありませんが、合う人には日常の気分を深く整える香りです。
イーディシスの魅力は、白檀をただなめらかに見せないところです。胡椒の衝撃、乳香の白い煙、クミンの体温、ベチバーの土。水面に映る像はきれいですが、そこには少し不穏さもあります。フランキンセンスと白檀が映す透明な余韻が、この香りの静かな強さです。


