カンナビス パチュリ

ドリス ヴァン ノッテン「カンナビス パチュリ」は、セージインセンス、パチュリ、ベチバー、ムスクで光と影の緑を描くハーバルウッディです。青さの奥に土っぽい深みがあり、クールな服地のような質感で肌に残ります。

#102 · 2025-08-29

Dries Van Noten / Cannabis Patchouli

香水の基本情報と第一印象

Dries Van Noten(ドリス ヴァン ノッテン)のCannabis Patchouli(カンナビス パチュリ)は、2022年に登場したEau de Parfum(オード パルファン)です。名前だけ見ると強いカンナビス調を想像しますが、実際の主役はセージ、パチュリ、ベチバーが作るハーバルウッディの陰影です。

第一印象は、セージとパチュリが描く、光と影の緑。ベルガモットとシダーリーフの冷たい明るさから始まり、すぐにセージインセンスの青い葉、パチュリの土っぽい葉、薄い煙が立ち上がります。甘い香りではありません。清潔なのに湿った土があり、整っているのに少し野性味があります。

この香水の面白さは、名前の挑発性と肌での落ち着きの差です。大麻の香りを直接再現するというより、カンナビスという言葉が持つ自由さやざらつきを、セージとパチュリの対比へ置き換えた香りとして捉えると理解しやすい一本です。

調香師・ブランドの背景と制作秘話

ドリス ヴァン ノッテンは、ベルギー・アントワープを拠点にするファッションブランドです。色、柄、素材を意外な形で重ねる服作りで知られ、その美学は香水にも反映されています。香水ラインでは、相反する素材を組み合わせ、視覚的なコントラストを嗅覚へ移し替えるような構成が目立ちます。

調香師はNicolas Bonneville(ニコラ ボヌヴィル)。彼は本作を、クラリセージの新鮮な緑の葉と、パチュリのウッディな葉が擦れ合う「光と影」の嗅覚的パターンとして説明しています。この一文が、この香水のほぼすべてを言い当てています。

ブランドは2018年にPuig(プーチ)グループの傘下となり、2022年に本格的なビューティラインを始動しました。ボトルも含めて、単なる香りの商品ではなく、ファッション、素材、手触り、サステナビリティを一体で見せる設計です。

香りの詳細分析

トップでは、ベルガモットとシダーリーフが立ち上がります。ベルガモットは明るい苦みを出し、シダーリーフは針葉の冷たいグリーンを添えます。シトラスの軽さだけで飛ぶのではなく、最初から木の芯があり、クリーンなメンズコロンを思わせる瞬間もあります。

ミドルでは、セージインセンスとパチュリが中心です。

セージは青く、少し薬草的で、葉を指で擦ったような油性感があります。インセンスは強い煙ではなく、緑の上にかかる薄いもや。パチュリは暗い土の葉として、香りの輪郭を深くします。ここで、明るいトップが一段暗い緑へ反転します。

ベースでは、ベチバーとムスクが肌に寄ります。ベチバーは根や湿った土のように乾き、ムスクはその硬さを柔らかくします。ラストは甘い余韻ではなく、白シャツや薄いジャケットの内側に残る、静かなグリーンウッディ。香りの強さは後半で落ち着き、近い距離で整った清潔感を残します。

他の香水との比較・ポジショニング

Le Labo(ル ラボ)のSantal 33(サンタル サーティースリー)とは、都会的でユニセックスな木質感が共通します。第33回で扱ったサンタル 33は、サンダルウッド、レザー、カルダモンの乾いた拡散が魅力です。カンナビス パチュリは、もっとセージ、パチュリ、ベチバーの葉と土に寄ります。

Hermès(エルメス)のTerre d'Hermès(テール ドゥ エルメス)と比べると、柑橘からウッディ/ベチバーへ落ちる骨格は近いです。ただしテール ドゥ エルメスは鉱物的なオレンジとベチバーの明快さがあり、カンナビス パチュリはもっとハーバルで、インセンスとパチュリの緑の影が前に出ます。

Lalique(ラリック)のEncre Noire(アンクル ノワール)とは、ベチバーの湿った根や暗い木質でつながります。ただ、アンクル ノワールが黒いインクのように沈むなら、カンナビス パチュリはセージとムスクで透明に整えられ、日中にも使いやすいバランスです。

購入ガイド・価格・おすすめ度

公式や主要小売では、100mlのオード パルファンと200mlリフィルが確認できます。価格や在庫、国ごとの商品名表記は時期で変わるため、購入時は公式サイトまたは正規取扱店で確認するのが確実です。一部市場では、ボワ デファンデュという名称で近い構成として扱われる情報もあります。

購入前に見るべきなのは、カンナビスという名前ではなく、セージ、パチュリ、ベチバーを好きかどうかです。トップの明るさだけで判断すると、後半の土っぽさに驚くかもしれません。紙よりも肌で、少なくとも1時間ほど置いて判断したい香水です。

おすすめしやすいのは、甘さに頼らないグリーン、落ち着いたハーバル、パチュリ、ベチバー、インセンスが好きな人。逆に、甘いフローラル、バニラ、フルーティ、強い華やかさを求める人には、かなり静かで渋く感じられるはずです。

実際の使用感・シーン・評判

似合う季節は春、初夏、秋です。雨上がり、曇りの日、ギャラリー、オフィス、静かな外出、白シャツや薄手のジャケットに合います。夜の香水として強く主張するより、日中の空気を整えるタイプです。暑すぎる真夏には、パチュリとベチバーの土っぽさが重く感じられる場合があります。

使う量は1〜2プッシュで十分です。初動はベルガモットとシダーリーフで明るく立ちますが、後半は肌に寄ります。周囲に強く拡散させるより、近づいたときに青い葉と薄い煙がわかるくらいが、この香水には合います。

評判では、雨上がりの森、青葉の清涼感、落ち着くハーバル、メンズ香水が苦手でも使える、という声があります。一方で、名前ほどカンナビス感がない、ややメンズ寄り、持続が短い、パチュリやベチバーが苦手だと難しい、という声もあります。カンナビス パチュリは、刺激よりも抑制の中にある緑の深さを楽しむ香水です。

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