MYSLF オーデパルファム
イヴ・サンローラン「MYSLF」は、オレンジブロッサムとウッドで現代的な清潔感を描く香りです。白花、シトラス、ウッド、アンバーグリス調が滑らかにつながり、ジェンダーを固定しない明るい余韻を残します。
#91 · 2025-08-18
香水の基本情報と第一印象
Yves Saint Laurent(イヴ・サンローラン)「MYSLF Eau de Parfum(MYSLF オーデパルファム)」は、2023年に発表されたメンズフレグランスです。テーマは「自分自身との出会い」。名前の中央にYSLを置き、MとFをつなぐようにも読める、現代的なマスキュリニティの再定義を狙った作品です。
第一印象は、メンズ香水なのに花がとても自然に前へ出ることです。オレンジブロッサムが主役ですが、甘いフローラルというより、白いシャツの清潔感、肌に近い柔らかさ、少しだけセンシュアルな明るさとして立ち上がります。そこへシトラスとベルガモットが透明感を足します。
この香りを一言で表すなら、オレンジブロッサムとウッドが映す、自分らしさの肌香。MYSLF オーデパルファムは、男性らしさを強いスパイスや重いレザーで押し出すのではなく、白い花とウッドを並べて、自分の中にある柔らかさと芯の強さを同時に見せます。
ボトルは黒く直線的で、YSLのロゴが鏡のように立ち上がるデザインです。見た目はかなりミニマルでシャープですが、香りは思ったより丸い。黒いボトルと白い花、このコントラストがMYSLF オーデパルファムらしさです。
なお、MYSLFには後続のル パルファムもありますが、今回扱うのは2023年発表のオーデパルファムです。バニラや強いスパイスを想像するより、オレンジブロッサムとウッドの清潔なバランスとして捉える方が正確です。
調香師・ブランドの背景と制作秘話
イヴ・サンローランは、服でも香水でも、性別や装いの境界を揺らしてきたメゾンです。ル・スモーキングが女性の服装に新しい自由を与えたように、香水でもオピウム、クーロス、リブレなど、時代の価値観に踏み込む作品を出してきました。
MYSLF オーデパルファムは、その流れをメンズ側で更新する作品です。従来のメンズ香水は、ラベンダー、フゼア、スパイス、レザー、ウッドで強さを作ることが多いですが、この香りはオレンジブロッサムを中心に置きます。花を弱さではなく、自分らしさの一部として扱うところがポイントです。
調香師はクリストフ・レイノー、ダニエラ・アンドリエ、アントワーヌ・メゾンデュー。三人の共同作業として、清潔で分かりやすい拡散、透明感のあるフローラル、重すぎないウッディアンバーの土台が組み合わさっています。大衆的に使いやすいのに、YSLらしいメッセージ性も残しています。
ボトルにはリフィル対応の設計もあり、現代的なラグジュアリーとしてサステナビリティも意識されています。香りのコンセプトだけでなく、ボトル、広告、メッセージ全体で「自分らしさ」を見せるプロジェクトとして作られています。
香りの詳細分析
トップでは、オレンジブロッサム、シトラス、ベルガモットが立ち上がります。最初から白い花が見えますが、シトラスとベルガモットがあるため甘く重くなりません。清潔な洗い立て感と、花の柔らかさが同時に出る入口です。
ミドルでは、チュニジア産オレンジブロッサムアブソリュートが香りの中心になります。ここでMYSLF オーデパルファムの個性がはっきりします。花はフェミニンに寄りすぎず、肌に近い温度で広がります。白い花が、自信を強く叫ぶのではなく、静かに自分の輪郭を整えるように働きます。
ラストでは、ウッドアコード、アンバーグリス、アンブロフィックス、パチョリが残ります。ウッドは直線的な骨格を作り、アンバーグリス調の素材は清潔な拡散と肌残りを伸ばします。パチョリは黒い輪郭を足し、白い花をただ爽やかな香りで終わらせず、YSLらしい奥行きへ戻します。
時間変化は、清潔な花の入口、白花の肌感、ウッディアンバーの余韻という流れです。シトラス系メンズのようにすぐ消えるのではなく、花の柔らかさがしばらく残り、その後ウッドとパチョリで整います。強烈な個性ではなく、毎日使える現代的なシグネチャーとして作られています。
肌では、最初にベルガモットの明るさが出る人と、オレンジブロッサムの石けんのような清潔感が前に出る人がいます。中心に入ると白花が少し甘くなりますが、終盤のウッドとパチョリが引き締めます。清潔感、柔らかさ、色気のバランスを見ると判断しやすい香りです。
他の香水との比較・ポジショニング
イヴ・サンローラン「ロム」と比べると、ロムはジンジャーやウッドを軸にした、よりクラシックで親しみやすいメンズ香水です。MYSLF オーデパルファムは、そこへ白花を大きく入れ、清潔感とジェンダーフルイドな柔らかさを前に出します。
Dior(ディオール)「Sauvage(ソヴァージュ)」と比べると、ソヴァージュはベルガモット、アンブロキサン、スパイスで強い拡散と野性味を作る香りです。MYSLF オーデパルファムは、もっと丸く、花があり、近距離で清潔に見える。強く主張するより、整った印象を作る方向です。
Chanel(シャネル)「Bleu de Chanel(ブルー ドゥ シャネル)」と比べると、ブルー ドゥ シャネルはシトラス、インセンス、ウッドで落ち着いた万能感があります。MYSLF オーデパルファムは、より白花が明るく、若々しく、クリーンです。第74回で扱ったブルー ドゥ シャネルより、ウッディの渋さは軽く、フローラルの透明感が強いです。
Prada(プラダ)「ロム プラダ」と比べると、ロム プラダはアイリスのパウダリーで洗練を作ります。MYSLF オーデパルファムは、アイリスではなくオレンジブロッサムで清潔感を作るので、粉っぽさよりも白い花の肌感が前に出ます。
購入ガイド・価格・おすすめ度
日本公式では、MYSLF オーデパルファムの60mLが17,380円税込で掲載されています。ほかに容量違いやリフィル展開もあるため、価格は購入時に公式または正規取扱店で確認してください。リフィル対応のボトル設計は、長く使う人には実用面でも魅力です。
おすすめしやすいのは、清潔感のあるメンズ香水が欲しいけれど、いかにもスポーツ系、シャワー系、青いフゼア系では物足りない人です。オフィス、デート、日常、夜の軽い外出まで幅広く使えます。白シャツや黒いジャケットに合わせると、香りのコンセプトが分かりやすいです。
注意点は、オレンジブロッサムの出方です。肌によっては石けんのように清潔に出ますが、人によっては少し甘く、フローラルに感じます。花が苦手な人は、つけた直後ではなく30分後の肌残りを見てください。そこが自然なら、かなり使いやすい香りです。
また、個性の強いニッチ香水を期待すると、少し整いすぎていると感じるかもしれません。MYSLF オーデパルファムは、尖った芸術香ではなく、YSLが今のメンズ香水として広く提示するシグネチャーです。完成度は高いですが、分かりやすく、清潔で、万人に届く設計です。
使う量は、最初は1〜2プッシュで十分です。拡散は強烈ではありませんが、白花が肌で甘く出る場合は近距離で印象が残ります。首元より胸元や服の内側に軽く使うと、清潔感とウッドの余韻が自然に出ます。
実際の使用感・シーン・評判
実際の使用感は、明るくクリーンで、使う場面を選びにくいです。最初はシトラスと白い花で爽やかに始まり、しばらくするとオレンジブロッサムの柔らかい肌感が出ます。最後はウッド、アンバーグリス調、パチョリが整えて、清潔な余韻として残ります。
好意的な評価では、清潔感がある、女性からも好印象を得やすい、オフィスでも使える、ボトルが美しい、今っぽいメンズ香水として分かりやすい、という声が多いです。特に、花が入っているのに使いやすい点が評価されています。
一方で、個性が強すぎないため、香水に尖った驚きを求める人には物足りない可能性があります。また、甘い白花が苦手な人には、ミドルのオレンジブロッサムが少し長く感じられるかもしれません。MYSLF オーデパルファムは、強い主張ではなく、自分の輪郭を清潔に整える香りです。その方向が合うなら、日常のシグネチャーとしてとても使いやすい一本になります。




