23 喝采のゆくえ
喝采のゆくえは、ベルガモットとライム、シダーで始まり、ムスクとグレープフルーツを経てレザーへ向かうパフュームオイルです。カフェのいつもの席で役と向き合う、まだ知られていない役者の物語が添えられています。
#498 · 2026-09-29
香水の基本情報と第一印象
喝采のゆくえは、日本のブランド、パフュームオイルファクトリーが手がける31本の物語シリーズ「the STORIES」の23番にあたるパフュームオイルです。ひと言でいえば、ベルガモットとライムの明るい柑橘で始まり、最後に革の香りが残る一本。内容量は8mlで、アルコールと水を一切使わず、香りをオイルに溶かして手作りで仕上げる、ブランド共通の作り方でできています。
以前は「オリジナル No.23(Bergamot , Leather)」という名前でした。ブランドの改定にあわせて商品名が変わり、香りと内容は従来と同一です。旧名が始まりのベルガモットと終わりのレザーの2語だったとおり、この二つの素材が香りの両端にあたります。
ブランドは香調の分類名を出しておらず、示しているのはトップ・ミドル・ベースの素材だけです。柑橘系の香りとして紹介されることもあり、つけた瞬間はすっきりとした柑橘の印象。ただし最初から乾いた木の香りも一緒に入っていて、明るさの奥に落ち着きがのぞきます。
調香師・ブランドの背景と制作秘話
調香師の名前は公表されていません。ブランドは、パフューマーの手で丁寧に調香されたパフュームオイルだと紹介しています。
パフュームオイルファクトリーは2012年に日本で設立され、2016年に銀座へ本店を開きました。掲げている言葉は「名も無き一日を、香りで彩りたい。」。特別な日だけでなく、名前もつかないような普通の一日のための香り、という考え方です。香りの数を31種類にしているのも、1か月の中にあるさまざまな気分やシーンに合わせて、毎日使い分けられるようにするためです。運営は東京パフュームオイル株式会社とされています。
the STORIESの各番号には短い物語が添えられていて、23番の主人公は一人の役者です。物語は「その役者は、いつも同じカフェのおなじ席でセリフを覚えている。」と始まります。店内は静かすぎず、いつも誰かの話し声がしている。男は台本らしきノートにペンを走らせながら、自分に与えられた役と向き合っています。彼が役者だと気づく人は少ないけれど、彼もまた周りの雑踏を気にする素振りがありません。そして物語は「まだ見ぬ視線の大舞台で、走り回っているのかもしれない。」と結ばれます。
拍手の響きを持つ名前なのに、描かれているのは拍手の前、誰にも見られていない準備の時間です。喝采は、まだ彼の頭の中の大舞台にだけあります。2016年の公式Instagramの投稿では、この結びが「まだ見ぬ想像の大舞台で」となっていたという話もあり、どちらが先の書き方かは分かっていません。一語の違いで、大舞台は頭の中の舞台にも、観客の目が集まる舞台にも読めます。
香りの詳細分析
香りはトップ・ミドル・ベースの3段で組み立てられています。トップはベルガモット、ライム、シダー。ベルガモットは紅茶のアールグレイの香りづけに使われる柑橘で、少しほろ苦く上品な香りです。ライムはキリッとした酸味のある青い柑橘。そこへ、杉の仲間の木であるシダーが、削った鉛筆のような乾いた木の香りを添えます。明るい柑橘2つに乾いた木が1つ。最初から木の香りも同時に入っているところが、この一本の特徴です。
ミドルはムスクとグレープフルーツです。柑橘が真ん中の段にも置かれているため、トップの柑橘が引いたあとも、グレープフルーツの皮のようなほろ苦さが続きます。それを受け止めるのが、洗いたての肌やシーツを思わせる、やわらかく丸いムスクです。
ベースはレザー。使い込んだ革の財布や鞄のような、少し乾いて温かみのある香りで、最後は深いレザーまで届く奥行きのある香りだと紹介されています。柑橘の明るさの奥から革が現れるところが、いちばん印象的な瞬間です。温度でいえば、ひんやりからほんのり温かいへ。朝の光のような柑橘から、夕方の室内のような落ち着いた革へと移っていきます。
アルコールを使わないオイルなので、スプレーの香水のように最初にアルコールがツンと立つことがなく、柑橘も革も肌の上で穏やかに感じられます。香り方の強さには、肌や量による個人差があります。
他の香水との比較・ポジショニング
一本目は、韓国発のフレグランスブランド、タンバリンズのベルガ サンダルです。ベルガモットとライムの柑橘、シダー、最後のレザーという、喝采のゆくえと同じ骨格の素材を持っています。どちらも明るい柑橘で始まり、シダーの乾いた木を経て、最後に革の香りが残ります。違いは香りの厚みです。ベルガ サンダルはカルダモンのすっとしたスパイスとキュウリのみずみずしさが加わり、最後はサンダルウッドとアミリスのなめらかな木がレザーを支える、スプレー式の香水。喝采のゆくえは真ん中をグレープフルーツのほろ苦さとムスクのやわらかさが担い、肌の近くで穏やかに香ります。スパイスと木の厚みまで広がる香りが好きな人にはベルガ サンダル、柑橘と革のシンプルな流れを肌の近くで楽しみたい人には喝采のゆくえが合います。
二本目は、同じパフュームオイルファクトリーの「27 待ち人のシナリオ」です。旧名はオリジナル No.27(Lavender, Cedarwood)。同じ8mlのパフュームオイルで、トップにベルガモットがあり、シダーの乾いた木が香りを支える点は共通しています。ただ、進む方向はまったく違います。待ち人のシナリオはラベンダーとミントの涼しさで始まり、マグノリアの花、ピーチの果実、スパイスを経て、甘い樹脂のオポポナックスとバージニアシダーウッドへ向かう、甘くやわらかな構成です。喝采のゆくえは柑橘を重ね、最後にレザーで締める乾いた香り。花と果実のやわらかな甘さが好きな人には27番、柑橘のほろ苦さと革の締めくくりが好きな人には23番が向いています。
購入ガイド・価格・おすすめ度
喝采のゆくえは8mlのパフュームオイルで、公式価格は7,260円(税込)です。濃度違いはなく、1種類のみ。以前のオリジナル No.23と同じ香りです。最新の価格や販売状況は、公式サイトで確かめてから選ぶと安心です。
8mlの小さな容量なので、鞄に入れて持ち歩きやすいサイズです。利用者の声では、ブランドの商品はロールオンで肌に直接つけるタイプだと紹介されています。別売りで、エジプトの職人が手作りする専用の香水瓶「the GLASS」もあり、オイルを移し替えて飾れます。ひとつとして同じ模様はないそうです。
贈り物にも選びやすい一本です。the STORIESは1から31の番号が商品名で、その番号がパッケージに記載されています。2本を組み合わせると日付のように見せられ、ブランドも記念日や誕生日のギフトにすすめています。23番なら23日の誕生日や記念日に。ほかの番号と組み合わせれば、たとえば12月23日のような日付も作れます。パフュームオイルと香水瓶を合わせて2点購入すると無料のギフトボックスを選べ、花をあしらったフラワーアートボックス(3,300円、ブルー、ピンク、ホワイト、イエロー、パープルの5色)もあります。
向いているのは、柑橘から革へ向かう乾いた香りを、肌の近くで楽しみたい人です。周りにしっかり香りを広げたい人には、控えめに感じられるかもしれません。
実際の使用感・シーン・評判
いちばん合う季節は秋です。明るい柑橘で始まり革で終わる構成なので、夏の名残のある日から、少し肌寒くなる時期まで使いやすい香りです。春も、柑橘とムスクが中心の時間が長ければ軽やかに使えます。真冬の厚着の日は、肌の近くで香るオイルの香りが服に隠れやすいので、控えた方がいいです。
時間帯は、柑橘の明るさが生きる朝から午後にかけて。職場、ひとりで過ごすカフェ、本や台本を読む時間など、周りに強く香りを広げない場面に合います。秋の仕事の日ならシャツにジャケット、休日なら薄手のニットやカーディガンと合わせやすい香りです。
ブランド全体の利用者の声では、アルコールの香水に比べて穏やかで、肌の近くでやさしく香り、「香水をつけてます感」が少ないという感想が多く見られます。持続は6時間以上とされ、感じ方には個人差があります。普通の香水に比べると薄めで、強く香らせたいときには物足りないという声もあるので、しっかり感じたいときは手首と首すじなど、脈の近くの2か所につけるとよいでしょう。
カフェの片隅で役に向き合う役者のように、周りに気づかれるほどではなく、自分の近くで静かに続く香りです。


