エレベーション

洋梨とヘーゼルナッツの甘さに、焙煎したゴマやバニラを重ねた2026年の香水です。木とムスクの柔らかな余韻に、10年の創作を重ねています。

#489 · 2026-09-20

Les Eaux Primordiales / ELEVATION

香水の基本情報と第一印象

レ オー プリモディアルのエレベーションは、洋梨とヘーゼルナッツの甘さに、スパイスや焙煎したゴマを重ねたオードパルファムです。2026年に登場し、日本では4月29日に発売されました。創設者で調香師のアルノー・プーランが、10年の創作を祝って作った香水です。

甘い香りといっても、果物だけ、バニラだけではありません。ナッツの丸い甘さとゴマの香ばしさが重なり、木やムスクの柔らかな余韻へ続きます。身近な食材の名前から想像できる温かさに、花の香りも加わる組合せ。いつものバニラとは少し違う甘さを探している人に、気になる一本でしょう。

全体を思い浮かべる手掛かりは、綿のような柔らかさや、ミルクを思わせるまろやかさです。ミルクそのものの匂いというより、甘さやムスクが作る感触。香料の名前だけを眺めるより、ナッツやゴマがその柔らかさにどう重なるかを考えると、個性がつかみやすくなります。

調香師・ブランドの背景と制作秘話

アルノー・プーランは、北フランスのアラスに生まれました。父は金属加工、叔父は木工、祖父母は農業に携わっていたそうです。本人は機械工学を学び、2007年に香水と出会いました。身近な人たちのものづくりと、自分の手で形にするための学びが、香水へ進む前の背景にあります。

ランスで調香の基礎を学び、師となったのがアメリ・ブルジョワ。二人は長く協働し、プーランが芸術的な方向を示しながら、一緒に香りを形にしてきました。2015年に創設したレ オー プリモディアルの名前は、フランス語で「原初の水」という意味。ジュール・ヴェルヌの『海底二万里』に着想を得た名前で、地球上の生命が始まるもとになった水を表しています。

エレベーションには、過去の作品の特徴が受け継がれています。過去作の中で、それぞれ象徴的な素材として一つの作品になっていた洋梨、木とスパイスを含むバニラ、ゴマを、新しい一本に結集させました。これまで大切にしてきた香りを振り返る、10周年の作品です。

香水を作る場所にも、家族との思い出があります。プーランは子どもの頃、祖父と野菜を売りながら、道路の向かいにある城館を眺めていました。祖父から聞いていたのは、この土地の炭鉱や戦争の話。その城館を2021年に手に入れ、工房にしました。

アラス近郊のアックにある敷地は、14ヘクタールの樹木に囲まれています。いまのドメーヌ プリモディアルです。昔は外から眺めていた場所で、自分たちの仕事を続ける。上昇や成長をテーマにしたエレベーションという名前にも、故郷で積み重ねてきた歩みを重ねてみたくなります。

香りの詳細分析

トップは洋梨、ヘーゼルナッツ、カルダモン。洋梨の明るい甘さに、ヘーゼルナッツの柔らかな丸みが加わります。そこへカルダモンのスパイス感。みずみずしい果物とナッツでは、同じ甘さでも思い浮かぶ感触が違います。その二つが最初から組み合わされていることが、この香水の入口です。

ハートはオレンジブロッサム、シナモン、フリージアです。オレンジブロッサムは、オレンジの果実ではなく花の香り。シナモンの温かさに花の軽やかさが重なり、果物とナッツだけでは終わらない表情を加えます。香ばしい食材の名前に目が向きますが、花も一緒にあると知ると、甘さの想像が広がるでしょう。

ベースにはバニラ、ガイアックウッド、セサミ、アンブロクサン、ホワイトムスクが並びます。セサミはゴマのこと。本作では焙煎したゴマの香ばしさが、バニラの甘さや木の香りと重なります。最後の柔らかさを支えるムスクにも目を向けると、ゴマという名前から食べ物だけを思い浮かべずにすみます。

果物、ナッツ、花、木が急に交代するというより、重なりながら柔らかな余韻へ続く香りとして考えると分かりやすそうです。甘さと香ばしさ、その後に残る滑らかさ。肌で試すときは、どの部分が自分に心地よく感じられるかが楽しみになります。

他の香水との比較・ポジショニング

パルファム ドゥ マルリーのアルタイールは、バニラとスパイスの組合せを考える比較相手です。オレンジブロッサム、シナモン、カルダモン、ガイアックウッドにも共通点があります。アルタイールでは、バニラとプラリネの甘さが中心になる説明が特徴です。

エレベーションを選ぶ理由になるのは、洋梨やヘーゼルナッツ、ゴマも楽しめること。バニラとプラリネの甘さに惹かれるならアルタイール、ナッツとゴマの香ばしさを重ねたいならエレベーション。甘さの強弱だけでなく、何と組み合わされた甘さが好きなのかで比べられそうです。

もう一本は、エクス ニヒロのブルー タリスマン オードパルファム。洋梨、オレンジブロッサム、ムスクが共通し、柑橘やジンジャー、アンブロフィックスも使われています。清涼感と空気を含むような広がりが気になる比較相手です。

洋梨の爽やかさに注目するならブルー タリスマン、果物の甘さからナッツやバニラの温かさまで楽しみたいならエレベーション。同じ洋梨の名前があっても、周りの素材で選ぶ理由は変わります。

ゴマの使い方で比べるなら、ディプティックのローパピエ オードトワレです。両作とも焙煎したゴマの香ばしさを生かしていますが、ローパピエは米の湯気と白いムスクで、紙やインクを思わせる軽く静かな香りへ。エレベーションはヘーゼルナッツとバニラで、温かくコクのある甘さへ向かいます。三本を異なる方向から比べると、エレベーションの香ばしい甘さも見えてきます。

購入ガイド・価格・おすすめ度

日本で掲載されているエレベーションは100mlのオードパルファムで、価格は39,600円です。海外の公式展開には50mlと、携帯スプレーの11mlもあります。自宅で使うことが多いか、バッグに入れて持ち歩きたいかで、便利な容量も変わるでしょう。購入先の取り扱い容量や価格を確かめて選びたいところです。

ボトルは丸い肩を持つ円筒形で、金色の角形キャップを合わせています。淡い乳白色に見える胴と透明な底、細い金色の帯、正面の文字やロゴ。丸さと直線が一緒にある外観です。香りの柔らかさを知ってから眺めると、瓶の淡い色や丸い肩にも似た感触を見つけられるかもしれません。

ナッツやゴマの香ばしさを甘い香りの中で楽しみたい人には、試す理由のある一本です。一方、暑い日にすっと軽く香る爽快さを中心に求めるなら、クリーミーな甘さが好みに合うかを確かめたいところ。珍しい香料の名前への興味と、日々まといたい感触の両方から選べます。

実際の使用感・シーン・評判

合わせる場面として思い浮かぶのは、秋や冬の落ち着いた外出です。涼しい日のカフェや夕方のひととき、薄手のニットにジャケットを重ねるような装いに、ナッツとゴマの香ばしさを添える。バニラの温かい甘さも楽しめそうな提案です。

着用した人からは、落ち着いた甘さが肌に長く穏やかに残るところを好む声があります。一方、クリーミーな甘さを強く感じる人や、肌に残る匂いが好みに合わない人もいます。柔らかく香ることと、香りが弱いことは同じではありません。

暖かい日や人との距離が近い室内では、甘さをどう感じるかが気になるところです。最初の果物の甘さと、時間がたったあとの香ばしさやムスクを、肌で比べてみる。どちらの時間も心地よければ、外出の始まりから帰り道まで楽しむ姿も想像しやすくなります。

いつものバニラが好きで、ナッツやゴマが加わる感触にも惹かれる。そんな人には、エレベーションを選ぶ理由がはっきりしてくるでしょう。10年の創作を背景に持つ一本を、自分の涼しい日の過ごし方と重ねて楽しみたい香水です。

香水・ブランド・調香師