イリス・ドゥ・マルト
アイリスの柔らかな粉感に、レモングラスの爽やかさと木・お香の落ち着き。地中海の島のリネンを思わせる、水性香水オー・トリプルの一本です。
#486 · 2026-09-17
香水の基本情報と第一印象
ビュリーのイリス・ドゥ・マルトは、アイリスの柔らかな粉感に、ハーブの爽やかさと木・お香の落ち着きを重ねた香りです。アルコールを使わない水性香水、オー・トリプルの一本。花の名前が印象的ですが、花束の甘さだけを想像すると、少し違う表情が見えてきます。
ブランドが描くのは、島の風に揺れる清潔なリネンの記憶。粉を思わせるアイリスにレモングラスの爽快さが加わり、柔らかさとすっきりした感触が同居しています。そこへ木とお香の落ち着きも重なるため、単に明るいだけの香りには収まりません。
2023年、以前のコレクションに由来する4つの香りがビュリーの常設コレクションへ加わりました。イリス・ドゥ・マルトもその一つで、地中海のマルタの旅の物語を伴っています。清潔な布の心地よさと、旅先の空気を思い出す楽しみ。その両方から近づけるアイリスです。
調香師・ブランドの背景と制作秘話
ビュリーの歴史の始まりは1803年。ジャン=ヴァンサン・ビュリーがパリで開いた美容の店にさかのぼります。長く途絶えていた店を現代に復活させたのは、ヴィクトワール・ドゥ・タイヤックとラムダン・トゥアミの二人。2014年、パリのボナパルト通りに店を開きました。
昔の美容の知恵や道具を、現代の暮らしでも使えるものとして届ける。古い薬局を思わせる店や容器の雰囲気には、そんな姿勢が表れています。同時に、香水では水性という作りに取り組みました。オー・トリプルは2年の開発を経たシリーズで、細かな霧にするスプレーにも工夫が重ねられています。
イリス・ドゥ・マルトにビュリーが重ねるのは、デンマークの童話作家アンデルセンの旅です。1841年、彼は蒸気船レオニダスでマルタへ到着しました。夜の港に細い月が出て、海には影が映る。翌日には、サン・アントンという庭園の豊かな緑を訪れます。
島で過ごしたのは、わずか一日。乾いた島の眺めと庭園の緑、夜の港の光景が、短い滞在を忘れられない記憶にしました。遠くへ長く旅をしなくても、ほんの短い時間の景色を覚えていることはあるものです。この香りのリネンや島の風の情景にも、そんな記憶の楽しみが重なります。
香りの詳細分析
主要な香りは、アイリス、レモングラス、オレンジブロッサム、パチュリ、インセンス。5つの要素の組合せから、柔らかさと爽やかさ、落ち着きが生まれます。
中心となるアイリスは、細かな粉を思わせる質感。みずみずしい花びらというより、スミレを思わせる柔らかさや軽い木質感を想像すると近づきやすいでしょう。天然のアイリス香料には、土の中の根茎から作られるものもあります。花の名を持つ香料にも、土の下から始まる仕事があるのです。
レモングラスには、レモンを思わせる爽やかなハーブの印象があります。オレンジブロッサムはオレンジの花で、果実のジュースのような甘酸っぱさとは違う柔らかさ。この二つが加わることで、アイリスの粉感だけに集中せず、明るくすっきりした感触も楽しめます。
パチュリは木を思わせる落ち着き、インセンスはお香の印象。爽やかなハーブと柔らかな花に、この二つが穏やかな深みを添えます。粉っぽい香りが好きな人も、ハーブのすっきりした香りが好きな人も、それぞれ気になる部分を見つけられそうです。
白い本体に金色系の装飾ラベルが付き、茶褐色系の丸いキャップを備えたボトルも印象的。中央にくびれのある輪郭と細かな文字や花の意匠には、古い薬局の調度品を思わせる雰囲気があります。香りの柔らかさと、棚に置いたときの飾りの細かさを一緒に楽しみたくなる姿です。
他の香水との比較・ポジショニング
アイリスの粉感を選ぶとき、どんな柔らかさが好きかで候補が変わります。フレデリック マルのイリス プードゥルは、ピエール・ブルドンによるオードパルファム。アイリスに、トンカのクリーミーな甘さとホワイトムスクの滑らかな丸み、アルデヒドのきらめきが重なる作品です。
イリス プードゥルの化粧品を思わせる丸い粉感に対し、イリス・ドゥ・マルトではレモングラスの爽やかさや、木とお香の落ち着きに注目したくなります。丸みのある甘さを楽しみたいか、風に揺れるリネンのような清潔感を楽しみたいか。粉感の好みを考える、二つの方向です。
もう一つは、フレデリック マルのローディベール。ジャン=クロード・エレナによるオードトワレで、アイリスを含み、ヘリオトロープとホーソーンという花の温かな粉感を描きます。軽さがありながら温かい、という組合せが特徴です。
ローディベールの軽く温かな感触と比べると、イリス・ドゥ・マルトのハーブの爽快さが選ぶ手掛かりになります。アイリスという共通点があっても、丸い甘さ、温かな粉感、爽やかなハーブと、楽しみたい質感はそれぞれ。同じ香りの代わりを探すより、自分が好きな柔らかさを探す比較です。
購入ガイド・価格・おすすめ度
水性香水オー・トリプルのイリス・ドゥ・マルトは75mlで、2026年の日本公式価格は23,210円。アイリスの粉感とハーブの爽やかさの両方を楽しみたい人に、試す候補になります。濃厚で甘い花の香りを求めているなら、まず木やお香の落ち着きが好みに合うかを確かめたいところです。
同じ香りには、ペン型ホルダーに収めた10mlのロールオン式パフュームオイルもあります。水性香水を吹きかける使い方と、オイルを肌に塗る使い方。家でボトルを使いたいか、外出先へ携帯したいかという動作の違いも、選ぶ際の目安になります。
水性香水は、使用前にボトルを軽く振ってから。明るい色や繊細な布へ至近距離から吹きかけるのは避け、肌で香りを楽しみます。ボディケアと香りを重ねるのが好きなら、日本の商品案内で提案されているヘリオトロープ・デュ・ペルーのボディオイルも一つの選択肢です。
価格や販売状況の最新情報は公式サイトへ。試香では吹きかけた直後の印象だけでなく、しばらく自分の肌で過ごしたときの粉感や残り方まで味わうと、好みを判断しやすくなります。
実際の使用感・シーン・評判
まず合わせたいのは、春の穏やかな昼間。薄手のシャツに動きやすいパンツで散歩へ出かけ、途中のカフェでひと息つく。アイリスの柔らかな粉感とハーブの爽やかさは、そんな気負わない時間の候補になりそうです。
初夏なら落ち着いた室内や、暑さが和らいだ時間帯にも。季節を狭く決めるより、その日の過ごし方に合わせて楽しみたい香りです。
使った人の声には、柔らかく清潔な印象を好むものがある一方、粉感や洗剤を連想するところが好みに合わないという見方もあります。心地よいと感じる清潔感が、誰にとっても同じとは限らない。その違いも、肌で試したくなる理由です。
持続についても、短く感じる人と思ったより残ると感じる人に分かれています。強さや時間を一つの数字で期待するより、自分の近くでどんな香りが残るかを楽しむほうが、この一本との相性をつかみやすいでしょう。清潔なリネンを思わせる、爽やかで柔らかなアイリス。穏やかな日の外出に、そんな香りを加えたいときの候補です。


