シウ 25

Le Labo(ル ラボ)のSHIU 25(シウ 25)は、2026年に北京へ捧げられたシティ エクスクルーシブの19作目です。名前のシウは香りの主役である木そのものを指し、公式が名前と原料の関係を自ら明かしています。トップ・ミドル・ラストではなく、温かいウッドの上にアイリスと乳香が浮かぶ上下の層で構成された、乾いた木と樹脂の一本です。

#439 · 2026-08-01

Le Labo / Shiu 25

香水の基本情報と第一印象

SHIU 25(シウ 25)は、Le Labo(ル ラボ)が2026年に北京へ捧げたシティ エクスクルーシブの19作目です。オード パルファムで、濃度違いのバージョンはありません。

ひとことで言えば、乾いた木と樹脂でできた、色数の少ないウッディー。甘さやクリーミーさはほとんどありません。分類はデータベースでオリエンタル・フローラル、小売の表記ではフローラル・アンバー・スパイシーとされますが、分類上の花や甘さの印象より、実際は木の乾いた空気が全体を覆います。

面白いのは名前です。SHIUというこの聞き慣れない言葉は、香りの主役である木そのものを指します。公式が「ホウショウ(シウ)の、より静かな表情を中心に構築され」と書いていて、名前と原料の関係を自分から明かしています。ル ラボは主要香料名と成分数で作品名を付けるので命名規則としては通常どおりですが、SHIUは日本ではまず見かけない語なので、正体にたどり着くまでが一段遠く感じられます。

もうひとつ説があります。シウは中国語で「樹」の古い発音だ、という指摘です。ブランドが認めたものではありませんが、面白いのは二つの説が矛盾しないことです。樟の木を指す香料の名前であり、木そのものを指す古い音でもあります。どちらでも行き着く先は同じ木です。

調香師・ブランドの背景と制作秘話

調香師の名前は公表されていません。ル ラボは調香師個人を前面に出すより、ブランド全体の調香の美学とラボの共同作業を重視する方針をとっています。

ブランドの始まりは2006年です。ファブリス・ペノーとエドゥアール・ロシーがニューヨークで創業しました。二人はジョルジオ・アルマーニで出会い、フランスのグラースでスロー パフューマリーという構想を得ています。広告を出さず、外部からの投資も受けず、店頭で香水を手調合する体験を核にしてきました。2014年にエスティ ローダー カンパニーズの傘下に入りましたが、創業者は独立性を保っています。そして2026年、ブランドは創業20周年を迎えました。本作はその節目の作品です。

この香りのふるさとは、2025年に開いた北京の合院フレグランス ラボです。王府中環の歴史的建築、19号府に入っています。清朝の皇族の旧邸を復元した四合院で、中国の伝統的な住まいの様式と、ル ラボが追い続けてきた侘び寂びの美学が組み合わされた空間です。公式が語る着想源も、使い込まれた木の床に踊る影や奥まった庭園、神聖な静寂でした。店の空気をそのまま瓶に移そうとした作品です。

このラボには啓室と呼ばれる部屋があります。漢方薬局の薬箪笥から着想を得た、香りを選ぶカウンターです。生薬を秤で量って紙に包む、あの所作をなぞった体験として設計されているそうです。

香りの詳細分析

先に断っておくと、ル ラボは香りの段階を区切ったピラミッドを公表しないブランドです。本作も同じで、公式が書いているのは順番ではなく上下の層でした。温かく支えとなるウッドがあり、その上にアイリスとオリバナムが浮かぶ。公式はこれを「意図的に凝縮された構成」と呼びます。素材を絞ったことが狙いだと、自分から明言しているわけです。以下は、その層を時間の流れに置き換えて読み解いたものです。

トップに相当する入口で最初に立つのは、乳香の乾いた樹脂感です。着けた人の報告では、この乳香が最初から前に出ていて、トップが飛んでから樹脂が現れるという一般的な流れとは違うようです。他のシティ エクスクルーシブとは一線を画す本物だと評価されていて、ニスを塗ったばかりの木のような乾いた艶とも表現されます。煙そのものより、樹脂と木の表面の質感に近いようです。

ミドルに相当する中心にあるのがアイリスです。公式の言葉で「幻想的で軽やかな」。口紅やベビーパウダーのような甘いパウダリーさとは方向が違い、ミネラルのように硬質で乾いた顔を見せると評されます。実際に試したレビュアーは、驚くほど乾いていて香りを丸くする果汁感がない、と書いていました。

ベースに相当する土台がホウショウです。クスノキの仲間から採れる木の香料で、一般に樟脳と聞いて思い浮かべる、鼻にツンとくる刺激が前に出るわけではありません。乾いていて、少しひんやりしていて、透明感のある柔らかさがあります。削ったばかりの木や、樟脳をしまった木の箱のような空気です。ただし気温や湿度によっては、薬っぽい方向へ振れることもあります。

この木が香料として広まった背景には、ローズウッドの問題がありました。乱獲で数を減らし、代わりが求められたのです。ホウショウはリナロールを高い割合で含み、木でありながら花のような柔らかさを持ちます。それが代役を務められた理由でした。

変化の仕方も独特です。段階が大きく入れ替わるのではなく、少数の要素が重なったまま、密度と温度だけが移っていきます。公式のいう静けさは、音量ではなく色数の話でしょう。ここが本作の要です。

他の香水との比較・ポジショニング

同じシティ エクスクルーシブと並べると、行き先の違いがはっきりします。

京都限定のOSMANTHUS 19(オスマンサス 19)は、金木犀のクリーミーな甘さと町家の質感を描きます。対して本作は甘さを抑え、乾いた木と樹脂に寄せています。花の甘さがほしいならオスマンサス 19、乾いた静けさを求めるなら本作です。

東京限定のGAIAC 10(ガイアック 10)とは、乳香と木という接点があります。ただガイアック 10はガイアックウッドとムスクで第二の肌のように軽く寄り添うのに対し、本作はホウショウの清涼感とアイリスの乾いた粉が加わり、情景の描写がはっきりします。気配だけにしたいならガイアック 10、香りに輪郭がほしいなら本作です。

上海限定のMYRRHE 55(ミルラ 55)との対比は、そのまま二つの都市の描き分けです。ミルラ 55はミルラと濃い樹脂で上海の複雑さを表現し、本作は北京の中庭と沈黙へ向かいます。上海が複雑で包容的な樹脂なら、北京は静けさと木の骨格でしょう。同じブランドが中国の二大都市をこう分けているのが面白いところです。

購入ガイド・価格・おすすめ度

日本での価格は、15ミリリットルが22,990円、50ミリリットルが52,250円、100ミリリットルが76,560円です。ほかに1.5ミリリットルのディスカバリーサイズがあります。50ミリリットルと100ミリリットルは、空きボトルを店舗へ持ち込むと詰め替えができます。

買えるタイミングが限られているのが、このコレクションの特徴です。普段は北京の店舗でのみ通年販売され、世界では毎年8月から9月だけ。日本ではディスカバリーサイズが8月1日から9月30日まで、フルサイズは9月1日から30日までです。公式も2026年9月30日までの期間・数量限定発売と明記しています。

好みが分かれる香りなので、いきなり大きいサイズを選ぶ理由はありません。まず1.5ミリリットルで数時間かけて変化を確かめます。気に入ったら、詰め替えができる50ミリリットルが長く付き合いやすい選択でしょう。乾いた木や樹脂の香りが好きかどうかで評価が変わるタイプなので、試してから決める価値があります。

ボトルはル ラボ共通の円筒形で、薬局の瓶を思わせるミニマルなガラスです。本作だけの専用ボトルはありません。ただしラベルには調合した場所と日付、購入者の名前が入ります。詰め替えても瓶は捨てられず、ラベルだけが増えていきます。使い込まれた木の床と長く続く手仕事という香りのテーマと、この仕組みはよく響き合います。

実際の使用感・シーン・評判

いちばん自然に響くのは秋です。乾いた木と樹脂とアイリスの粉っぽさが、気温の下がる時期に合います。春の静かな日にも向きますし、冬の室内でも樹脂の温かさが生きるはず。ただ甘く厚い冬向きの香りではないので、極寒の屋外では存在感が弱く感じられるかもしれません。真夏や湿度の高い日は、樹脂が重く、樟脳が薬品のように出ることがあるため量を抑えるとよいでしょう。

場所でいえば、美術館、書店、ギャラリー。読書や書きもの、一人で集中したい時間に向きます。逆に気をつけたいのが食事の席と、狭い交通機関や医療機関です。樹脂と樟脳が食事の邪魔になったり、湿布を連想させたりする可能性があります。

そして距離感が、この香水の一番の落とし穴かもしれません。4回から5回吹き付けた人が、自分では弱く親密に感じたのに、周囲からは普通の会話の距離でもかなり強いと言われた、という報告があります。静かに見えて、届いていない香りではないのです。最初は2回程度から始めて、数時間かけて確かめます。自分の鼻に届かなくなったからといって足すのは避けたほうがよさそうです。

発売直後のため、持続時間にはまだ定説がありません。拡散も、空間を満たすというより気づいた人が足を止めるような静かな残り方だと評されています。賛否が分かれるのは樟脳の扱いで、静謐だと感じる人と、薬っぽいと感じる人に割れます。乾いた木と樹脂の質感に惹かれるなら、9月を待つ価値のある一本です。

香水・ブランド・調香師