パスソワール

BDK ParfumsのPas ce Soirを、洋梨、白花、マルメロチャツネ、パチョリ、Extraitとの違い、夜向きの使いどころから整理する回です。

#363 · 2026-05-17

BDK Parfums / Pas ce Soir

香水の基本情報と第一印象

Pas ce Soir(パス・スワール)は、BDK Parfums(ビーディーケー・パルファム)が2016年に発表したオードパルファムです。ブランドのCollection Parisienneに属する代表作のひとつで、公式ではフルーティ、スパイシー、ウッディな香りとして紹介されています。

名前の意味は「今夜はだめ」「また今度ね」に近いニュアンス。仕事を終えた女性がメイクを直し、クラブへ向かい、深夜2時に相手の耳元でその一言を残す。そうした自由でミステリアスなパリの夜が、この香水の物語です。

第一印象は、洋梨とマンダリンの甘い果実。ただし、みずみずしい果物そのものというより、シロップ、洋梨リキュール、キャンディのように少し加工された甘さです。そこへブラックペッパーとジンジャーが入り、甘いだけでは終わらない輪郭を作ります。

調香師・ブランドの背景と制作秘話

調香師はViolaine Collas(ヴィオレーヌ・コラス)。MANE所属の調香師で、BDK ParfumsのCrème de Cuirや、Maison MargielaのUnder the Lemon Trees、Bubble Bathなどにも関わった情報があります。

彼女の公式コメントで重要なのは、スパイス、白い花、マルメロチャツネを組み合わせ、シプレでウッディ、テクスチャーのある背景に官能性を置いたという点です。Pas ce Soirは、洋梨の甘さをただ可愛く見せる香水ではありません。白花で艶を出し、パチョリと木質で夜の影へ沈める設計です。

BDK Parfumsは、David Benedek(ダヴィッド・ベネデック)が2016年に創業したパリの独立系メゾン。香りに物語を持たせること、フランス国内の職人技、パリの都市感を大切にするブランドです。Pas ce Soirは、その思想がとても分かりやすく出た一本です。

香りの詳細分析

トップは、ブラックペッパー、ジンジャー、マンダリン、洋梨。最初は果実の甘さが明るく出ますが、黒胡椒とジンジャーがすぐに熱を入れます。ここで甘さに少し発泡感や刺激が加わり、単なる洋梨フレグランスではないことが分かります。

ミドルは、モロッコ産ジャスミン、マルメロチャツネ、オレンジブロッサム。Pas ce Soirの鍵は、このマルメロチャツネです。マルメロを煮詰めたような甘酸っぱさ、少しねっとりした果実の粘度、スパイスの気配があり、洋梨の甘さを夜向きに変えていきます。ジャスミンとオレンジブロッサムは、そこに白い花の艶を足します。

ラストは、カシュメラン、シンガポール産パチョリ、アンバーウッド。時間が経つと、キャンディのような果実感は肌の近くへ沈み、柔らかい木質、ムスク感、パチョリの影が残ります。甘いのに軽くない。可愛いのに少し距離がある。そのバランスがPas ce Soirらしさです。

2023年にはPas ce Soir Extraitも登場しました。こちらは30%濃度で、カカオ、ベンゾイン、バニラ、アンブロキサン、インドネシア産パチョリが加わります。EDPが洋梨と白花の艶を主役にするなら、Extraitはカカオと樹脂感で、より暗く、濃く、夜会向きに深まります。

他の香水との比較・ポジショニング

比較しやすいのは、Yves Saint LaurentのMon Parisです。第187回で扱ったMon Parisも、甘いフルーティーフローラルにパチョリが土台を作る香りでした。ただしMon Parisはベリーとホワイトムスクの可愛さが前に出ます。Pas ce Soirは洋梨、マルメロ、黒胡椒、ジンジャーで、もっと大人びた影を作ります。

Jean Paul GaultierのLa Belleとも、洋梨と甘さ、官能性という点で接点があります。La Belleが洋梨とバニラの曲線を強く出すのに対し、Pas ce Soirは白花、マルメロチャツネ、パチョリによって、よりスパイシーで木質的です。

ChanelのCoco Mademoiselleと比べると、共通するのはシトラス、白花、パチョリを持つ都会的なシプレ感です。ただしCoco Mademoiselleがよりドライで輪郭の硬い方向なら、Pas ce Soirは洋梨とマルメロチャツネの甘い厚みが印象に残ります。

購入ガイド・価格・おすすめ度

2026年5月時点で、BDK公式EUではPas ce Soir EDPの100mlが225ユーロ、Extraitの100mlが280ユーロとして確認できます。日本のNOSE SHOPでは、EDPが100ml 36,300円、50ml 26,400円、10ml 7,700円。Extraitは100ml 48,400円、50ml 35,200円、10ml 11,000円として紹介されています。

初めてなら、まずはEDPの10mlやサンプルから試すのが自然です。理由は、トップの甘さと後半のパチョリの出方に個人差があるから。甘いフルーティーフローラルを期待して試すと、意外にスパイスや木質を感じる人もいるはずです。

おすすめ度が高いのは、甘い果実の香りは好きだけれど、可愛いだけでは物足りない人。洋梨、白花、スパイス、パチョリの落差を楽しめる人です。より濃く、カカオやバニラの暗さまで欲しい人はExtraitが候補になります。

一方で、軽い石けん系、透明なシトラス、職場で目立たない香りを探している人は、購入前に時間変化まで確認した方が安全です。最初の甘さだけで判断せず、数時間後に木質とパチョリがどう残るかを見ると、この香水との相性が分かりやすくなります。

実際の使用感・シーン・評判

似合う季節は、秋冬、春の夜、冷房の効いた室内です。時間帯は夕方以降が特に合います。バー、レストラン、夜のデート、少しドレスアップした会食のように、香りの余韻が近距離で残る場面に向いています。

逆に、真夏の日中、学校、オフィス、密室で多めにつける使い方は注意が必要です。レビューでも「思った以上に甘い」「キャンディみたいに甘い」「オフィスや学校には不向き」という声があります。最初は半プッシュから1プッシュ程度で、首元より腰まわりや服の内側に置くと扱いやすい香りです。

好意的な評価では、「温かみのあるフルーティーフローラル」「甘すぎなくて、いやらしさがない」「蜜のように甘い残り香」といった言葉が目立ちます。評価が分かれるのは、甘さの密度です。それを夜の色気として楽しめる人には、Pas ce Soirはかなり印象に残る一本になります。

洋梨と白花が誘う、パリの夜。近づくほど甘く、時間が経つほど木質の影が残る香水です。

香水・ブランド・調香師