マッチャ26
ル ラボ「テ マッチャ 26」は、抹茶アコード、クリーミーなフィグ、シダー、ベチバー、ビターオレンジで、抹茶を飲む時間を描く香りです。茶そのものよりも、静かな休息と肌に近い木質の余韻が中心です。
#356 · 2026-05-10
香水の基本情報と第一印象
Thé Matcha 26(マッチャ26)は、Le Labo(ル ラボ)が2021年に発表したEau de Parfumです。日本語では「マッチャ26」と表記され、公式ページではオード パルファムとして展開されています。Le Laboらしく、白いラベルの薬瓶風ボトルに入ったミニマルな見た目で、ラベルには最大23文字までのパーソナライズも可能です。
第一印象で大切なのは、この香りを「抹茶味の香水」として受け取ると少しずれることです。公式が描いているのは、抹茶そのものの味や茶葉の写実ではなく、抹茶が持つ静けさ、内省、自分に戻る時間。香りとしては、ビターオレンジの明るさから、クリーミーなフィグ、抹茶粉のようなグリーン、シダーとベチバーの乾いた木質へ進みます。
つまり、これは強い抹茶ラテの香りではありません。フィグと抹茶が肌に沈む静けさ。近い距離でふっと分かる、Le Laboらしい抽象的な一本です。
調香師・ブランドの背景と制作秘話
Le Laboは2006年、ニューヨークでEddie Roschi(エディ・ロスキー)とFabrice Penot(ファブリス・ペノー)によって始まったブランドです。ブランド名は「ラボ」、つまり実験室を意味し、店頭でのフレッシュブレンディング、調合日や場所が入るラベル、パーソナライズされたボトルなど、香りを買う行為そのものを体験に変えることで知られています。
Thé Matcha 26の調香師は、複数の香水データベースや関連資料でFrank Voelkl(フランク・フォルクル)とされています。彼はLe LaboのSantal 33(サンタル 33)やThé Noir 29(テ ノワール 29)とも結びつけられる調香師で、木質、茶、フィグ、肌香の扱いに強い文脈があります。
この香水の公式コンセプトは、抹茶が日本文化で単なる飲み物以上の存在であるように、Thé Matcha 26も単なる香り以上の存在だというもの。内省、自分に戻る時間、静かな美しさの祝祭、家に帰る安心感。そうした抽象的な言葉を、フィグとウッドの静かな香りへ翻訳しているところが、この作品の核です。
香りの詳細分析
公式が安定して示す核は、抹茶アコード、クリーミーなフィグ、穏やかなベチバー、質感のあるシダーウッド、ビターオレンジです。商品ページでは一般的なトップ、ミドル、ベースのピラミッドを明示していないため、ここでは公式ノートと複数レビューで語られる時間変化をもとに整理します。
トップでは、ビターオレンジの少し苦みを含んだ明るさが入口になります。甘いオレンジというより、香り全体に輪郭を与えるシトラスです。ここにフィグの青みや果汁感が早い段階から重なり、抹茶よりも先に、フルーティでミルキーな空気が見えてきます。
ミドルでは、抹茶アコードとクリーミーなフィグが中心になります。ただし抹茶は、濃い茶葉や海苔のような強い青さではなく、粉感、静けさ、グリーンな余白として出るタイプ。フィグは果実の甘さだけでなく、乳白色のまろみ、樹液の青さ、少しだけえぐみのある質感を持ち、抹茶アコードをやわらかく包みます。日本語圏では、抹茶ミルク、ミルクたっぷりのチャイ、抹茶味のお菓子のクリームのように感じる声もあります。
ラストでは、シダーウッドとベチバーが香りを乾かします。シダーは白いラベルのような清潔な木質、ベチバーは土や根を思わせる落ち着き。時間が経つほど茶感は奥へ下がり、木と肌の近さが残ります。肌では中程度、衣服では長めに残るという声が多く、強く拡散する香水ではなく、近い距離で静かに続くスキンセントとして理解すると魅力が見えやすいです。
他の香水との比較・ポジショニング
比較対象としてまず分かりやすいのは、同じLe LaboのThé Noir 29(テ ノワール 29)です。第109回でも扱った香水で、茶、フィグ、シダーという接点があります。ただしThé Noir 29は黒茶、タバコ、干し草のような重さがあり、夜寄りでスモーキー。Thé Matcha 26はもっと明るく、淡い緑、フィグミルク、乾いた木、肌の温度へ寄ります。
Diptyque(ディプティック)のPhilosykos(フィロシコス)ともよく比較されます。第84回で扱ったフィグの代表作で、葉、果実、木、ココナッツミルクを含む写実的なフィグの木を描く香りです。Thé Matcha 26のフィグは、それほど果樹そのものではありません。抹茶アコードをなめらかに包む、乳性のある素材として働いています。
BDK Parfums(ビーディーケー パルファム)のGris Charnel(グリ シャーネル)も、フィグ、茶、ウッド、都会的な肌感という点で近い位置にあります。第249回で扱ったGris Charnelは、ブラックティー、カルダモン、サンダルウッド、トンカによる温かい灰色の香り。Thé Matcha 26は、より白く淡く、春秋の昼にも使いやすい茶とフィグです。
購入ガイド・価格・おすすめ度
日本公式で確認できる展開は、1.5mlディスカバリー、15ml、50ml、100mlのオード パルファムに加え、リキッドバーム、ハンドクリーム、ボディローション、シャワージェルなどの関連アイテムです。現行価格としては、1.5mlが990円、15mlが14,080円、50mlが31,350円、100mlが45,650円。リキッドバームは9mlで14,630円です。
初めて試すなら、いきなり大きいボトルより1.5mlや15mlが安全です。理由は、抹茶の出方に期待値の差が出やすいから。抹茶そのものを強く求める人には物足りない可能性がありますが、フィグのクリーミーさ、乾いたウッド、近距離の肌香が好きな人にはかなり合いやすい香りです。
おすすめ度は、フィグ・ティー・ウッディ・スキンセントが好きなら高め。強い拡散、濃いグルマン、分かりやすい抹茶ラテを求める人は、必ず肌で時間経過を見てから判断した方がよさそうです。
実際の使用感・シーン・評判
使いやすい季節は春と秋です。淡いグリーン、フィグのまろみ、シダーとベチバーの乾いた木質が、涼しすぎず暑すぎない空気に合います。夏は少量ならオフィスや室内で使いやすく、冬はボディローションやリキッドバームと合わせると、より柔らかく感じられます。
シーンとしては、オフィス、学校、在宅、読書、カフェ、静かな外出、近距離のデート。白シャツ、薄手のニット、リネン、グレーや生成りの服と相性が良いタイプです。遠くまで香らせるための香水というより、自分の周りに淡い緑と木の静けさを置く香りです。
評判ははっきり分かれます。肯定的な声では、静かで上品、癒やされる、都会的、フィグとウッディのミルキーさが美しい、既存のグリーンティー香水とは違うという評価が目立ちます。一方で、抹茶そのものではない、フィグが強い、価格に対して拡散が控えめという声もあります。
この香水を理解する鍵は、抹茶の再現度だけで判断しないことです。抹茶の味ではなく、抹茶を飲む時間。フィグと抹茶が肌に沈む静けさとして向き合うと、Thé Matcha 26の輪郭はぐっと見えやすくなります。


