呂布
ソラ ドーラ「リュ ブ」は、火薬とクローブの鋭さから、アイリス、黒いバニラ、温かい金属感へ進む香りです。呂布という名前にふさわしい荒々しさと、肌に残る甘い影が同時に立ち上がります。
#352 · 2026-05-06
香水の基本情報と第一印象
Sora Dora(ソラドラ)のLü Bu(ル ブ)は、2025年に登場したExtrait de Parfumです。日本語で「呂布」と書くと、歴史上の武将としては「りょふ」と読むのが自然です。一方で、香水の商品名としてはNOSE SHOPが「ル ブ|呂布」と表記しており、番組では「香水名はル ブ、人物名は呂布(りょふ)」と分けて扱いました。
この香水の第一印象は、かなり強いです。公式ノートにはクローブ、ガンパウダー、パピエダルメニイ、アイリス、ブラッド、ブラックバニラ、トンカ、ウォームメタルなどが並びます。言葉だけを見ると、火薬や血のショック香のように見えますが、実際の骨格はもっと構築的です。トップの鋭さが、ミドルで紙煙と粉のアイリスに変わり、ラストでは黒いバニラと樹脂、温かい金属の余韻へ沈んでいきます。
調香師・ブランドの背景と制作秘話
調香師はMargaux Le Paih Guérin(マルゴー・ル・ペ・ゲラン)。Sora DoraのRed、7、Janyなどにも関わったとされる若手調香師で、実験的なアコードを香水として成立させる感覚が本作にも出ています。資料では、パピエダルメニイを中心に「刺繍するように」構成したという説明も見られます。火薬や血のインパクトだけでなく、燃える紙とアイリスの静けさが中心にあると考えると、この香水はかなり理解しやすくなります。
Sora Doraは、Quentin Dorado(クエンティン・ドラド)が現代に立ち上げたフランスのニッチブランドです。公式Storyでは、1902年にポルトガル南部Louléで生まれたAntoine Soradora(アントワン・ソラドラ)が、1920年にフランスへ渡り、GréasqueやGrasseで植物と香りに出会う家族史が語られます。Lü Buは、その家族的でグルマンな作品群から一歩踏み出し、戦士、影、犠牲、記憶へ向かった暗い一本です。
香りの詳細分析
トップはクローブとガンパウダー。クローブは甘いスパイスというより、渋くタンニン感のある苦味として立ち上がります。公式やNOSE SHOPの説明では、刃に残る血の苦味や金属の閃きに結びつけられており、ここで香りはかなり鋭く始まります。ガンパウダーも、爆発そのものというより、乾いた灰、鉱物、硝煙の粉っぽさとして働きます。
ミドルでは、パピエダルメニイ、アイリス、ブラッドが出てきます。パピエダルメニイは燃やす芳香紙で、祭壇や祈りを思わせる煙のニュアンス。アイリスは高貴で粉っぽく、トップの攻撃性を冷たい品位へ変えていきます。ブラッドは実際の血液ではなく、鉄、クローブ、紙煙、ウォームメタルが作る金属的なアコードとして捉えるのが安全です。
ラストはブラックバニラアブソリュート、トンカアブソリュート、アーモンド、アミリス、ガイヤック、カシミアウッド、バージニアシダー、トルバルサム、ウォームメタル。甘さはありますが、明るいお菓子ではありません。黒いバニラとトンカが角を丸め、木と樹脂が深みを作り、最後まで温度を持った金属の残像が残ります。ここが、Lü Buを単なるショック香で終わらせない一番の魅力です。
他の香水との比較・ポジショニング
比較対象としては、Etat Libre d’OrangeのLa Fin du Mondeがわかりやすいです。火薬、アイリス、終末感という共通点がありますが、La Fin du Mondeはポップコーンやセサミを含む映画的な終末感。Lü Buはもっと金属、紙煙、黒いバニラへ寄ります。
Filippo SorcinelliのBut Not Todayとも、血、金属、アイリス、死のイメージという点で接点があります。ただし、But Not Todayがより映画的でアニマリックな不穏さを持つのに対し、Lü Buはパピエダルメニイとトンカ/バニラで、祭壇と樹脂の方向へ着地します。
第273回で扱ったMaison CrivelliのHibiscus Mahajádとも、濃厚さや強い甘さというレビュー上の比較があります。ただ、Hibiscus Mahajádがトロピカルで濃密なフローラルなら、Lü Buは金属、火薬、紙煙、アイリスの暗さが主役です。
購入ガイド・価格・おすすめ度
公式仕様は50mlのExtrait de Parfumで、Sora Dora公式価格は€200。2026年5月時点で公式販売ページがあり、廃盤情報は確認されていません。ディスカバリーキットにも含まれるため、まずは肌で試すのが現実的です。
特にこの香水は、トップだけで判断しない方がよいタイプです。試香紙では火薬やクローブが荒く感じられる可能性がありますが、肌ではミドル以降のパピエダルメニイ、アイリス、黒いバニラが出てきます。おすすめ度は、暗いニッチ香水やスモーキーな香りが好きな人には高め。一方で、軽い清潔感や明るい甘さを求める人には慎重に試してほしい一本です。
実際の使用感・シーン・評判
使うなら、秋冬や涼しい夜が合います。黒いジャケット、レザー、ウール、モノトーンの服装、静かなバー、美術館、読書の時間など、香りの世界観を受け止められる場面が向いています。逆に、真夏の日中、満員電車、食事直前、オフィスなどでは量を控えた方が安全です。
レビュー傾向では、持続は長めで、8時間以上という声も複数あります。トップは強く、ミドル以降も存在感が残るため、まずは1プッシュからがよさそうです。評価は賛否が分かれます。ポジティブには「ニッチ香水らしい」「ドライダウンが美しい」「見た目ほどワイルドではない」。一方で「強すぎる」「金属的で鋭い」「クローブが重い」という声もあります。
だからこそ、Lü Buは万人向けの好感度香水ではありません。火薬とアイリスの向こうに、戦いの後の静けさが残る。その影を身につけたい日にだけ、少量で向き合う香りです。
読み方も、この香水を理解する手がかりになります。日本語の歴史人物としては呂布(りょふ)。商品名としてはル ブ。原語表記のLü Buには、フランスのニッチブランドが中国史の反英雄を自分たちの物語へ取り込んだ距離感も含まれています。その少し不安定な重なりまで含めて、Lü Buらしさです。


