ニュ

イヴ・サンローラン「ニュ オードパルファム」は、インセンス、カルダモン、ブラックペッパー、サンダルウッドが暗い官能を作るオリエンタルスパイシーです。2000年代初頭のモード感を帯びた香りで、金属的な冷たさと肌の熱が同時に残ります。

#248 · 2026-01-22

Yves Saint Laurent / Nu

香水の基本情報と第一印象

「ニュ(NU)」は、2001年にイヴ・サンローランから発売されたオーデパルファムです。当時グッチとYSLを率いていたトム・フォードが手がけた、最初のウィメンズ香水として誕生しました。

「NU」とはフランス語で「裸」を意味し、その名の通り、装飾を排した本質的な美しさを追求しています。公式の香調分類はオリエンタル・スパイシー。一言で表すなら「氷から炎へ」——冷徹な金属感から、官能的な肌の温もりへの劇的な変化が特徴です。

「お寺のような落ち着いたお香」という先入観を持つと、良い意味で裏切られます。実際は、メタリックなインセンスと冷たいスパイスが織りなす、アンドロジナス(両性具有)な香りなのです。

調香師・ブランドの背景と制作秘話

調香を手がけたのは、ジャック・キャヴァリエ。南仏グラースの調香師一族の第4世代に生まれた、香水界のサラブレッドです。

キャヴァリエは「香水にはボリューム、魅力、特徴、洗練が必要」という哲学を持ち、「水の香り」の革命児として知られています。ニュでは、その透明感の技術を駆使して、重厚なスパイスを「クリーンに」構築するという離れ業を成し遂げました。

興味深いのは、この香水が生まれた背景です。トム・フォードがYSLで手がけたコレクションを見て、創業者のイヴ・サンローラン本人が「私の40年のキャリアが13分で破壊された」と激怒したという伝説があります。そんな緊張感の中から、この革新的な香りは誕生しました。

香りの詳細分析

**トップノート(最初の5〜15分)**には、ベルガモット、カルダモン、ネロリが配されています。鋭利な「氷の刃」や「稲光」のような、冷たくスパークリングな衝撃が特徴。塩素や金属を一滴垂らしたような、甘さを一切排したモダンな冷涼感で嗅覚を覚醒させます。

**ミドルノート(15分〜2時間)**では、ブラックペッパー、インセンス(乳香)、ワイルドオーキッド、ジャスミンが展開。立ち上がる煙の中から、肉感的な白い花がぼんやりと浮かび上がるミステリアスな印象です。インセンスが「教会」的ではなく、デヴィッド・ボウイの衣装のような「都会的で退廃的」な響きを持つのが独特。スパイスのチクチクとした刺激が、蘭のパウダリーな甘さと溶け合っていきます。

**ラストノート(2時間以降)**は、サンダルウッド、ムスク、ベチバー、フランキンセンス。衣服を脱ぎ捨てた後の「温かな肌」そのもののような、クリーミーで神聖なウッディの残り香です。ベチバーの土っぽさとサンダルウッドのクリーミーさが絡み合い、「レザー」のような質感を生みます。持続時間は8〜12時間以上と非常に優秀です。

他の香水との比較・ポジショニング

最も比較されるのは、同じくトム・フォード監修の**「ブラックオーキッド」**です。どちらもダークな蘭を核にした構造ですが、ニュの方が「よりドライで、スモーキー」。ブラックオーキッドは「チョコレートのように甘くデカダント」です。ニュは、ブラックオーキッドの「精神的な先祖」とも言える存在で、よりミニマルで研ぎ澄まされた印象があります。

同時期に発売された**ダナ・キャラン「ブラックカシミア」**とも比較されます。どちらもインセンスとスパイスの傑作ですが、ブラックカシミアが「ゴシックで攻撃的」なら、ニュは「内向的で肌に近い」。鎧と皮膚の違いとも表現できます。

また、**ゲラン「夜間飛行」**との類似性も指摘され、「現代の夜間飛行」と評されることもあります。

購入ガイド・価格・おすすめ度

現在、ニュは以下のバージョンが存在します。

  • **オリジナルEDP(2001年)**:原点にして頂点。ダークパープルの円盤ボトル。持続力は最強クラスの12時間以上。ただし廃盤のため中古市場のみ。
  • **オリジナルEDT(2003年)**:ブルーのボトル。ネロリやアイリスを加え、透明感を重視。持続力は4〜6時間。
  • **ラ・コレクション版(2011年〜)**:復刻版。角が取れ、より日常使いしやすい現代版。持続力は6〜8時間以上。

「真のニュ体験」を求めるならオリジナルEDP一択ですが、実用的な「都会的インセンス」としてはラ・コレクション版も傑作の部類に入ります。

実際の使用感・シーン・評判

**おすすめの季節**は晩秋から真冬。湿度の低い、乾燥した冷たい空気の中でこそ真価を発揮します。**時間帯**は圧倒的に夜。人工的な光や月光の下で、メタリックな輝きが増します。

**服装**は、カシミヤのコート、シルクのブラウス、レザージャケットなど、黒を基調とした装いと相性抜群。プロジェクション(広がり)は中程度ですが、近くに来た時に「肌の香り」として中毒性を発揮するスキンセントです。

使用者の声としては「背筋が伸びる」「自分を強く持てる」「一人で考え事をしたい時に最高」といった感想が多く見られます。甘ったるい「モテ」を期待すると失敗するかもしれません。これは「自立した個」のための香りです。

発売が2001年9月で9.11と重なったこと、また尖りすぎた香りだったことから商業的には苦戦しました。しかし今では「時代を先取りしすぎた幻の名香」として神格化されています。

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