トランプ クラブ

アールフレグランス「トランプ クラブ」は、シトラスに頼らず、緑茶やハーブ、和の静けさで研ぎ澄まされた清潔感を作る日本発の香りです。西洋的なティーフレグランスとは違い、余白と緊張感のあるグリーンノートが肌に淡く残ります。

#223 · 2025-12-28

R Fragrance / Trump Club

香水の基本情報と第一印象

本日は、日本発のフレグランスブランド、R fragrance(アールフレグランス)が手がける「Trump Club(トランプ クラブ)」をご紹介します。この作品は、上質な深蒸し緑茶(ふかむしみどりちゃ)と紫蘇(しそ)をテーマにしたグリーン ハーバル アロマティックの香りです。

一般的な香水市場において「緑茶の香り」と聞くと、ベルガモットなどの柑橘類を効かせたリフレッシュ感のある、西洋的で抽象化されたティーフレグランスを想像する方が多いかもしれません。しかし、Trump Clubはそのような既存のイメージを鮮やかに裏切ってくれます。シトラスの酸味に頼らず、日本特有の和ハーブである「紫蘇」の鋭い青みを大胆にぶつけることで、驚くほど写実的な和の空間を生み出しています。

そして何より素晴らしいのは、深蒸し緑茶特有の「コク」や「旨み(うまみ)」、さらには湯呑みの底に残る茶葉の粉までも、見事に香りで表現している点です。肌の近くで深く香るスキンセントに近い密着型の距離感を持っており、日本の美意識と精神性を香りで表現した、自立した大人のためのユニセックスフレグランスに仕上がっています。読書や思索の時間、あるいはオフィスなど、落ち着きと清潔感をまといたい場面において、畳や苔の静けさが「幽玄(ゆうげん)」の世界を感じさせてくれるでしょう。

調香師・ブランドの背景と制作秘話

R fragranceは、2017年に調香師の村井千尋(むらい ちひろ)氏によって設立されたブランドです。ブランド名には、RIN(凛とした精神性)、RICH(豊かな香り体験)、RARE(希少性のある個性)という3つの「R」の想いが込められており、「日本の豊かさを表現し心を満たす香り」という哲学を掲げています。驚くべきは、調香から製造、パッケージに至るまで、全て日本国内で行う「完全なるメイド・イン・ジャパン」を貫いている点です。

創設者であり調香師の村井千尋氏は、大阪市生まれ。幼少期から匂い玉に興味を持ち、香料会社での勤務を経て独立した、日本の三大調香師の一人とも評される実力派です。彼女のスタイルは、理系的な緻密な計算と文系的な物語性を融合させることにあり、「日本人が纏った時に最も美しく香る」絶妙なバランス感覚に定評があります。村井氏自身、「思想や哲学・心理学など、見えないものを読み解き形作ること」「人間の内なる感情を表現すること」に没頭してきたと語っています。

このTrump Clubの制作においては、非常に画期的な挑戦が行われました。実は香水業界において、「緑茶」そのものの天然香料は抽出が困難で存在しません。そのため、多くはシトラスなどを組み合わせて「緑茶っぽさ」を演出します。しかし本作では、可能な限り日本産の天然香料を使用し、西洋の香水にはない日本の食文化に根ざした「旨み(出汁のようなニュアンス)」をフレグランスに昇華させています。物理的な香料を用いて、目に見えない「静寂」や「時間の経過」といった情景を構築しようとする試みは、能楽や茶道に通じる日本の美意識を見事に体現しています。

香りの詳細分析

公式の香調分類は「グリーン ハーバル アロマティック」。深蒸し緑茶と紫蘇のグリーンハーバルな香りから始まり、畳や苔の静けさが幽玄の世界を感じさせるピラミッド型の変遷をたどります。「シトラスからフローラル、ウッディへ」という一般的な流れではなく、「日本のハーブから日本の茶、そして日本の空間(畳)へ」という、徹底して和の素材にフォーカスした構成が特徴です。

**トップノート(最初の15分まで)** 肌に乗せた瞬間、西洋のミントとは一線を画す、紫蘇特有の鋭利な青みとクリアな冷涼感がアタックとして広がります。深蒸し緑茶、紫蘇、ペパーミントが織りなす香りは、まさに「冷たい空気を割るような紫蘇と畳の青さ」。氷を入れた冷茶を飲んだときのように、背筋が凍るほどの鮮烈で覚醒的な清涼感をもたらし、同時に深蒸し茶ならではの深い緑色とわずかな甘みが立ち上ります。

**ミドルノート(15分-2時間)** 鋭い清涼感が次第に落ち着きを見せると、深蒸し緑茶の最大の特徴である「コク」と「旨み」が肌の上で明確に展開し始めます。そこにジャスミンの白い花の清楚なニュアンスが静かに重なることで、まろやかでふくよかな、渋みや旨みが複雑に絡み合った奥深いクリーミーな質感へと変化します。茶葉にほのかに花の香りを移した「窨花茶(いんかちゃ)」のような、極めて繊細で美しい香り立ちです。

**ラストノート(2時間以降)** 香りの終盤は、畳、苔、パチュリ、ムスクによって、ドライなイ草(いぐさ)の素材感と、湿り気を含んだスモーキーで静謐(せいひつ)な深緑の質感へと沈み込んでいきます。それはまるで「雨上がりの古寺や静寂な茶室」に身を置いているかのような感覚。湯呑みの底に残る茶葉の粉のような、わずかにパウダリーでビターな緑茶の痕跡が、肌の上に淡く美しい余韻を残します。

他の香水との比較・ポジショニング

緑茶や和の趣をテーマにした他の名作と比較することで、Trump Clubのユニークな立ち位置がより鮮明になります。

まず、同じく日本製の和風香水として高い芸術性を誇る**Parfum Satori(パルファン サトリ)の「匂扇(にほえ)」**との比較です。両者とも茶の青い苦味を表現しベースにパチュリを使用していますが、アプローチは対照的です。匂扇が抹茶のビターな深みや温かみ、パウダリー感が前面に出ているのに対し、Trump Clubは紫蘇とペパーミントの影響で冷涼で硬質な静寂を表現しています。温かみのある深みを味わいたいなら匂扇、よりシャープな冷涼感を好むならTrump Clubが適しています。

次に、緑茶香水の世界的な名作である**BVLGARI(ブルガリ)の「オ パフメ オーテヴェール」**。こちらはベルガモットやネロリなどシトラスを多用した、清涼飲料水的で華やかなリフレッシュ感が魅力です。一方のTrump Clubはシトラスの酸味がなく、ストレートな日本茶の渋みと苔や畳の湿気感を内包しており、よりリアルで内省的な茶室の陰翳(いんえい)を感じさせます。

また、同ブランドの**R fragrance「ティーブレイク」**とも興味深い対比を描きます。ティーブレイクが砂糖をたっぷりと入れたアールグレイの香りで、洋館のアフタヌーンティーを思わせる華やかで甘い「動」の香りであるのに対し、Trump Clubは砂糖なしのストレートな日本茶であり、苦味と静寂の「静」の香りです。甘さを削ぎ落とし、知的でミニマルな空間を持ち歩きたい方にこそ、この作品は響くはずです。

購入ガイド・価格・おすすめ度

現在、Trump Clubはオードパルファン(EDP)の15mLサイズのみの展開となっています。コンパクトなトラベルサイズのみというストイックな展開ですが、その分、初めての方でも手に取りやすい価格帯と容量になっているのが嬉しいポイントです。

ボトルデザインは、無駄を削ぎ落とした透明な直方体のガラスボトル。中央にはトランプのクラブ(♣)のマークがゴールドであしらわれています。この「クラブ」は農民の棍棒や「三つ葉のクローバー」を象徴し、大地に根ざした植物の力強さを表しており、洗練と遊び心が交差する大人の「知的な静寂」を視覚的に表現しています。

さらに、極めて微細な霧が出て、液垂れすることなく肌に均一に乗る高品質なアトマイザーが採用されている点にも、ブランドの美意識が光ります。モダンなインテリアや和室の片隅にも静かに調和するミニマリズムを極めたデザインで、ポーチやポケットに入れて気軽に持ち運べる実用性の高さも兼ね備えています。

実際の使用感・シーン・評判

この香りが最も美しく輝くのは、春から秋口にかけての季節です。特にベストシーズンと言えるのが「梅雨から盛夏」。湿度が80%を超えるような日本の過酷な夏において、紫蘇とペパーミントが湿気を切り裂くような清涼感を提供し、不快指数を鮮やかに下げてくれます。もちろん、冬の暖房の効いた室内で、静寂な和の空気感を一人で楽しむという使い方もおすすめです。

おすすめのシーンは、オフィスやビジネスの場。清潔感と知的さを演出しながらも、拡散力が穏やかでスキンセントに近いため、周囲に配慮しつつ上品に香らせることができます。また、茶道や華道などの和の席、美術館巡り、就寝前のリラックスタイム(寝香水)にも非常に適しています。一方で、香りが控えめで静寂すぎるため、パーティーなどの華やかな夜の社交場では存在感が埋もれてしまう可能性があります。服装は、着物や浴衣などの和装、あるいはモノトーンを好むミニマリストの装いに見事にマッチします。

実際のユーザーからは、「本当に急須で淹れたお茶の香りがする」「真新しい畳の香りで落ち着く」「出汁の香りがして、旨みを表現するなんて日本ならでは」といった驚きと称賛の声が多く上がっています。ただし、後半に現れる苔やパチュリ、畳のリアルな土壌感に対して、クラシックな和の趣を強く感じる方もいるようです。甘い香水に慣れている方は、肌に乗せて時間経過とともに「静寂」へと向かっていく奥深い変化を、じっくりとご自身の肌で試してみることを強くおすすめします。

香水・ブランド・調香師