オールド ファッション
キリアン パリ「オールド ファッション」は、熟成したシングルモルトウイスキーを思わせるウィートアブソリュート、樽の木質、甘い余韻を組み合わせたウッディです。カクテルの華やかさよりも、ストレートの酒が持つ深みと時間の層を感じさせます。
#213 · 2025-12-18
香水の基本情報と第一印象
本日は、キリアン パリ(KILIAN PARIS)から2024年に発売された「オールド ファッション(Old Fashioned)」をご紹介します。この作品は、キリアン パリを代表する「ザ・リカーズ」コレクションから誕生したウッディ調の香りです。スコットランドのハイランド地方で作られる、18年以上熟成された最もピュアで高貴なシングルモルトスコッチウイスキーをテーマにしており、発売当初から大きな注目を集めました。
香りを一言で表すなら、「18年熟成のシングルモルトスコッチウイスキーのきらめくような芳香と、温かな記憶の結晶」。芳醇なモルト、ドライな木材、そして温かな琥珀という3つの印象的なキーワードが、この香水の奥深い魅力を物語っています。
ディナーデートや落ち着いたバーでのひとときにふさわしい、半径30cm程度のパーソナルな空間で香る密着型のフレグランスです。6〜10時間という長めの持続性を持ち、特に秋から冬にかけての冷たい空気の中でその真価を発揮します。ボトルを開けた瞬間に広がるリアルなウイスキーの香りと、熟成樽を思わせる深みのある温もりは、纏う人に時代を超越した粋な印象を与えてくれることでしょう。
調香師・ブランドの背景と制作秘話
キリアン パリは、1765年に創業された歴史あるコニャックメーカー「ヘネシー」家の8代目直系子孫であるキリアン・ヘネシーによって、2007年に設立されました。「香水を再びその台座に戻す」という哲学を掲げ、19世紀の終わりから20世紀初頭にかけての香水作りの伝統を取り戻すことを目指しているラグジュアリーブランドです。
「オールド ファッション」の調香を手掛けたのは、フランスの香料会社ロベルテに所属し、「カクテルアコードの女王」という異名を持つシドニー・ランセスールです。彼女はこれまでにもキリアンで「ストレート トゥ ヘブン」や「アップル ブランデー」など、数々の名作酒類系フレグランスを生み出してきました。
この香水には、創業者のキリアン・ヘネシーが一族の邸宅の暖炉のそばで過ごした家族団欒の情景や、スコットランドの古い屋敷での温かい夜の記憶という、極めてパーソナルなインスピレーションが込められています。調香師のシドニー・ランセスール自身も、「私にとって、香りは感情や記憶を具現化する方法です。この香水は、スコットランドの古い屋敷で家族と過ごす温かい夜の記憶を表現したものです」と語っています。
特筆すべきは、実際のアルコール分子を直接使うことなく、18年熟成のウイスキーの感覚を再現するという高度な技術的課題を見事に達成している点です。実際の醸造で使用される大麦の感覚を表現するためにウィート アブソリュートを採用し、科学的なアプローチでトーストしたオーツの香りを生み出すことで、モルトの香ばしさと奥深さを巧みに表現しています。
香りの詳細分析
「オールド ファッション」の香りの構造は、揮発性の高いアルコール感から始まり、ウッディなハートを経て、バルサミックなベースへと落ち着く美しいピラミッド型を描いています。単一の甘いノートに頼るのではなく、甘さと苦み、スモーキーさと重厚さが調和した「熟成の場」を思わせる複雑さが最大の魅力です。
**トップノート(最初の5〜15分):輝くウイスキーの立ち上がり** スプレーした瞬間から約15分間、ウィート アブソリュートとダバナ エッセンスによる、18年熟成のシングルモルトウイスキーのボトルを開けたかのようなリアルな芳香が立ち上ります。穀物由来の温かみのあるまろやかな甘さと、芳醇なスコッチウイスキーのきらめくような揮発感が共存し、「最初の一口のような眩い香りの立ち上がり」を鮮やかに演出します。
**ミドルノート(15分〜2時間):熟成樽の奥深い木材の香り** 時間が経つにつれて、トップの強いアルコール感が落ち着き、シダーウッド ハイパーコンセントレイテッド エッセンスとエバーラスティング アブソリュートが主役となります。乾いた木の温かみと、ハーブの複雑な甘苦さが現れ、ドライでシャープな質感へと移行します。ウイスキーそのものから、樽熟成の過程で生じる木材との相互作用を思わせる奥行きのあるウッディノートへの発展は圧巻です。エバーラスティング アブソリュート由来の干し草やタバコのようなドライな香りが、上質な革張りの書斎や暖炉の火が揺れる城の一室といった情景を思い起こさせます。
**ラストノート(2時間以降):霧に包まれた温かな余韻** ドライダウンは、スティラックスとトルーバームによって約4時間から8時間かけてゆっくりと展開します。琥珀のように甘く、温かいスパイス感や焦げた木、レザーのような深みが長く続くバルサミックな質感です。「スコットランドの霧に覆われたヒースの荒野」を思わせるような、静かで荘厳な余韻が肌の上に残り続けます。人の肌質によってフルーティさの出方が変化するのも、この香りの奥深いところです。
他の香水との比較・ポジショニング
「オールド ファッション」の個性をより深く理解するために、同じキリアン パリの酒類系フレグランスとの比較を見ていきましょう。
**エンジェルズ シェアとの比較** 同じ「ザ・リカーズ」コレクションに属し、アルコール由来の揮発感から始まり温かいベースを持つ点は共通しています。しかし、「エンジェルズ シェア」がコニャックをベースにし、シナモンやプラリネが効いた温かいアップルパイのような濃厚で甘いデザート的な香りであるのに対し、「オールド ファッション」はシングルモルトウイスキーがベースで、甘さが抑制されたドライで木質的、スモーキーな印象です。甘さを存分に楽しみたい方は「エンジェルズ シェア」を、渋みやドライな木の温もりを好む方は「オールド ファッション」を選ぶと良いでしょう。
**アップル ブランデー オン ザ ロックスとの比較** どちらもアルコールとウッディノートの美しい調和が魅力です。「アップル ブランデー オン ザ ロックス」は、リンゴの甘酸っぱさとカルダモンが前面に出るフルーティで軽快な香りです。一方で「オールド ファッション」は、穀物や樽材の香りをメインに据えた渋く温かみのある香りとなっています。より明るく軽快な気分を纏いたい場合は前者、秋冬の夜にじっくり香りを堪能したい場合は後者が最適です。
**ストレート トゥ ヘブンとの比較** 同じ調香師のシドニー・ランセスールが手掛けた、アルコールとドライウッドの組み合わせという共通点があります。「ストレート トゥ ヘブン」はラム酒をテーマにしており、非常にドライで甘さが少なく、焦げた木が力強く香るストイックな構成です。対する「オールド ファッション」は、トルーバームなどで適度な甘みとコクが足された、なめらかなウイスキーと樽の香りです。芳醇なコクと複雑なグラデーションを楽しみたい方に特におすすめです。
購入ガイド・価格・おすすめ度
「オールド ファッション」は、オード パルファムの単一バージョンとして完成された香りが提供されています。濃度やバージョンの違いで悩む必要はありません。
展開されているサイズとパッケージは、用途に合わせて選ぶことができます。自宅のディスプレイとして楽しみたい方には、50mLのレフィル可能な重厚なスプレーボトルがおすすめです。このボトルは、1920年代の禁酒法時代の隠れ酒場やアール・デコ様式にインスピレーションを受けた、クリスタルガラス製のカクテルグラス(オールド・ファッションド・グラス)を模した美しいデザインです。ガラスの側面にはブランドを象徴する「K」のモノグラムが幾何学パターンで彫り込まれ、正面にはゴールドのダイヤモンド型メタルプレートがあしらわれています。また、磁気キャップを採用し、サステナブルな哲学に基づく革新的なスピルプルーフ(こぼれ防止)リフィルシステムを備えているため、無くなったら100mLのレフィルで補充することが可能です。
初めて試す方や持ち運びを重視する方には、「アキレウスの盾」のモチーフが施された専用の7.5mLトラベルスプレー(タリスマン)やディスカバリーセットが手に取りやすい選択肢となるでしょう。「真のラグジュアリーは永遠に続くべき」というブランドの理念のもと、何度でも詰め替え可能な芸術品としてデザインされたボトルは、香りを纏う行為に儀式的な感覚をもたらしてくれます。伝統的な風格や内面の豊かさを表現したい大人の方に、強くおすすめできる一品です。
実際の使用感・シーン・評判
「オールド ファッション」を実際に纏う上で、最も適している季節は圧倒的に「秋」から「冬」にかけてです。ウイスキー樽やスパイスの深い温もりが、冷たい空気の中で心地よく香り立ちます。逆に、気温の高い真夏は香りが重たく感じられるため、避けた方が無難でしょう。
おすすめのシーンは、ディナーデート、落ち着いたバー、ホリデーパーティー、あるいは暖炉のある部屋でのリラックスタイムなど、夕方から夜にかけての時間帯です。落ち着いた雰囲気の中で、香りの複雑さが際立ちます。一方で、オフィスやビジネスミーティングでは、リアルなウイスキーのアルコール感が誤解を招く可能性があるため注意が必要です。服装は、深い色のウールやカシミヤのセーター、レザージャケット、タキシードなど、クラシカルでリッチな装いに見事にマッチします。
パフォーマンスの面では、最初の1時間は周囲に広がる力を持ちますが、その後は半径30cm程度の空間に落ち着き、着用者の周囲に「秘密の贅沢」のような静かなオーラを作ります。平均して6〜10時間の持続力があり、低温下ではより長く香り続けます。人肌の化学的性質によって香りの展開が大きく変化するため、衣服にスプレーすることで持続性を向上させるというテクニックもあります。ユーザーからは「夏以外なら大喜びで使う」「女性がぜひ使うべき香り」といったポジティブな声が寄せられており、ジェンダーを問わず寒い季節の相棒として愛されています。
ここで一つ、興味深い小話をご紹介しましょう。この香水は「オールド ファッション」という名前がつけられていますが、実は19世紀から愛される古典的カクテル(バーボンに角砂糖やオレンジピールを加えたもの)の香りを再現したものではありません。香水自体にはオレンジや砂糖の甘さはなく、純粋な「シングルモルトスコッチウイスキーのストレート」を表現しています。カクテルのレシピの再現ではなく、「時代を超越した粋」や「昔ながらの洗練された振る舞い」という概念そのものを名前に込めているのです。
また、日本市場においては、「オールドファッション」と検索すると某有名ドーナツチェーンの定番商品が大量にヒットしてしまうという、日本の香水ファンならではの微笑ましいエピソードもあります。グローバルなラグジュアリー香水でありながら、少し親しみやすい一面も持ち合わせていると言えるかもしれません。
秋冬の夜、内面の豊かさを表現したい大人のための「オールド ファッション」。その芳醇なウイスキーと樽の温もりが織りなす記憶を、ぜひあなた自身の肌で体験してみてください。


