ローズ 31
ル ラボ「ローズ 31」は、グラースの薔薇をクミン、シダー、ガイアックウッド、ムスクで再構築したウッディスパイシーなローズです。花の甘さを性別のない肌感へずらし、乾いた木質と体温を帯びた余韻を残します。
#141 · 2025-10-07
香水の基本情報と第一印象
Le Labo(ル ラボ)のRose 31(ローズ 31)は、2006年に登場したクラシックコレクションのオード パルファムです。日本公式ページでは50mlが31,350円、サイズは50ml、100ml、15mlが表示されています。公式説明では、官能的で絶対的な女性らしさの象徴として有名なグラースの薔薇を、男女問わず身にまとえる力強いフレグランスに昇華させることが目的とされています。
調香師はDaphné Bugey(ダフネ・ブジェ)。名前の「31」は、処方に使われた香料数を示すというル ラボの命名規則に由来します。ローズという名前ですが、印象は甘い花束ではありません。クミン、オリバナム、シダー、アンバー、ガイアックウッドが、薔薇をスパイシーでウッディな肌の香りへ引き寄せます。
第一印象は、きれいな薔薇よりも、温度のある薔薇です。花びらの奥に、スパイス、乾いた木、ムスク、人肌感がある。クミンと薔薇がほどく境界のない肌の余韻。そう捉えると、この香水の挑発的な魅力が見えてきます。
調香師・ブランドの背景と制作秘話
調香師のダフネ・ブジェは、フランス出身の調香師です。資料では、ル ラボのBergamote 22(ベルガモット 22)やNeroli 36(ネロリ 36)にも関わった人物として紹介されます。ローズ 31の創作には、もともと別のブランドのために作ったジャスミンの試作から始まり、そこをローズに置き換えたという逸話があります。
さらに興味深いのは、ブジェ自身はもっと改良したいと考えていたものの、ブランド側が「ここで完成」と判断したという話です。ローズ 31は、整えすぎると壊れてしまうタイプの香りです。クミンの危うさ、ローズの品、ウッドの乾きが、ぎりぎりのところで成立しています。
ル ラボは2006年、Fabrice Penot(ファブリス・ペノ)とEddie Roschi(エディ・ロスキ)によってニューヨークで創業しました。ブランド名はフランス語で「実験室」。店頭での調合、白いラベル、パーソナライズ、広告より香りそのものを重視する姿勢が、ローズ 31の「ローズを実験する」感覚とよく重なります。
香りの詳細分析
トップは、ローズとクミンが強く印象に残ります。一般的なローズ香水のように、甘く、華やかで、きれいに咲く入口を期待すると驚くかもしれません。クミンは、温かく、人肌に近く、少し塩気や体温を思わせるスパイスです。ここで薔薇は、かわいらしい花ではなく、肌の上で息をしているような花になります。
ミドルでは、シダー、ベチバー、オリバナムがローズを支えます。公式説明でも、クミン、オリバナム、シダー、わずかなアンバーが薔薇の勢いを増すとされています。ここでローズは消えるわけではありません。ただ、花束の中心で華やかに咲くというより、乾いた木の骨格に染み込んでいきます。スーツの内側、古い木の床、スパイスの残り香のような乾きがあります。
ラストは、ガイアックウッド、ムスク、ラブダナム、アンバー、ウードなどが作る肌の余韻です。甘いバラ水ではなく、乾いた木、樹脂、スパイス、ムスクが混ざったローズの影が残ります。持続は長めと感じる人が多い一方、ウッディムスク系の素材は嗅覚疲労や肌質で体感差が出やすく、短く感じる人もいます。
他の香水との比較・ポジショニング
ル ラボのSantal 33(サンタル 33)と比べると、サンタル 33はドライなサンダルウッド、レザー、紙のような乾きが中心です。ローズ 31にもドライさはありますが、そこに薔薇とクミンの人肌感が入ります。サンタル 33が乾いた木のアイコンなら、ローズ 31はその木にスパイスと花の温度を足した香りです。
一般的なローズ香水と比べると、ローズ 31はかなり違います。甘く、華やかで、ロマンティックなローズを前面に出すのではなく、ローズをスパイス、ウッド、ムスクで一度ほどいてから、性別をまたぐ香りに組み直しています。ローズをきれいに飾る香水ではなく、ローズが持っていたイメージをずらす香水です。
第139回で扱ったBvlgari(ブルガリ)Rock'n'Rome(ロックンローマ)が、アプリコットと金木犀の夕暮れだったのに対して、ローズ 31は果実ではなく、クミンと木と肌のローズです。どちらも甘い花をそのまま甘く扱わない香水ですが、ブルガリが祝祭的なら、ル ラボはもっと近く、乾いていて、体温があります。
購入ガイド・価格・おすすめ度
日本公式ページでは、50mlが31,350円です。サイズは50ml、100ml、15mlが表示されています。公式ページでは、ラベルに最大23文字までメッセージを入れられるパーソナライゼーションも確認できます。ル ラボらしい、香りだけでなく「自分の一本」として持つ体験も含めて選ぶ香水です。
おすすめしやすいのは、甘いローズより、スパイシー、ウッディ、ムスキーな香りが好きな人です。ローズの華やかさより、クミンの温度、シダーの乾き、ムスクの肌感に惹かれる人にはかなり面白い一本です。性別で分けず、服や肌の雰囲気で香りを選びたい人にも合います。
注意点は、クミンです。人によっては温かいスパイスとして魅力的に感じますが、人によっては体臭っぽさやカレーのような印象として受け取ります。ローズという名前だけで買うより、必ず肌で試し、トップの数分だけでなく、ミドルからラストまで確認したい香水です。
実際の使用感・シーン・評判
似合う季節は、秋冬が中心です。春の夜にも合いますが、真夏の密室ではクミンとムスクの体温感が重く出る可能性があります。服装は、ジャケット、黒い服、白いシャツ、少し無骨な革小物、シンプルなジュエリーと相性がよさそうです。
シーンとしては、仕事後の食事、静かなバー、ギャラリー、夜の散歩、近い距離で話す日。清潔で無難なオフィス香水というより、少し個性を残したい日に向きます。大きく甘く広がるローズではなく、近づいたときにスパイスと木と花が混ざって出るタイプです。
評判では、クセになる、かっこいいローズ、甘くない、落ち着く、褒められる、パートナーと共有できる、という声があります。一方で、クミンが苦手、体臭っぽい、ローズを期待すると違う、サンタル 33ほどわかりやすくない、価格が高い、という意見もあります。
ローズ 31は、誰にでも優しい薔薇ではありません。けれど、薔薇を性別や甘さから解放し、クミンとウッドと肌の余韻へ変えた香水です。きれいな花ではなく、体温を持った花。その危うさが、この香水を長く語られる一本にしています。


