ロド 1896
ミュシャ「ロド 1896」は、ミュシャの香水広告ポスターを背景に、オレンジやペアー、ローズ、ムスクを重ねた華やかな香りです。アール・ヌーヴォーの曲線を思わせる柔らかな甘さがあり、花と果実が淡い装飾のように広がります。
#137 · 2025-10-03
香水の基本情報と第一印象
MUCHA(ミュシャ)のRodo 1896(ロド 1896)は、アルフォンス・ミュシャが1896年に描いた香水広告ポスター「Lance Parfum Rodo(ランス パルファム ロド)」を背景に持つオードトワレです。現代版は、失われた香りをそのまま復元するというより、ポスターの世界観を金木犀のノスタルジーとして再構成した香水です。
第一印象は、甘い金木犀だけではありません。オレンジのほろ苦さ、ペアーの熟した甘さ、少し古い紙やポスターの色を思わせる夕方の影があります。明るく可愛い金木犀というより、ベル・エポックの装飾の奥から、秋の花がゆっくり出てくるような香りです。
金木犀とオレンジが滲むベルエポックの余韻。そう捉えると、この香水の立ち位置が見えてきます。香りだけで勝負する金木犀香水ではなく、ミュシャの絵、1896年の広告、現代のボトルデザイン、秋の記憶まで重なったプロダクトです。
調香師・ブランドの背景と制作秘話
調香師名は、公開情報では明確に確認できません。ここで重要なのは、個人の調香師よりも、1896年のポスター「ロド」を現代の香りへ戻すという企画そのものです。もともとのポスターは、フランス・リヨンの化学会社が発売した香水の広告として作られました。
そのポスターには、女性が細長いボトルからハンカチへ香りを吹きかける姿が描かれています。当時のスプレー式、あるいは発射式香水の使い方を伝える広告でありながら、ミュシャの流れる髪、円形の装飾、優美な女性像によって、商品広告そのものがアートになっています。
ミュシャは、ミュシャ財団公認ブランドとして、こうした作品の世界観を香りや雑貨に展開するブランドです。ロド 1896は、その中でも特に面白い作品です。なぜなら、もともと香水広告だった絵を、もう一度香水に戻しているからです。絵を香りにしただけでなく、香水の記憶を香水へ返した作品と言えます。
香りの詳細分析
トップはオレンジとペアー。つけた瞬間は、かなりオレンジの苦みや渋みを感じる人がいます。甘い金木犀を想像していると、最初は少し戸惑うかもしれません。そこへペアーの丸い甘さが重なり、苦みをやわらかく包みます。この入口があるので、ロドは単なる可愛い秋の香りではなく、少し影のあるフルーティフローラルとして始まります。
ミドルでは、ローズ、フリージア、オスマンサスが出てきます。オスマンサスは、金木犀として親しまれる花で、アプリコットのような果実感や、時にレザー、茶のような奥行きを持つ素材です。ロドでは、その金木犀がローズの甘さとフリージアの透明感に包まれ、花束の一部として香ります。金木犀単体というより、フルーツを添えた金木犀ブーケです。
ラストはパチュリとムスク。パチュリが土っぽい影を加え、ムスクが肌に近い柔らかさを残します。ここが、前回のロクシタンよりも大人びて感じられる理由です。明るい果実と花だけで終わらず、最後に少し暗い余韻がある。秋の夕方、部屋に残るポスターの色のような着地です。
他の香水との比較・ポジショニング
第136回で扱ったL'Occitane(ロクシタン)のOsmanthus(オスマンサス)と比べると、ロクシタンはアプリコット、洋梨、ビターオレンジで明るく、春夏にも使いやすい金木犀でした。ロドは、オレンジのほろ苦さ、ローズ、フリージア、パチュリで、もっと秋の影とアート性があります。
第135回のHermès(エルメス)Osmanthe Yunnan(オスマンサス ユンナン)と比べると、エルメスは茶と金木犀の余白を描く静かな香水でした。ロドは、茶ではなくポスター、ブーケ、ベル・エポックの物語で金木犀を扱います。どちらも写実的な金木犀ではありませんが、エルメスは水彩、ロドは装飾ポスターに近い印象です。
Jo Malone London(ジョー マローン ロンドン)のEnglish Pear & Freesia(イングリッシュ ペアー & フリージア)とも比較できます。ペアー、フリージア、ローズ、パチュリ、ムスクという骨格が近く、親しみやすいフルーティフローラルとしての共通点があります。ただ、ジョー マローンが英国の果樹園の透明感なら、ロドは金木犀とミュシャの夕暮れです。
購入ガイド・価格・おすすめ度
2025年の公式コレクションページでは、オードトワレ40mL ロド 1896が14,960円(税込)として案内されています。流通では13mLが6,930円(税込)で販売されている情報もあり、過去には35mLや10mLの情報も見られます。サイズと価格は時期や販売チャネルで変わるため、購入時は公式サイトや正規流通で確認するのが安全です。
おすすめしやすいのは、金木犀が好きな人、ミュシャの作品が好きな人、ボトルや物語まで含めて香水を楽しみたい人です。香りだけを容量単価で見ると高めに感じるかもしれませんが、アートピースとしての所有感まで含めると、この香水の価値が見えやすくなります。
注意点は、トップのほろ苦さ、EDTとしての持続、そして金木犀の解釈です。甘くわかりやすい金木犀だけを求める人には、オレンジの苦みやパチュリの影が意外に感じられるかもしれません。試香するなら、つけた直後だけでなく、30分後の花束感と、1〜2時間後のムスクまで見たい香りです。
実際の使用感・シーン・評判
似合う季節は、やはり秋です。とくに、暑さが引いて、夕方の空気が少し冷たくなる頃に合います。冬の始まりにも使えますが、重いオリエンタルではないので、コートの中で強く残す香水というより、ニットやブラウス、薄いジャケットの近くでふわっと香るタイプです。
シーンとしては、プライベート、リラックスタイム、美術館、秋の外出、静かなカフェ、厳しすぎないオフィスに向きます。香水を主役にするより、服やアクセサリー、部屋の空気と合わせて、少し世界観を作る使い方がきれいです。ボトルを机や棚に置いておきたくなるところも、この香水の魅力です。
評判では、ボトルが美しい、インテリアになる、ミュシャの絵を持ち歩くよう、金木犀が甘すぎず大人っぽい、秋に合う、といった声が目立ちます。一方で、最初のオレンジの苦みが強い、金木犀そのものではない、持続が短い、価格が高めという声もあります。
ロド 1896は、金木犀香水であると同時に、香水広告の歴史を香りとして持ち歩く作品です。オレンジのほろ苦さ、ペアーの甘さ、花束のような金木犀、パチュリとムスクの影。見て、嗅いで、部屋に置いて楽しむ。香水を小さなアートとして扱いたい人に向いた一本です。


