チェリー ウード
ゲラン「チェリー ウード」は、チェリー、ローズ、レザー、ウードが赤と黒の余韻を作る香りです。果実の艶やかさをラール エ ラ マティエールらしい重厚な木質が支え、甘さに深い影を与えます。
#119 · 2025-09-15
香水の基本情報と第一印象
Guerlain(ゲラン)のCherry Oud(チェリー ウード)は、2022年にL'Art & La Matière(ラール エ ラ マティエール)から登場したオードパルファンです。調香はDelphine Jelk(デルフィーヌ ジェルク)。ウード三部作の一つとして、赤いチェリーと黒いウードをぶつけた作品です。
第一印象は、濃いチェリーの赤です。ただし、ケーキやキャンディのようなかわいいチェリーではありません。リキュール、ワイン、赤いラッカーのような艶があり、その奥にレザーとウードの黒い影が見えます。今回の興味喚起フレーズは、チェリーとウードが艶めく赤と黒の余韻。甘さよりも、赤と黒の緊張感が残る香りです。果実の明るさを入口にしながら、最後は樹脂、革、煙を思わせる暗い質感へ引き込むため、第一印象と数時間後の表情にかなり差があります。
調香師・ブランドの背景と制作秘話
ゲランは1828年創業のフランスの名門メゾンです。ラール エ ラ マティエールは、貴重な素材を芸術として解釈する高級ライン。チェリー ウードは、ウード ヌード、ウード コールと並ぶ、2022年のウード三部作として登場しました。
デルフィーヌ ジェルクは、この香りの赤をJeff Koons(ジェフ クーンズ)の作品に見られるグロッシーな赤にたとえています。高尚で神秘的なウードに、ポップで挑発的なチェリーを重ねる。その衝突が、チェリー ウードの面白さです。クラシックな名門が得意とする端正さに、現代的なアートピースのような派手さをあえて入れているため、単なる重厚なウード香水ではなく、視覚的にも赤が浮かぶ構成になっています。
香りの詳細分析
トップでは、チェリーとフルーティノートが立ち上がります。果汁感はありますが、軽いフルーツではありません。濃く、艶があり、少しリキュールのようです。赤い塗料を黒い木に一刷けするような、鮮烈な始まりです。
ミドルでは、Turkish Rose(ターキッシュローズ)とBulgarian Rose(ブルガリアンローズ)が香りの橋になります。ターキッシュローズは蜂蜜のような温かさ、ブルガリアンローズは果実味と華やかさを持ち、チェリーとウードの間にゲランらしい気品を作ります。
ベースでは、Leather(レザー)とOud(ウード)が深く残ります。
ウードはレザーリーで、少しアニマリックなウッディ感を持ちます。レザーはチェリーの甘さを引き締め、ラストは赤い果実が黒い革に染み込んだような余韻になります。ここで香りは一気に大人びます。
トップの赤は残っているのに、輪郭は甘い菓子ではなく、磨かれた革小物、暗い木材、夜の照明のような方向へ変わります。
他の香水との比較・ポジショニング
Tom Ford(トム フォード)のLost Cherry(ロスト チェリー)は、アーモンドやリキュールを含む、より食べられるチェリーです。チェリー ウードは、グルマンではなく、レザーとウードで赤を黒く沈める香りです。
同じくトム フォードのCherry Smoke(チェリー スモーク)は、スモーキーで退廃的な方向。チェリー ウードは、そこにローズの気品とゲランらしい丸みが入ります。煙だけで尖らせるのではなく、赤い果実を高級な革製品のように磨いています。
ゲラン自身のBlack Perfecto(ブラック パーフェクト)は、チェリー、ローズ、レザーの赤黒をよりロックに鳴らす香りです。チェリー ウードはもっと重心が低く、ウードの黒があるため、ドレスアップした夜の香りに寄っています。
購入ガイド・価格・おすすめ度
日本の参考価格では、100mL 50,270円、200mL 71,940円という記録があります。価格は改定されるため、購入時は公式または正規取扱店で確認してください。かなり高価格帯ですが、香り、ボトル、カスタマイズ性まで含めてラール エ ラ マティエールの体験として見る香水です。
おすすめしやすいのは、チェリー、ローズ、レザー、ウード、赤と黒の濃い香りが好きな人です。逆に、軽いチェリー、清潔なフルーティ、オフィス向けの控えめな香りを求める人には重いかもしれません。少量でも印象が強く、試香は必須です。
試香する時は、トップのチェリーだけで判断しない方がいい香りです。時間が経つほど、ローズ、レザー、ウードの黒が出てきます。服に残る余韻も強いので、肌で数時間、できれば衣服との距離感も含めて確認したい一本です。店頭でムエットだけを嗅ぐと果実の派手さが目立ちますが、肌では体温とともにレザーの乾いた影が出ます。購入判断は、甘さではなくラストの黒さを心地よく感じられるかが分かれ目です。
実際の使用感・シーン・評判
似合うのは、秋冬、夜、会食、ホテルラウンジ、バー、舞台やコンサート、黒やボルドーの装いです。香りで場を明るくするのではなく、装いに重心と艶を足すタイプ。日本の生活距離では、腰や膝裏に少量くらいが上品に使いやすいです。
評判では、チェリーとウードのバランスがよい、芸術的、濃厚、デート向き、ゲランらしい完成度があるという声があります。一方で、価格が高い、強すぎる、重い、レザーの残り方が苦手という意見もあります。万人向けではありませんが、合う人にはかなり強く刺さる香りです。
チェリー ウードの魅力は、赤い果実をかわいく見せないところです。チェリー、ローズ、レザー、ウード。赤は甘さではなく艶になり、黒は重さではなく陰影になります。チェリーとウードが艶めく赤と黒の余韻が、この香りの忘れにくさです。強さだけでなく、色の記憶が残る香水です。


