イマジナシオン
紅茶の香水と聞いて、温かな一杯を思い浮かべるかもしれません。ルイ・ヴィトンのイマジナシオンは、明るい柑橘から始まり、茶葉のほろ苦さと柔らかなアンバーが肌に残る香りです。爽やかさと落ち着きが、一つの香水の中に重なる。その組合せを形にした調香師の5年、似た香りとの違い、春夏の昼間の使いどころまでたどると、最初の印象だけでは分からない余韻が見えてきます。
#10 · 2025-05-29
香水の基本情報と第一印象
ルイ・ヴィトンのイマジナシオンは、柑橘の明るさにブラックティーの落ち着きが重なるオードゥ パルファンです。2021年、男性用コレクションの7作目として登場しました。爽やかな香りで始まりながら、肌には柔らかなアンバーの余韻が残ります。ここでいうアンバーは、温かみと柔らかさのある香り。濃い甘さを求めるというより、明るい香りの中に穏やかさが欲しいときに気になる一本です。
紅茶という名前から、温かな飲み物を連想する人もいるでしょう。イマジナシオンでは、茶葉のほろ苦さや軽く燻したような印象が、柑橘と重なります。最初の爽やかさだけで香りを決めつけず、少し時間をおいて肌に残る部分まで楽しむと、お茶とアンバーの働きが分かりやすくなります。
透明な円筒形のボトルには、淡い青緑の液色が見えます。黒いキャップと、正面の香水名、ブランド名。簡潔な形なので、色と文字に自然に目が向く外観です。この共通ボトルやパッケージを設計したのは、デザイナーのマーク・ニューソン。2016年に始まった香水コレクションの形が、後の作品へも受け継がれています。
調香師・ブランドの背景と制作秘話
イマジナシオンを作ったジャック・キャヴァリエ・ベルトリュードは、香水作りで知られる南フランスの町、グラースに育ちました。父も祖父も調香師。花の収穫や原料の話が、家庭の中で日常的に交わされていたといいます。母が朝、顔につけてくれたローズウォーターや、父と歩いたジャスミン畑も、本人が語る幼いころの記憶です。
代表作にはイッセイ ミヤケのロードゥ イッセイ、ブルガリのプールオム オードトワレがあります。2012年にルイ・ヴィトンの専属調香師となり、グラースのアトリエで創作を続けています。
イマジナシオンを形にするまでには、5年かかりました。頭の中にあった香りを、実際の処方にするための時間です。ある日、コンピューターに処方を書き、これならいけると感じたと本人は話しています。目指したのは、重さや砂糖のような甘さに頼らず、軽やかなアンバーの香りでした。
もう一つ、父との小さな話があります。父はジャックに、いつか飲む水の匂いまで嗅ぐようになるだろうと言っていました。今では、そのとおりになったそうです。花や香水だけでなく、何気なく口にする水にも匂いを探す。香りに注意を向ける習慣が、暮らしの中まで続いています。
公式サイトでは男性用の香水として紹介されていますが、ジャック・キャヴァリエは、作るときに性別を先に決めなかったそうです。試作をつけると女性からも香りを尋ねられたそうです。女性でも、この香りが好きなら楽しめます。名前には、英語とフランス語で同じつづりが通じることも関係しています。
香りの詳細分析
入口のシトロンは、大きなレモンに似た柑橘です。果実の明るさに加え、皮を思わせるほろ苦さも手掛かりになります。ベルガモットの爽やかさに、オレンジの丸みが重なる組合せ。柑橘だけでも、きりっとした面と柔らかな面があります。
ネロリは、オレンジの花の香りです。果実の明るさとは違う、花の明るさが加わります。そこへ、生姜のすっと鼻に届く刺激と、シナモンの温かさ。花とスパイスが異なる働きをするので、爽やかなままでも単調になりにくいのです。シナモンの温かさは控えめで、柑橘の印象が続きます。
ブラックティーでは、茶葉のほろ苦さと軽く燻したような印象に注目したいところです。ガイアックウッドの木の香りと、オリバナムの樹脂の香りが、その奥行きを支えます。オリバナムは、お香にも使われる素材。お茶の香りの周りに、木や樹脂の落ち着きが重なります。
アンブロキサンは、天然香料のアンバーグリスを思わせる匂いを持つ香料です。イマジナシオンでは、肌に馴染む柔らかな余韻を作っています。茶葉のほろ苦さだけが強く残るのではなく、穏やかなアンバーが一緒に感じられる。この組合せが、爽やかさの先にある心地よさにつながります。
柑橘とお茶は重なって香り、時間とともにお茶の落ち着きが感じられるようになります。最初の印象と、しばらくたった肌の香りを比べると、それぞれの素材がどんな役割をしているかを楽しめるでしょう。
他の香水との比較・ポジショニング
ルイ・ヴィトンのリマンシテは、柑橘、生姜、柔らかなアンバーという共通点から比べたい作品です。手掛かりになるのは、グレープフルーツの苦みと生姜のきりっとした爽快感。柑橘の皮や生姜をはっきり楽しみたい日には、その切れ味が魅力になるでしょう。
イマジナシオンでは、爽やかさに重なる茶葉のほろ苦さや、穏やかな余韻にも目を向けたいところ。同じブランドの爽やかな香りでも、何を心地よく感じるかによって選び方が変わります。
ニシャネのウーロンチャは、柑橘とお茶を組み合わせた作品です。中心は烏龍茶で、ムスクとイチジクが下支えします。ブラックティーとアンバーが重なるイマジナシオンに対し、烏龍茶に果実やムスクが重なる香り。お茶の種類と、その周りにある素材を一緒に比べると違いが分かりやすくなります。
ウーロンチャは、香料の割合が高いエキストレ・ド・パルファムです。ただし、エキストレだから必ず強く香るわけではありません。どちらのお茶が好きか、時間をおいた肌で余韻を比べてみてください。
ブルガリ プールオム オードトワレも、同じ調香師ジャック・キャヴァリエによる、お茶とムスクが軸の香りです。公式ではダージリンティーとスイレン、ガイアックウッドとカルダモン、ムスクと透明感のあるアンバーという構成。緑茶とムスクを中心にした静かな清潔感で、イマジナシオンの明るい柑橘、紅茶、アンブロクサンとの違いがよくわかります。
香水評論家パーソレーズは、イマジナシオンからブルガリ プールオムを思い出すと評しています。この指摘を起点に、同じ調香師によるお茶の表現の違いを比べられます。
購入ガイド・価格・おすすめ度
イマジナシオンの日本での100mlの公式価格は、2026年時点で50,600円です。海外では200mlのボトルも展開されています。持ち運び用のトラベルスプレーは、7.5mlのカートリッジ4本付き。専用レフィルもあり、外へ持ち出す頻度に合わせて選べます。
通常ボトルは、専用設備のある店舗で香水を補充できる仕組みです。気に入った香りを、同じ容器で使い続けられる選択肢があります。購入時には、容量と容器の違いに加えて、利用できる補充方法も確認しておくとよいでしょう。
お茶の香水が気になる人にも、普段は柑橘を選ぶ人にも試す手掛かりがあります。一方で、温かな甘い香りをたっぷりまといたい気分なら、爽やかさが軽く感じられるかもしれません。価格も含めて納得できるかは、お茶とアンバーの余韻まで肌で確かめてから考えたいところです。
実際の使用感・シーン・評判
特に合わせたいのは、春夏の昼間の外出です。街歩きや日常の外出に、明るい柑橘とお茶の落ち着きを添える。秋の穏やかな日も次の候補になります。真冬に甘く厚い香りで温まりたいなら、その日に欲しい香りの重さと照らし合わせて選びたい一本です。
白いシャツや薄手のニットなど、すっきりした普段着にも合わせやすそうです。服の色をボトルの青緑にそろえる必要はありません。いつもの外出の服に添えて、時間とともに変わる香りを楽しむ提案です。
使った人には、お茶や柔らかな余韻を好む人もいれば、石けんのような清潔感を強く感じる人もいます。その清潔感を心地よく思う声がある一方、お茶の存在感をもっと求める声も。つけた直後だけではなく、少し時間をおいて、お茶のほろ苦さやアンバーの柔らかさまで確かめてみてください。
香りはしっかり続き、周りにも広がるという声があります。そのため、職場や食事など、人との距離が近い場所では少量から試すとよいでしょう。柑橘の明るさが好きなのか、お茶のほろ苦さが好きなのか。肌に残る柔らかさまで含めると、自分にとってのイマジナシオンが見えてきます。


