光と潮風をまとう、夏香水5選
暑い季節の入口から真夏の海辺と木陰まで、香水ラジオが選ぶ夏にまといたい5本。シトラスの弾ける明るさから、塩気や白花、ココナッツ、苔むした森の冷たい水まで、シーンごとの使いどころとともにご紹介します。
日差しが強くなって、Tシャツ一枚で外に出られる季節になってきましたね。冬や春には肌に寄り添うような香りを楽しんでいた方も、夏になると不思議と「弾けるような明るさ」や「風に流れていく軽やかさ」を欲しくなるものです。汗ばむ肌に重い香りは少し息苦しくて、シトラスの透明感や、潮風のような清涼感が心地よく感じられますよね。
今回は香水ラジオでこれまでご紹介した作品のなかから、夏に特に似合うと思う5本を選んでみました。朝に爽やかに立ち上がるシトラスから、海辺の肌を思わせる塩気や白花、ココナッツ、苔むした森の冷たい水まで、夏のいろいろなシーンに寄り添うラインナップです。どれも実際にエピソードで深掘りしているので、気になった香りはぜひ聴いてみてください!
暑い日の入口を、ユズとハーブで明るく開ける
夏の始まり、まだ湿度に体が慣れていない頃に、ぱっと気分を上げてくれる香りがあるといいですよね。ディプティックの「オイエド」は、まさにそんな一本だと思います。
ユズとグリーンタンジェリンの弾けるようなシトラスに、タイムのハーバルな清涼感が重なって、明るさのなかにきりっとした表情が生まれています。そこにラズベリーがほんのり果実の丸みを添えてくれるので、シトラスにありがちな硬さや単調さがなく、どこか楽しげ。江戸の名を明るく再構成したというコンセプトも面白くて、和の柑橘であるユズが主役なのに、まったく懐古的にならず軽やかに仕上がっているのが魅力です。暑い日の朝や、少し気持ちを切り替えたい昼下がりにおすすめしたい香りです。
主役のユズは、日本人にとってなじみ深い和の柑橘。レモンやライムほど尖らず、まろやかで奥行きのある酸味と、青々とした果皮の香りが特徴で、夏のシトラスに品を与えてくれます。そこに丸みを添えるのがマンダリン。甘くやわらかい果汁感が、ユズの青さがきつくなりすぎないように支えています。そして全体を引き締めるのがタイム。乾いた葉の薬草的な青さが加わることで、ただ明るいだけのシトラスにならず、きりっとした表情が生まれています。
海上がりの肌に残る、塩気と白花の温もり
海で泳いだあと、肌がほんのり温まって、潮の気配が残っているあの感じ。あれを香水にしたらどうなるだろう、と想像したことがある方に試してほしいのが、BDK Parfumsの「セルダルジャン」です。
ソルテッドアコードの塩気が、グレープフルーツやベルガモットのシトラスとともに立ち上がり、そこにオレンジブロッサムやイランイランの白い花がやわらかく寄り添います。時間が経つと、ホワイトムスクやアンブロキサンが肌に溶け込んで、温かい素肌そのもののような余韻を残してくれる。派手な演出ではなく、地中海の日差しを浴びた肌の記憶をそっと描くような、しっとりとした夏の香りです。真夏の強い日差しよりも、夕方の凪いだ海辺のような場面が似合う気がします。
立ち上がりを決めているのがソルト。海辺のミネラル感や潮風を思わせる塩気のノートで、甘さや重さを抑えて、香り全体に透明感と肌なじみのよさを与えてくれます。その塩気に体温を足すのがオレンジブロッサム。白い花の甘さとほのかな石けん感が、無機質になりがちな塩を人肌の側へ引き寄せます。そして余韻を担うのがアンブロキサン。乾いた琥珀のような温もりが肌に長く残り、「日差しを浴びたあとの素肌」という印象をつくり出しています。
果汁の明るさに、泡とスパイスが走る朝
夏の朝に似合うシトラスでも、ただ冷たく軽いだけでは少し物足りない日があります。パルル モア ドゥ パルファムの「オレンジ ハイパー エッセンス / X」は、オレンジの果汁感にジンジャーの刺激とプロセッコの発泡感を重ねた、少し大人びた一本です。
手がけたのはMichel Almairac。果皮のほろ苦さと果肉の甘みを残しながら、ジンジャーでオレンジをかじった瞬間の酸味まで思わせる立体感をつくっています。そこへプロセッコの細かな泡が重なり、朝のオレンジジュースというより、よく冷えたオレンジのカクテルのような表情に。白いTシャツで出かける休日や、暑さで気分が鈍りそうな昼前に、少し速度を取り戻したいときに似合う香りだと思います。
中心にあるオレンジは、甘い果汁だけでなく、厚みのある果肉と果皮の苦味まで感じさせる親しみやすいシトラスです。そこへジンジャーがレモンのような明るさと乾いた辛さを差し込み、香りに細い刺激を通します。プロセッコアコードは白ぶどうの軽い甘さと、炭酸が弾けるようなきらめきを添える役。三つが重なることで、オレンジは単純なジュースではなく、泡とスパイスを含んだ夏の一杯へ変わります。
ライムとココナッツで、南の海へ逃げ出したい日
仕事や日常に少し疲れたとき、「今すぐどこか遠くの海に行きたい」と思うことってありますよね。クリードの「ヴァージン アイランド ウォーター」は、そんな気分にそっと応えてくれる、リゾートへの逃避行のような香りです。
ライムの青い飛沫のような爽やかさから始まって、白いココナッツミルクのクリーミーな甘さへと移ろっていく。トロピカルフルーツやジャスミンも加わって、カリブ海の休日の情景がまるごと目の前に広がるようです。甘すぎず、けれど確かに南国のバカンス感がある絶妙なバランスで、汗ばむ肌にのせても軽やかに漂ってくれます。夏の休暇や、気持ちだけでも遠くへ飛びたい日に、ぜひまとってみてほしい一本です。
入口はライム。レモンよりも青くシャープで、ほろ苦さと爽快さを兼ね備えた柑橘が、トロピカルな香りにきりっとした引き締まりを与えます。そこへ広がるのがココナッツ。ミルキーで甘い質感が、青い飛沫のようなライムを一気に南の島の空気へ変えてくれます。最後に肌へ残るのがホワイトムスク。清潔でやわらかな余韻が、リゾート感を大げさにしすぎず、汗ばむ肌にも軽やかに寄り添わせています。
苔むした森に、冷たい水が走る
真夏の午後、涼しさを探すなら、海風だけが答えではありません。パルファン サトリの「苔清水」は、静かな森に湧く新鮮な水と、苔むした岩肌へ落ちる光を描いたグリーン・シプレーです。
レモンとベルガモット、ハーバルノートが冷たい水のように立ち上がり、スズランとジャスミン、青葉の透明な緑へ移っていきます。最後はモス、パチョリ、ムスクが、湿った苔の温もりを肌の近くに残す。甘さが控えめで、高温多湿の夏にも重く感じにくいため、白いシャツで過ごす朝や、暑さから少し離れて読書をしたい時間に似合います。
入口のレモンは、冷たい水に光が差すような澄んだ明るさをつくります。中盤のスズランは甘い花束としてではなく、若葉と水辺の空気を思わせる透明感を添える役。ラストのモスは、しっとりした土と苔の青さで香りを静かに落ち着かせ、トップの動きから森の奥の静寂へ導きます。
夏の香水選びで迷ったときは、ぜひ今回の5本を参考にしてみてください。朝の爽やかなシトラスがいいのか、海辺の記憶をまといたいのか、その日の気分やシーンで選ぶのがおすすめです。「どれも気になる」と感じたなら、まずは各エピソードを聴いてみてください。香りの詳細から使いどころまで、じっくりお話ししています。この夏にぴったりの一本が見つかりますように!
この特集で紹介した香水
オイエド暑い日の入口を明るくするユズとハーブのシトラス
セルダルジャン肌に残る塩気と白花で海辺を描く一本
オレンジ ハイパー エッセンス / X泡とスパイスが走る夏向きオレンジ
ヴァージン アイランド ウォーターライムとココナッツが描くリゾートの逃避行
苔清水冷たい水と青葉から苔の静けさへ移るグリーン・シプレー