日本でこそ出会える、人気の日本香水5選

日本の暮らしや美意識から生まれ、長く親しまれてきた5本。墨染めの薔薇、深蒸し緑茶と紫蘇、白桃と烏龍茶、サボンとパウダリーな花、鮮烈なグリーンまで、それぞれの魅力を似合う時間や場面とともにご紹介します。

畳と和紙の上に置かれた緑茶、紫蘇、白桃、金木犀、椿、苔、松

香水には、その土地の暮らしや季節、美意識が映ります。日本の香水にも、ドラッグストアの棚で何十年も親しまれてきた一本から、入荷のたびに話題を集める小さなブランドの作品まで、ここで育まれてきた魅力があります。

今回は香水ラジオでこれまでご紹介してきた日本の香水から、その魅力に触れる入口となる5本を選びました。夜明け前の茶室に咲く墨染めの薔薇、深蒸し緑茶と紫蘇、白桃と烏龍茶、サボンとパウダリーな花、そしてドラッグストアの棚で親しまれてきた鮮烈なグリーンまで。香りそのものはもちろん、その背景にある風景まで味わいたくなる5本です。


夜明け前の茶室に咲く、墨染めの薔薇

パルファン サトリの「侘助」は、日本のニッチフレグランスの到達点のような一本です。代表作「ひょうげ」から15年を経て、調香師の大沢さとりさんが「自分なりの侘び」にたどり着いた作品です。

主題は、立春前後のいちばん寒い時期に、炭火の明かりだけで茶を楽しむ「暁の茶事」。ダバナとパチュリの冷たく張り詰めた入口から、彩度を落としきったローズとライラックが静かに咲き、最後は龍脳や墨、樹脂の余韻へ沈んでいきます。そもそも侘助椿はほとんど香らない花で、それを概念のまま香水にしてしまう。引き算でここまで描けるのか、と驚かされます。静かに自分と向き合いたい夜や、きちんとした装いの日にこそ似合う香りです。

中心にあるのはローズですが、華やかな薔薇ではありません。「薔薇に紫墨を合わせた深紅色」と評されるほど彩度を落とした、陰影のあるローズとして置かれています。その静けさに緊張感を与えているのがダバナです。熟した果実やハーブ、お酒のような発酵感を持つ個性的なノートで、冷たい夜明けの空気に複雑な奥行きを足しています。そして最後に残るのがボルネオール(龍脳)。樟脳や松を思わせる清涼感のある香料で、墨の匂いが漂う和室のような、清浄で乾いた余韻をつくります。この着地があるから、侘助は「静けさの香水」になっているのだと思います。


湯呑みの底に残る、深蒸し茶の静けさ

「緑茶の香り」と聞いて思い浮かべるのは、たいていベルガモットを効かせた爽やかなティーフレグランスではないでしょうか。R fragranceの「トランプ クラブ」は、そのイメージをまるごと更新してくれる一本です。

シトラスの酸味に頼らず、紫蘇の鋭い青みと深蒸し緑茶のコクだけで、和の空間そのものを描いていきます。中盤ではジャスミンが加わって、茶葉に花の香りを移した窨花茶のような丸みが出て、最後は畳と苔の、雨上がりの茶室のような静けさへ沈んでいく。肌の近くで香る密着型なので、読書や仕事など、静かに集中したい時間にすっと寄り添ってくれます。調香から製造まで日本国内で完結しているブランドだと知ると、この写実性にも納得がいくのではないでしょうか。

中心にあるのは、もちろんグリーンティー。茶葉の透明感と軽い苦み、湯気のような清潔感を持つノートですが、この作品では「爽やかさ」よりも、深蒸し茶のコクや旨みの側が丁寧に描かれています。その緑茶に鋭い輪郭を与えているのが紫蘇です。ミントに近い清涼感を持ちながら、青い葉と軽いスパイス感がある、和の印象が強いハーバルノート。西洋のティーフレグランスとの決定的な違いは、ここから生まれています。そして着地点にあるのが畳。乾いた藁や干し草を思わせる素朴な香りで、香水のラストに「部屋」を出現させます。香りで空間を描くという意味で、これ以上ないほど日本的なノートだと思います。


冷たい名前から、体温へ変わっていく

「ミネラル(鉱物)」という名前から想像するのは、岩肌や潮風のような冷たさかもしれません。でも5W1Hの「01 MINERAL」は、その予想をやさしく裏切ってきます。

立ち上がりは白桃と青りんご、そこに烏龍茶の湯気のような透明感が重なります。冷たく澄んだ入口から、スズランやオレンジフラワーの石けんのような花へ移り、最後はバニラとムスクの、肌の温もりに近い甘さへ着地する。原石がゆっくり温まっていくようなグラデーションが、この香りのいちばんの魅力です。パーソナルスペースに収まる距離感なので、職場でも、近い距離で人と会う日にも使いやすいと思います。

入口の主役は白桃。淡い甘さとなめらかな果肉、透明な水分感を持つ、上品なピーチノートです。同じ桃でも、ジューシーに振り切らないところがこの香りの品の良さにつながっています。その甘さを引き締めるのが烏龍茶です。発酵茶らしい香ばしさと乾いた渋み、花のような余韻を持つノートで、ここでは「淹れたての湯気」に近い透明感として使われています。そして中盤で香りを開かせるのがスズラン。白い小花と青い茎、朝露を思わせるグリーンフローラルで、清潔な石けん感の核になっています。冷たさと柔らかさをつなぐ、大事な蝶番のような存在です。


白いシャツに残る、サボンと花のやわらかさ

アイアムの「チャプター65」は、清潔感を強く主張するというより、白いシャツや柔らかなニットに似合う、粉をはたいたようなフローラルムスクです。レモンとベルガモット、サボンの明るい入口から、ヴァイオレットとオレンジフラワーの花束へ。最後はムスク、サンダルウッド、アンバーが肌に近い温もりを残します。香水を目立たせたくない朝や、人と近い距離で過ごす日に選びやすい一本です。

サボンは石けんを思わせる清潔な白さで、柑橘の明るさを花へつなぎます。中盤のヴァイオレットは、淡い花とひんやりした粉感を加え、チャプター65のあどけなさを形づくる存在。ラストのムスクは、柔らかな布や清潔な肌に近い温もりを残し、花束を静かにまとめます。


ドラッグストアの棚にある、幻の名香

1978年に生まれて、いまも日本のドラッグストアで手に取れる。そう聞くと、ごく身近な男性用コロンという印象かもしれません。でも資生堂の「タクティクス コロン」は、海外のヴィンテージ市場では驚くような高値で取引される、カルト的な名香でもあるんです。日本にいると当たり前に買えて、外から見ると幻。この二重性が面白い一本です。

香りは、まず青さで目が覚めるような鮮烈なグリーンから始まります。ガルバナムとジュニパーベリーが一気に立ち上がり、そこから松や杉の針葉樹の空気へ移って、最後はオークモスとムスクの、上質な石けんのような清潔感に着地します。甘さで押してこないので、オフィスにも合いますし、男性向けとして生まれた香りですが性別を問わず楽しめます。シャツ一枚で過ごせるようになる春から初夏に、とくに似合うと思います。

この鮮烈な入口を作っているのがガルバナムです。青い葉を折ったときの苦みと、樹脂のような鋭さを持つノートで、香りの最初に張り詰めた緊張感を与えてくれます。中盤で顔を出すのはパインツリー。針葉樹の林に入ったときの、乾いた空気と樹脂の清涼感を運んできます。この松の存在があるから、グリーンが草っぽさで終わらず、森の奥行きに変わっていくんです。そして最後を締めるのがオークモス。苔や森の床を思わせる落ち着いた苦みが、石けんのような清潔感に陰影を加えます。クラシックな香水の骨格を支えてきた素材で、この一本が長く愛されてきた理由もここにある気がします。


今回の5本は、どれも日本の生活や季節の記憶と地続きにあります。香りの分類だけでなく、「どんな場所や時間をまといたいか」から選んでみると、しっくりくる一本に出会いやすいと思います。気になった香りがあれば、ぜひエピソードもあわせて聴いてみてください。実際にまとったとき、どんな風景が浮かぶかも楽しんでみてください。

この特集で紹介した香水

  • 侘助侘助

    暁の茶事を主題にした、墨染めの薔薇と龍脳の静けさ

  • トランプ クラブトランプ クラブ

    深蒸し緑茶と紫蘇で和の空間を描く、完全国内生産の一本

  • 01 Mineral01 Mineral

    冷たい鉱物の名から肌の温もりへ移る白桃と烏龍茶

  • チャプター65チャプター65

    サボンとパウダリーな花、ムスクが清潔な肌の記憶を描く一本

  • タクティクス コロンタクティクス コロン

    日本のドラッグストアで買えて、海外では幻とされるグリーンの名香